プレゼント
「それとこちらの品もお納め下さい。」
北条殿はそう言うと秋山殿に振り返り、何かを受け取るとテーブルに置いた。
それは美しい濃紺の拵えの鞘に入った短めの刀だ。
長さは45cm位ある短刀であろうか。
「これは・・・・・・」
「どうぞお手に取り抜いてみて下さい」
手を伸ばして右手で柄を掴んだ。ゆっくりと鞘から引き抜いてみる。
黒色の刀身が鞘から現れる。鞘から刀身が完全に外れた瞬間。
「ん・・・・・?これは・・・・・」
柄を通じて魔力が引き出され溢れだす感じがし、刀身が黒い光を鈍く発していた。
「それは魔斬刀です。銘は『黒霧』。鞘から抜くと魔力を引き出し刃に
纏わせることに特化した武具です。形、長さも自由に変えられます。
想像しながら刃の大きさを変えてみて下さい」
オレは想像した。太刀の長さおよそ七十五㎝程、すると想像通りに鈍く光る黒く長い刀身が現れる。素振りをしてみる。軽いだがバランスもいい。なぜだ?
「振られてお分かりかもしれませんが、長さに応じて柄の長さや重心が変化します」
今度は六十㎝程の脇差を作ってみる。スゴイ!これなら近接戦になった時に有利に戦えるのではないか。
逆にどこまで大きくできるのか?昔書物で見た大偃月刀を想像してみる。
「スゴイ!柄が伸びた!」
刀身は2m位の刃の広い形になり、柄の長さも60㎝程に変化した。
流石に地上では振りにくい。馬上でなら使えるのかもしれない。
「流石です。普通はそれだけの大きさの刀身の維持には十秒と持たずに魔力が枯渇してしまいます。
ですからいざという時に使用するようご説明するはずでした。やはり聖導師、それも魔力回復ができる月詠の導師には非常に相性の良い武器ですな」
「はい、ありがとうございます。素晴らしいです!」
「ただお気を付け下さい。。もし魔力が枯渇すると途端に刀身は脆く欠けやすくなります」
「のう宗近よ、切れ味はどうかのう?それと魔力の続く限り刀身が欠けたり折れることが無いということなのじゃな?」
爺が聞いている、名前で呼ぶ程の仲みたいだ。
「魔力で切るのだから金属の鎧など意味を成さない。魔術付与の武器と同じだ。まあこの特性から必殺の予備武器として使うのだが・・・・・」
「ふむ・・・・・。若よどのように使うと考える?メインウエポンとするのかのう?」
「いや爺。やはりサブかな?普段は通常の刀を使い、奇襲としてスイッチする。
あるいは・・・・・」
「「二刀流」」
爺と同時につぶやいた。
「じゃが若にはまだ膂力が足りぬかな?二刀は使い手を選ぶ。利き腕ではない方も鍛えねばならぬ。まあ今後の精進しだいじゃな・・・・・。そういえば、
シルドニア獣神国にある聖雷山にナダクと言う名の剣豪がいる。訪ねて教えを乞われるが良い。彼奴は二刀遣いじゃ」
「はい。でも急に言って教えてくれますか?」
「わしの名を出し頼めば・・・・・。まあ気にいられればじゃが」
「訪ねてみます」
「リョーマ、イイのもらったな!俺も礼状を書く、お前も送った方にお礼の手紙を書けよ」
父上が楽しそうに言った。
「はい・・・・・。ですが一体誰なのですか?このような貴重で高価な物を送られた方は?」
「それはまだ・・・・・ご容赦下さい」
北条殿が言った。
「でも送り主が分からないのに何て書けば良いのでしょうか?」
「感謝の気持ちと今思っていることを素直に書けば良いさ。戸惑ってることや、あなたを知りたいとかな」
「はい・・・・・」
相手は誰か分からない、だがこれほどの物を赤の他人に贈ることは無い・・・・・。
答えは分かっているんだ、オレは父上や亡くなった母上の実の子では無い。
オレのこの黒髪や瞳の色、顔など家族の誰にも似ていない。むしろラザンや
アヤメの方が系統は似ている。名前の響きもだ。
それに小さい頃ジェイク兄上に言われたことがある。
「お前はうちの子じゃ無い、もらわれた子だ!」と。
それを聞いた父上は兄上を殴り飛ばし、奥の部屋に引きずっていった。
激しく折檻を受けたらしい。
それ以来だ、兄上がオレのことを嫌うようになったのは。
小さい頃はずいぶんと悩んだ、見かねた母上に抱き締められて言われた。
「リョーマ、あなたは私達の子供よ」って。
それで良いと思い信じることにしたのだった。
そんなことを考えていたら北条殿が口を開いた。
「きっとお喜びになります。リョーマ様、あとこれを」
北条殿がカードを差し出した。まだあるのか、何だろう?
