セイドリアの憤り
__________セイドリア・レアル・アークレイン視点__________
「んん・・・」
微睡む、ここは自室か?何気に窓を見る。
朝焼け前か、いや違うか、夕方というより夜の入りか?
なぜこんな時間にベッドで寝ているのか・・・・・。
徐々に記憶が甦る。
ハっとした、なぜこうなった?
私はアイツに昏倒させられた。
いつも口数少ないくせに、変な時に正論をぶつけてくる。
本当にムカつく奴だった。
だが剣の稽古では打ち返しもできず、躱すか防御ばかりの腰抜けが・・・。
あんな奴に負けたのか、この私が・・・・・。
腹が立ってくる。
水差しがあり、乱暴に水を注ぎ一気に飲み干す。
生温い水が不快だった。
クソっ。
グラスを床に叩きつけた、甲高い割れた音が明かりの灯らない部屋に
虚しく響いた。
まぁだが仕方が無いのかもしれない、なんせ奴は聖導師になったのだからな。
きっとジョブのおかげで急に力を得たのであろう。
弱いくせに・・・・・そんなものになれた途端に調子に乗って、強者ぶり
やがってクソが!
「おい、誰かあるか?誰か!」
グラスの割れた音もしただろうに、近習はおろか、侍女も来ないなんて。
次期国王のこの私に・・・まったく。
「おい誰か!・・・ゴリアス、どこだ!」
仕方なくベッドから出た。服は儀式の時のままだ。
多少皺になっているが構うものか。
部屋を出るが近習はおろか警護もいない。
まったくどういう教育をしているのか、いずれは勇者にもなる私に。
イライラしながら廊下を歩きながら、ふと思い出す。
そうかこの時間は中広間で学友になる者達との宴か。
「ならゴリアス達がいなくても仕方が無いか」
まあ寛大さも次期王としては無いといかぬからな。
あいつらのことは許してやろう。
などと考えながら廊下を歩いていると、中広間の扉の前にたどり着いた。
音楽と話し声が微かに聞こえてくる。
扉の前には典礼係と護衛の兵らしき2人の者が何故かこちらを見てギョっと
していた。
「殿下・・・」
「扉を開けよ」
一瞬3人は目線を交わしたが、典礼係が頷くと2人の兵が扉を開けた。
緩やかな音楽と話し声が鮮明に聞こえてきた。
ホールの中では歓談に夢中のようだ、踊る者は誰もいないようだ。
「ずいぶんと盛り上がりに欠けるようだな」
思わず声が出ていた。
気付いた何人かがこちらを見てギョっとしていた。
何ださっきから、先程の扉の前の者といい。
「おい、ゴリアス!ゴリアスはどこだ!」
辺りを見まわす、ゴリアスはおろか他の近習達もいない。
どういうことだ?
誰もよって来ない、仕方が無いので近くにいた男に声をかけた。
「おい、ゴリアスを知らぬか?近習たちでも良い。どこに行った?」
「で、殿下・・・・。それは・・・・その・・・・」
要領を得ぬ奴だ、使えん。
周りを見渡す、皆なぜか目を逸らす。
ええい、使えん奴ばかりだ!
「誰か答えよ!」
ふと奥の席に見知った顔を見た。
「レティーではないか!」
私は歩を進めた。見ると他にオスワルドやルドレムなど身分が高い家の
者達が集っていた。
まあそうか身分差もあり、下級貴族達は答えられなかったのか。
「レティー、ゴリアスはどうした?他の近習達は?」
レティーの顔には困惑の色が浮かんでいる。
「おい、答えよ」
神妙な顔をして変な奴だ、だが顔も体も私好みだ。
早く婚儀を済ませて、思うさまに嬲りたいものだ。
「ゴリアス卿や他の近習達は謹慎となり、各家に引き取られました」
「謹慎だと・・・私は聞いていない。なぜそんなことになっている?
誰がそのようなことを決めたのだ?」
周りにいる者の顔を見渡す。
ん?こいつらは目を逸らさない・・・何だ?
