救援
オレ達は駆け出す、だが遮るように鉄球を振り回す男が立ちはだかった。
「行かせるか!俺は勇星教団C級勇者『豪鉄球のバンザム』!」
そう言うと鉄球を飛ばしてきた。鎖の付いた鉄球が眼前に迫ってくる。
オレは大山羊の背に伏せるように躱し、右手で『黒霧』を抜く。
黒く光る刀身が太刀の長さになり鎖を断ち切った。鉄球が後方へ飛んでいく。
「何、馬鹿な!」
驚愕しているバンザムと名乗る男を袈裟切りにしながら駆け抜けた。
「お見事!」
すぐ後ろを走る秋山殿が声を掛けられた。
訓練や試合ではなく、真剣で殺すつもりで初めて敵を斬った。
鎧を切りその下の肉を切る感覚、血が顔に飛んだ。
気持ち悪い。北条殿が声を上げたので変な思考に陥ることが防がれた。
「闇系統の強化魔術を付与します。
ルーグ・フェイラ・ドーグ・ロズ・アッグ・ルメン・トリローグ。
ストレンジUP・バイタリティUP・デクスタリティUP」
北条殿からの付与魔術が放たれ、オレの身体に黒い光が一瞬灯った。
その瞬間身体が軽くなり、力が漲るのを感じた。
凄いこれが強化魔術。しかも一度に三つの効果。
「ありがとうございます!」
「援護は我らにお任せ下さい」
「お願いします!」
そのまま本陣にひた駆ける。
本陣も激戦のようだ。幾つもの魔術の閃光と敵の叫び声が聞こえる。
「クソっ魔術障壁が固てぇ!何回貼り直されてんだ!」
「大丈夫だ、そろそろ向こうの魔術師も限界のはずだ!」
「いいかお前ら俺ら勇星教団C級勇者『炎弾三兄弟』がもうすぐ魔術障壁を
ぶっ壊す!そしたらまたすぐ突っ込め!」
「決してピンク髪の呪い姫は殺すなよ!生きて捕らえれば報奨金が出るぞ!
「おおー!それ以外になかなかイイ女が何人かいたな」
「ヘヘへっ!それは後でのお楽しみだな!」
下卑た笑い声がそこら中で聞こえる。不愉快・・・・・。
三人の魔術師と100名位の兵が弓で遠距離から攻めている。本陣は緑色の障壁で守られているが周りには吹き飛ばされ黒こげになった兵が折り重なっていた。
中心で魔防障壁を貼っているフェリ様とラナー姉様が見える。後ろには何人もの家人であるメイドや下働きの老人がいた。
アヤメとマリアが70人余りの兵と障壁の前方で隙を伺っているようだ。
皆、傷を受け火傷を負っている。
きっと何度も隙を見て突撃をしたのであろうか。
矢が放たれている。三人の勇者の詠唱の声が響いている。
「まずいですぞ。あれを放たれては持ちますまい」
北条殿が叫ぶ。
オレは大山羊に拍車を掛けながら刀を鞘に納めると両手を前に突き出した。
「銀月」
銀色の球体がスルスルと前に進んでいく。
詠唱が終わった三人が叫んだ。
「爆炎弾×3!」
大人が両手を広げた位の大きな炎の弾が3つ、結界に飛んでいくかに見えた。
「ハハハハハっ!喰らえーーーーっ!」
だが軌道を変えて銀月に吸い込まれていく。
「な!馬鹿な!」
オレは赤く膨らんで明滅する銀月を勇者達の中心に落とした。
爆音が轟き、人が嘘のように宙を舞った。
辺りを爆炎が包み火だるまになった人が崩れ落ちる。
オレは戦慄した。火の中位魔法3つ分の威力は凄まじい。
密集したので敵とはいえ一体何人を・・・・・・・。
いや考えるな、手加減なんてしている余裕はないんだ。
「残敵は我らが倒します。リョーマ様は本陣へ」
秋山殿が言い、北条殿と共に生き残った数十人の敵に突っ込んでいく。
大山羊の突撃で敵が吹っ飛び、刀の閃きと共に斬り倒されていく。
北条殿も短い詠唱の魔術で確実に倒している。
2人とも手練れだ。
魔術障壁からアヤメや兵達も飛び足して行った。
「リョーマ君!」
遠くからラナー姉様の声がする。
本陣に駆けていく。周りは敵味方倒れた兵や魔術で大地に所々穴が空いていた。
大山羊を降り中心に駆けこむ。
「ご無事ですか!」
「あぁっリョーマ!」
疲れた顔をしたフェリ様がいた。
白の司祭服にフードを頭まで被り、水色の魔石の付いた長杖姿だ。
良かった無事だ。
「フェリ様、大丈夫ですか?って顔色が悪いですよ!」
「ええ大丈夫と言いたいですが、敵の突撃を受けて兵の何人かは・・・・・」
フェリ様は倒れた兵のことを言っているが、顔色が真っ青だ。
オレは近づき、そっと額に手を当てた。
熱いかなりの熱だ。小声で話しかけた。
「無理しましたね。正直に言って下さい」
「・・・・・少し・・・魔力を使い過ぎました」
「コレット!魔力回復薬はあるか?」
コレットが駆けてくる。
「はい。これにございます!」
