レティーネス嬢の憂鬱
______________レティーネス視点________________
あの衝撃的だった選定の儀から3時間は経ったであろうか、
城内の中広間では楽士達による優雅な曲が演奏されている。
本来であれば今この時、何かと口うるさい親や侍女達の監視も無く、
来年からの学友達との歓談やダンスに興じている時であろう。
しかし誰1人として踊る者などいなかった。
皆何人かとグループになり、先程のことを話しているようだ。
曰く「殿下のやったことは許せない」
曰く「将来のこの国の王にはふさわしくない」
曰く「ダークカーズヒュドラに単独で挑むなど馬鹿か・・・」
曰く「失った兵の補充、我が領からも出さねばならぬか・・・」
曰く「本当に戦争になるのか?」
曰く「騎士団に入ろうかと思ったが考え直すべきか・・・」
曰く「留学という形で他国での道を探った方がよいか?」
などは男子達の話題であった。
一方女子達はというと
曰く「殿下にはガッカリしましたね」
曰く「殿下の所為で呪いを撒き散らして、王妃様や王女様がお可哀そう」
曰く「月詠の導師リョーマ様、素敵でしたわ」
曰く「許嫁とかいらっしゃらないのでしょうか?」
曰く「お近づきにないたいですわ」
曰く「ああ、本当にお強くてカッコ良かったですわ」
曰く「来年、同じ学舎でご一緒できるのが楽しみですわ」
というリョーマに関することばかりだった。
確かに圧倒的な強さとメイヤを颯爽と救う姿など、どちらが
本当の王子様かと思ってしまう。
私も胸がトキメキましたわ・・・・。
でも他のみんなのように単純に胸を熱くさせてはいられないのが
現状だ。何せ殿下の元婚約者でもあるし・・・・・。
正直、婚約が破断になって心からホッとしているのは皆には内緒である。
5歳の時であろうか、初めて殿下と顔を合わせて将来この方と結婚する
のだと言われた時は、子供ながらに胸が高鳴ったのは覚えている。
その当時から見た目は秀麗でいらしてたから。
しかし大きくなるにしたがって、聞こえてくる噂や、実際接してみると
どんどん冷めていくばかりだった。
傲慢で我がまま、まぁこれは高い身分の子弟ではよくあることかもしれない。
私の母は子爵家から嫁いだことで、身分の高い家の傲慢さは良くない
ことだと教育されてきたから気をつけることができた。
そこは長じるにしたがって良くなるのかもしれない。
でも10歳の時に近習として仕え始めた、リョーマ様へのイジメは
執拗で陰湿だった。
それを主として自ら行い、また近習達と一緒になって悦にいっている姿など、これが将来夫となり国を統べる者になるなど、暗澹とした気分になった
ものだ。
12歳になり立太子にされてからはさらにひどくなった。
手あたり次第に侍女に手を出し、孕ませ堕胎させたなど聞いたときは泣きたくなった。
それでも私は国を支える四大公爵家、ハートレイン家の者なのだ。
そんな王子でも支えていかねばならないと、義務感だけで頑張ってきた。
現在、赤い流旗を出された国のありよう、『真勇魔討』に派兵するための失われた
500の兵の補充など問題は山積みでしょう。
父母らが集まり、同じように興されている大広間の方では、きっとここより陰鬱な会になっていることでしょう。
そんな思考の海に沈んでいると声をかけられた。
「レティー様、ちっとも食べていらっしゃらないではありませんか?」
そう言うのはミレイユ伯爵令嬢だった。
「ええ何だか食欲が湧かなくて・・・・・」
「そうですわね・・・元婚約者とはいえあのようなお方とは・・・
ショックですわね・・・・・」
その言葉には淡く微笑むことで答えた。
何気に卓の反対側に視線を向けて目を見張った。
メイヤがモリモリと肉を頬張っていたのだ。
「・・・・・・」
視線に気付いたメイヤと目が合う。
「どうしたのですか?レティー様、マジマジと見つめて。
私の顔に何か付いていますか?」
「様はいらないわ。いえ確かに右の頬にお肉のソースが付いているけど
・・・。凄い食欲ですね、席に着いた時は放心状態だったのに・・・」
慌ててハンカチで頬を拭きながら
「フフ、そうかもしれません。だってあまりにもリョーマ様が
カッコ良くて素敵だったので。今でも思い出すと胸が高鳴りますのよ」
頬に手を当てウットリとしている声に、周りにいる女子達が一斉に
同意と歓声を上げた。
そんな風に歓談をしていると男子から声をかけられた。
「レティーご機嫌用」
「まあオスルご機嫌用」
顔を上げるとオスルと他数名の男子達だ。
「メイヤもご機嫌用」
「オスルご機嫌用・・・様と言いそうになるけど本当によろしくて?」
メイヤが小首を傾げて問うた?確かに親しい私はともかく、伯爵令嬢と
しては遠慮もあるだろう。
「構わない。リョーマともそう呼び合うと決めたでは無いか」
そう言うと微笑まれた。黙っていると少し強面かと思ったが笑顔は
意外と柔和で親しみがもてた。少し周りの女子が色めいている。
「そう、良かったですわ」
そう微笑むメイヤを見て幾人かの男子が顔を赤くしていた。
メイヤの微笑みにはとても華があると思う。
「それにしても今日は驚くことばかりだったな」
そう言ったのはルドレム様だった。
この二人は仲が良かったのかななどと考えていたら話を向けられた。
「レティーネス嬢。その・・・・・大丈夫ですか?」
小太りだが意外と真摯な顔で心配された。子供の頃に少し話した程度だったが、案外まともなのかな?などと考えながら答えた。
「ええ・・・・。ご心配ありがとう存じます。大丈夫だと思いますわ」
そう応えて微笑むとルドレム様は顔を赤らめた。何故だろう?
「そ、そうか・・・ならば良いのだ・・・・な、何かあったなら・・
私に・・・・」
しどろもどろの様子のルドレム様を不思議に思って見ていると、周りが騒然としていることに気付いた。
皆が開いた扉の辺りを見つめてヒソヒソ話している。
視線を巡らせ呆然とした。
「・・・!!・・・」
殿下が入ってきていた。
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