偃月兵団 VS 勇星教団
「・・・・・ん?・・・・・」
外の音が騒がしい。
今は何時位であろうか?あれから食事をし早めに休んだが、天幕の明り取りの
隙間から見るに夜は明けてない感じだ。だが十分に休んだ、疲れはない。
急いで起き出し鎧を着ていると爺が入ってきた。
「若、お目覚めで。領境に向かう軍の動きがあるとのこと。用意が出来次第、
大天幕へお越しくだされ」
「分かった」
オレは支度を急ぎ大天幕へ向かう。
辺りはまだ暗いが夜明けまであとわずかという感じだ。
大天幕の篝は多く焚かれ辺りを照らしていた。
中に入ると多くの兵が集まっていた。
「父上!」
「リョーマか?」
「軍が動いていると聞きました。ベルレイト王国軍ですか?」
「いや、勇星教団の団旗が確認された。だが王国側の領境に向かう500余りだ。陽動であろう」
「本命は?」
「中屋敷にいるフェリ様だろう。あとお前だ」
「オレですか?」
「そうだ。聖導師は奴らにとっては邪魔な存在だ。覚醒直後の弱い状態なら確保して幽閉して洗脳するなり利用価値はあると思うだろうな」
ゾッとする。だがもう無力なオレでは無い。父上はじめ仲間がいる。
「帰還を急ぐぞ。赤い流旗が出せれば万全だ」
「中屋敷への連絡は大丈夫でしょうか?」
「伝令がそれぞれに向かっている。あちらはメルーサがいる大丈夫だ」
ラザンが天幕に入ってきた。
「間もなく全軍出れます」
「よし。ラザン恐らく中屋敷に別動隊が動く可能性がある、そちらが本命だろう。
伝令が来るか異変が見られたら二手に分けるぞ。リョーマを連れて先行しろ」
「承知」
ラザンが天幕を出ていった。号令の声が響いている。
「リョーマ聞いての通りだ。あと北条殿と秋山殿もお前と共に行かれる。
お助けいただけ」
「よろしくお願いいたします」
父上の脇に控えるお二人に頭を下げた。
「リョーマ様よしなに」
「行くぞ」
父上の後ろに従い外に出た。
兵が大山羊の手綱を取り整列している。
オレも最前列に行きダンから昨日の大山羊の手綱を受け取った。
ぶち模様の大山羊が頭をこすり付けてくる。
首筋を叩き鼻の上を掻いてやった。
大隊長の声が夜明け前の寒空に響いた。
「傾注!」
「これより帰還する。ベルレイト王国側領境付近に500の兵の集結が見られる。
だが陽動の可能性がある。本命は中屋敷のフェリネシア殿下だ。急襲が確認次第二手に分ける。第1から第3小隊30名は俺と共に帰還。赤い流旗を出すのが最優先目標。残り部隊は全て大隊長が率いて中屋敷に向かう。フェリネシア殿下の護衛と本陣の守備任務だ」
父上の声が夜明け前の大気に響いた。あえてオレのことは省いたようだ。
「騎乗!出発!」
オレは父上の部隊30名の進発後、ラザンと共に出発した。
並み脚で進む朝の大気は冷たく身が引き締まって心地良い。
「リョーマ様は騎乗も達者ですね」
秋山殿に声を掛けられた。
「はい、小さい頃から乗っていました。逆に馬は乗ったことがありません。
大山羊に比べて違いますか?」
「いえほとんど変わりませんな。若干高く揺れますがその程度の違いですな」
流石というべきか危なげなく操っている。北条殿もだ。
「北条殿もお上手なのですね」
「私も若い頃は旅をしていましたから」
そう言って姿勢良く騎乗している。
山をいくつか越え街道に出た。
夜はすっかり明けている。
号令があり騎乗のまま携行食を食べる。
モソモソと固い乾燥パンを水で流し込んだ時だった。
「伝令!」
大山羊に騎乗した伝令兵が飛び込んでくる。
先頭を走る父上の前で声を上げた。
「申し上げます。中屋敷に襲撃、勇星教団の旗印。数三百。
杣道からの侵入を確認。案内人がいる模様・・・その・・・・・」
「ハッキリ言え!」
大隊長に怒鳴られている。
「失礼しました!案内人はジェイド様の模様です」
「あの馬鹿が!聞こえたな、ラザン、リョーマ行け!
大隊長70名の部隊の指揮は任す」
「は!行くぞ速足!」
オレはラザンと共に大山羊を疾駆させた。北条殿達も続く。
先頭のラザンが疾駆と速足を繰り返しながら山道を走破していく。
オレはただラザンのマネをして大山羊を潰さないようにひたすら走っていく。
山を何個か超えるとだんだんと見覚えのある地形が近づいてきた。
また山道に入り頂上に向かっていく。これを超えれば中屋敷が望めるはずだ。
「煙が上がっている!」
眼下に広がる風景に息を飲む。中屋敷は正門から先が破壊されて半壊し炎が上がっている。
その西方にある少し高くなっている丘陵地に陣が敷かれていた。
良かった予定通りに退避ができているようだ。
軍が展開し戦闘が続いているようだ。本陣の辺りは防御結界が展開され淡く緑に光っている。
ここから見る限り劣勢に見える。
双方の兵が倒れている。赤い鎧はメルーサ叔母上だろう。それを囲むように数人かがりで戦っているのが見てとれた。
その周りでも偃月兵団の兵と勇星教団の兵とで乱戦になっていた。
「若、メルーサ殿が勇者共3人を1人で相手している。急ぎますぞ」
大山羊の鐙を蹴りラザンが一気に山道を下っていく。
オレ達もそれに続いた。
やがてはっきりと戦いの様相が見えてくる。
メルーサ叔母上から離れたところで軍同士の乱戦になっている。
明らかに数の上で劣勢だ。だから引き離すようにメルーサ叔母上は孤軍奮闘しているのであろう。
「ラザン様、あちらは我らが!」
大隊長が軍同士の戦いの方を指さした。
「ふむ、頼む」
「ハっ!いいかお前達このまま逆落としで突っ込む!その後反転して半数は短弓に変え遅滞戦闘、指揮はビリア。残りは私と外側から隙をみて削るぞ!他の味方の兵と呼吸を合わせろ」
「若、お二方参ろう」
ラザンが疾駆し、刀を抜き大声を上げた。
「黒夜叉のラザン推して参る!援軍はもうすぐじゃ。赤い流旗も上がるぞ!
者ども奮起せよ!」
ラザンの怒号に仲間の兵達が応と応える。
「援軍だ!押し返せ!」
味方が奮起する。
ラザンが敵を切りながらメルーサ叔母上の元へ疾駆する。
「推参!」
そう叫びながら大きな剣を持った敵に突撃した。大山羊の突進とラザンの斬撃を受けて敵が吹っ飛ぶ。
「ラザン殿、助かったぞ!」
「待たせましたな」
オレ達も駆けつける。
「叔母上!」
頭から血を流し、鎧には数々の傷や凹みが見られる。だが元気そうだ。
「リョーマか!三騎いるな、お前達は本陣に行け。あそこも危ない!
魔術師がいる注意しろ!」
「はい!」