「これは?」
「世界銀行のカードです。白金貨10枚程入金されております」
「白金貨?・・・・・そんな!大金じゃないですか!」
白金貨1枚で金貨100枚分のはず。金貨1枚あれば4人家族が都会で余裕を持って
1ヶ月暮らせる金額それを・・・・・。
「お小遣いだと言われていました」
「お小遣いって・・・・・」
オレが目を白黒させていると父上が
「リョーマよ金は多すぎて困るもんじゃねえ。ありがたく貰っておきな。
ようは生きる金にすれば良い。大きな力を得ようとしているお前は、これから様々な困難にぶつかることもあるだろう。その時に金の力で解決できることも多くあるはずだ。だが時には馬鹿なことに使ったって良いんだぜ。それも経験だ。
嫌でつらくなった時、色街で女に慰めてもらったっていいんだぜ」
「そんなことには使いません!」
「まあ若く純情なお前にはまだ分かんねえかな。長く生きればそういう時もあるということだよ」
しみじみと父上が言う。
そういうものなのかな?
「リョーマ様、転移をした天翔石は2年程で魔力が回復すると思います。
その時までにはこちらも落ち着くと思います。その頃改めてお伺いします。その際は是非お会いしていただきたい方々がいます。御同道いただければ幸いです。また変事があったりお困りの時はお知らせ下さい。すぐにでもお迎えに参ります」
そう言うと北条殿は恭しく頭を下げた。秋山殿もだ。
「こんなにも良くしてもらって感謝の言葉もありません。状況の許す限りお応えしたいと思います。本当にありがとうございました。でもどのように連絡をつけたらよろしいのですか?」
オレも深々と頭を下げながら訪ねた。
「ラザンかアヤメにお尋ね下さい」
「・・・・・二人は知っていると?」
オレはラザンを見た。
重々しくラザンが頷く。
「ラザンまだ・・・・・」
北条殿が言いかけると。
「分かっておる。若も今はご容赦くだされ。いずれ時がくればお話致す」
「わかった・・・・・」
そう応えるしか無いよね。それに深く考えてしまえばオレの生まれについても・・・・・・。
北条殿は微笑んでいた。
「さてリョーマよ。オレからも渡す物がある」
父上はそう言うとラザンに目で合図を送った。
頷いたラザンが天幕を出て兵2人に長びつを持たせ入ってきた。
父上が蓋を開けると中には太刀と軽鎧のような物が入っていた。
「どちらも聖月山で作らせた物だ。太刀は今のお前の身長に合わせて、少し短めの70cmミスリルに黒鋼を合わせている同田貫の厚刃だ。銘は『清正』。
実戦向きの頑丈な刀だ。
鎧はワイバーンの革にミスリルの合板で胸から腹へ補強させている軽鎧だ。
お前は回避、急襲型の戦闘スタイルだろうから軽快さを重視している。
いいかリョーマよ。太刀にしろ鎧にしろその時々で最良の物に変えていけよ」
「はい。ありがとうございます」
オレは素直に頭を下げた。
本当に恵まれている。父上やラザンが良く考え吟味した物だと分かる。
「お前の天幕は隣に用意してある。明日も早い、飯を食ったら早めに休め」
「はい父上」
オレは二人に改めてお礼を言い、大天幕を出ると隣の自分の天幕に入り、礼服を脱いで鎧を付けてみた。
軽鎧だけに1人でも着用可能だ。ワイバーンの革は丁寧に鞣してあり、黒漆を塗って更に強度を増している。
色見も黒とミスリルの青みがかった銀色とよく合う。ミスリルの合板もかなり薄めだがそれでも矢ぐらいは容易に防げるし剣激もある程度ふせげるのであろう。肩の稼働も妨げず、問題無く振れた。
太刀と脇差も帯びてみる。
鏡が無いのが残念だ。
太刀を抜いて軽く振ってみる。バランスもとても良く手にも馴染む。
悪くない。
脇差も抜き二刀構えてみる。
抜いた瞬間から魔力が吸われ刀身を鈍く輝かせた。
二刀の場合どう構えるのが正解なんだろう?
色々試していると突然天幕の入口が持ち上げられた。
「リョーマ様お食事の用意が・・・・・」
ダンが立っていた。
目が合いお互いが固まる。
「お取込み中でしたか?」
「いや・・・いいんだ。行くよ」
オレは赤くなりながら二刀を鞘に納める。
「新しい刀と鎧ですか?カッコイイっす!」
「あ、ありがとう」
少し恥ずかしいなぁ・・・。
ダンに続いて天幕を出た。
空はすっかり暮れ、天には丸い月が輝いていた。