レティーが立ち上がった。
「なぜと聞かれますか?分からないのですか?」
「お前はバカか、分からないから聞いているのであろうが!」
「バカはどちらですか!あれだけのことをしでかしておいて・・・
本当に分からないなんて・・・・・」
この女!怒りが沸々《ふつふつ》と湧いてくる。
「おい調子に乗るなよレティ!お前は私の妻になる女だ。
今から躾なきゃならぬようだな・・・・こちらに来い」
腕を掴んで無理やり立たせようとした。
「おやめなさい!」
レティがキっと睨む。反抗的ではないか、だがそそる表情だな!
このまま部屋に連れ込んでヤッテやる。
フフフ興奮してきたぞ!
「やめろセイドリア卿」
私の腕をオスワルドが掴んだ。
レティが私の手を振り払う。
「無礼者め!放さぬか!」
「無礼はどちらか?」
ギロリと睨まれた。こいつ私を何だと思っている!
振り払って腕をほどいた。
「そ、そうだレティーネス嬢に触るな!」
太っちょルドレムまで私に逆らうか!
「デブは引っ込んでいろ」
私はルドレムを突き飛ばした。
無様に尻もちをついている。
これだけで泣きそうになっているではないか。
無様なやつめ。
「もうやめて!恥ずかしくないのですか?」
何だこの女は?ん・・・式典の時の女か・・・
じろりと睨んだら怯えの表情になった。
フフそそるではないか!
「そう怯えるな、先程は悪かった。そうだ詫びとしてレティと一緒に
私の部屋に来い。何か宝石でも贈ろう」
私はとびきり魅力的に見える微笑みを浮かべた。
どうだ?
「お断りします!わたくしにはリョーマ様という心に決めた方がいます!
誰があなたのところなど行くものですか!」
リョーマだと、この女よりにもよって
「貴様!」
私は腕を振り上げた。
「キャアー」
パン乾いた音が響いた、頬が痛い。
頬を張られた・・・・・。
この私の顔を・・・・・。
レティだった。
父上にもぶたれたことが無いのに。
「いい加減にしなさい!誰もあなたの所になど行きません。
これ以上醜態を晒さないで下さい。
もうお部屋にお戻り下さいませ」
「貴様!・・・婚約者でありながら、次期国王の私の顔を張るなど
許されると思っているのか!」
怒りで呼吸が荒くなる、何としても部屋に連れ込んでやる!
「そこまでです。殿下・・・セイドリア様」
冷静な声だ。父上の家令のトリスタンか。
「止めるなトリスタン!将来、王族になるための教育を行うのだ!」
溜息をつかれた。
「セイドリア様、よく聞いて下さい。レティーネス様、ハートレイン家との
婚約は先程正式に破談となりました」
「な・・・・何だと・・・・どういうことだ?」
「言葉の通りにございます。旦那様のところに参りましょう。
詳細は旦那様にお尋ねください」
「レティーどういうことだ!お前はそれで良いのか!」
レティが私を見た。
何だその憐れむような眼は・・・・・。
「申し訳ございません。わたくしが望んだことですわ」
「ふざけるなーー!!」
私は掴みかかろうと手を伸ばした。
だが後ろから羽交い絞めにされた。
見たらトリスタンときていた、護衛らしき筋肉質の男だった。
「放せ、誰だ貴様は!無礼であろうが。トリスタンやめさせろ!」
「セイドリア様このまま大人しく旦那様のところに行ってはいただけませんか?」
「放せ!誰がいくか!放せ!」
「やむを得ないですな・・・・。おいやれ」
「ああ」
羽交い絞めが解かれた、だが右肩を掴まれ向きを変えられると、いきなり鳩尾を殴られた。
「グハっ・・・」
痛み、吐き気、胃液が出てくる。
その場に膝を付く。
「貴様・・・・私にこんなことして・・・た、タダで済むと思うなよ・・」
「そりゃどうも。オレの雇主は公爵閣下でしてな、その閣下から抵抗したら、力ずくで良いと言われたのですよ。悪く思わんでください」
そう言うと脇に腕を入れ、無理やり立たされた。
慌てて鳩尾を隠す。
だが顎を殴られたところで意識を手放した。