そう言って差し出されたポーションを物憂げに飲み干す。
「ありがとう・・・・・少し楽になりました」
淡く微笑んだ。
コレットが椅子を持ってきた。
「リョーマ先程のは?」
「フェリ様オレは月の聖導師になりました。月詠の導師です」
「まぁ!おめでとうございますリョーマ・・・・・」
オレは微笑んだ。皆の賞賛も嬉しいがフェリ様に言われるのが一番嬉しい。
だが今はそれどころではない。
「フェリ様座って下さい」
「ですが負傷者の治療を・・・・・」
この方はまた自分より他人を優先しようとする。
「ダメですよ。今は無理ができない身体の状態では無いですか」
「でも・・・・・必要とされているなら、私の治癒魔術を・・・・・」
「失礼します」
北条殿と秋山殿がやってきた。残敵は掃討できたようだ。
「お初にお目にかかります。フェリネシア殿下」
そう言うと2人が膝を付き貴人に対する礼をした。
「リョーマこちらの方々は?」
「はい、櫻倭国から私を訪ねて来られた北条殿と秋山殿です」
「まあ島嶼諸国連合の!そのような遠くから・・・・・」
そう言うと居ずまいを正した。
「フェリネシア・レアル・アークレインです」
優雅なカーテシーをした。
「櫻倭国一等参事官を努めます、北条 宗近と申します」
「櫻倭国一等武官を努めます、秋山 太郎左衛門と申します」
「まあリョーマはいつのまに櫻倭国の方とお知り合いに?」
「ホホホホホ、その辺りのお話は後程に。私は座主様より殿下の状況などお聞きしております。そのうえで申し上げます。これ以上魔力をお使いになるのはお身体にさわります。私は治癒魔術も使えます。殿下にお使いしてもよろしいですかな?」
「はい・・・・・ありがたいのですが・・・・・」
「ご安心ください。その後他の負傷者の治療も致します」
「ありがとう存じます。ではお言葉に甘えて、お願い致します」
そう言うとゆっくり椅子に腰を下ろした。
「北条殿お願いします。コレット頼むね」
オレはそう言ってコレットを控えさせた。
「承知しました」
フェリ様を任せ周りを見る。
アヤメが秋山殿と話をしていた。
マリアが走り寄ってくる。
「マリア、無事か?」
少し煤けているようだが大きな傷は無さそうだ。
「大丈夫だよ!私だって強いんだよ」
ニッと笑うと鉄鋲の付いたゴツいガントレットの拳と拳を合わせた。
八芒星に三日月、聖月山の紋様の染めの入った道着を着ている。
「若様、叔父様と一緒だったのですね」
アヤメが秋山殿とこちらに歩いてきた。
頭に鉢がねを巻き、身体に鎖帷子、黒革の胸当て、手甲、短めのスカートに脛当て付きのブーツだ。
櫻倭国の『くのいち』と言う女軽戦士の装備だと聞いたことがある。
スラっとしたアヤメにはよく似合っていて、煽情的ですらある。
オレがアヤメに見とれていると、急に妖し気に微笑むと流し目を送りスカートを少したくし上げた。太ももが眩しい。
「コラっ!リョーマ様を誘惑するな!」
秋山殿が頭をはたいていた。
舌をペロっと出してこちらにウインクを飛ばしてきた。
余裕そうで笑みがこぼれるがアヤメってこんなキャラだったか?
「親戚だったのですね?」
「はい。お話ししていませんでしたが、若様が城に上がっていた3年間、櫻倭国に帰国して『くのいち』の修行をしていました。太郎の叔父上ともその時再会しました」
秋山殿が首肯して微笑んでいた。
「左様、リョーマ様が赤ん坊の頃アヤメと共に付き従った乳母のキキョウは私の姉です」
「そうだったのですね!キキョウは私が7歳の時に亡くなりました。
すごく可愛がってもらって、オレも大好きでした」
今でもはっきりとアヤメによく似た優し気なキキョウの笑顔は覚えている。
それにしても普段、クールで他人と距離を置くアヤメが自然な笑顔でいるのが新鮮に感じた。
「リョーマ君!あの銀の玉は何だったの?火の魔術を吸い込んでいたけど?」
ラナー姉様が聞いてきた。
黄色の魔石の着いた長杖を持ち、白のローブにはオレンジ色の革で補強がされていて、首から金色のアミュレットを付けている。
「あれは『銀月』という月の聖導師しか使えない魔導だよ。魔術を吸い取って敵にぶつけることができるんだ。ラナー姉様も大丈夫ですか?」
「うん平気だよ。やっぱり月の聖導師に!すごいよ!
リョーマ君が来てくれて良かった。あれ以上はやばかったよ」
ラナー姉様が笑顔で近づいてきて、更に何か話そうと口を開きかけたその時だ。
「敵襲!5時の方向、空中にペガサスナイト。およそ300騎」




