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呪い姫を抱きしめたら月詠の導師に覚醒したので、王子を〆て姫を救う旅に出ます  作者: 輪三


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王国の行く末 (登場人物紹介 ①)

「な、何をしている騎士団、奴らを討ち取れ!」


殿下が叫ぶが、動いた騎士が次々と矢で脚を射貫かれていった。


悲鳴と共に騎士達が脚を押さえ転がりもだえている。


それは城壁の上にいる10騎の長弓隊からの射撃だった。


「動くなよ。上にいるのは聖樹山のエルフからもらったエルダートレントから作った長弓と聖岳山のドワーフが鍛えたミスリルと鋼の合金の矢だぞ。並みのプレートメールなら余裕で貫くぞ」


そう言った父上の前に一際大きい茶色と白の毛色の大山羊が引かれてきた。それにハラリとまたがる。

オレやラザンにもきた。

久しぶりの騎乗だ。オレは連れてこられた茶色と黒のぶち模様の大山羊の首筋を叩きまたがった。


「グルゥー」


嬉しそうに鳴き声をあげる。

ラザンも跨り、一番先頭に歩を進めた。

もう一頭、誰も乗せて無い白い大山羊がいた。そこに会場の方から1人走ってきて飛び乗った。

ダンか!鞍に付けてある短弓の弦を張って調子を見てからオレを見てニッコリ笑った。手を上げ応える。


「クソっ!」


殿下が会場の参列者の方に走った。殿下と分かる所為か長弓隊も討つのを躊躇ためらった。

途中倒れている騎士の剣を拾い走って行くのを見て、参列者が逃げていく。

オレは騎乗した所為せいでかえって対応が遅れてしまった。

慌てて大山羊を走らせる。

悲鳴を上げて逃げる参列者の中、1人の女性が腕を掴まれ殿下に後ろ手に拘束された。

首元に剣を突きつけている。


「動くな!」


「キャアーー助けて、リョーマ様!」


絹を切り裂くような悲鳴。緑のドレス、メイヤ嬢だった。


オレは大山羊を止めた。距離は10メートル余りか。

刺激しないようにゆっくりと大山羊から降りた。


「上の弓兵も動くなよ!リョーマお前も動くな!」


眼を血走らせて叫んでいる。


周りからは


「メイヤ様!」


「人質を取るだと!これが王子のやることか・・・・・」


「やめろメイヤを娘をお放しなさい!」


父親だろう男が叫び。


「ああ・・・お願いあの子を放して!・・・・・誰かあの子を・・・」


母親らしい夫人が卒倒しそうだ。


「リョーマ!刀を捨てろ」


言われた通りゆっくりと鞘ごと刀を外す。


「こっちへ投げろ。ゆっくりだぞ!」


オレは放物線を描くようにゆっくりと刀を投げた。殿下の手前1メートル位に落ちるように。

凝視する。刀が殿下の視界にかる瞬間を見極める。


今までの戦いでは身体能力のみで戦っていた。

今回は違う。

月詠の導師の力を使う。


見極めろ!本当に一瞬だ、殿下の視界を刀が遮った瞬間にスキル発動。


「月瞬」


踏み込む。

10mの間合いを一瞬で詰める。この時のオレは殿下の目の前に飛ぶと意識するだけでこれができた。

周りからは瞬きをしている間に殿下の前に移動したように見えるだろう。

視界を(さえぎ)った刀を空中で掴んで鞘事剣を持っている手を強打。

取り落とす隙に間合いを詰めメイヤ嬢を守るように間に入り手刀で首筋を強打し意識を刈り取る。


「ウぐっ・・・・・」


一瞬だったので悲鳴も上がらなかった。


「リョーマ様・・・・・」


メイヤ嬢が抱きついてきた。

流石に怖かったのだろう。震えて泣いている。


「大丈夫です。お怪我はありませんか?」


できるだけ優しく声を掛けた。


「はい・・・・・」


濡れた瞳でこちらを見つめてきた。頬が上気している。


「メイヤ!」


両親であろう年配の男女が走り寄ってきた。


「お父様、お母様!」


抱き合っている。


オレはそっと離れ、駆け寄って来た大山羊にまたがり部隊の方へ駆け戻る。

周りから歓声が上がった。

騎士団の一部が殿下に駆け寄っていく。


「リョーマよくやった!」


父上の言葉に微笑で返し振り返った。


「さて仕上げをするか・・・・・」


父上つぶやき声を張り上げた。


「お集まりの貴卿きけいらに問う!

今回の殿下の愚行ぐこう、単独ダークカーズヒュドラ討伐の失敗により、失った500名の一般兵は1年に渡って対魔族戦闘の訓練を聖月山でも協力していた。

それは三カ月後の『極北の長城(ジ・ノーズ)』に派兵予定だった部隊だ。

この意味を分かっているのか?」


辺りは静まり返っている。


「『対魔族戦線の協力派兵』は各国の義務。そのために各村や町から頑健な若者を選りすぐって供出してもらった。これは村や町の大切な働き手である若い男が、5年もの長期に渡りいなくなるということだ。


極北の長城(ジ・ノーズ)』は魔族領と人族領との国境を隔てる長大な城壁。

常に魔族との小競り合いが続く最前線だ。

そして各国がそれぞれの分担で兵や金を出し維持している。

ベルレイト王国としては、三ヶ月後に500名の派兵が決まっていた。

民に不満はある、だが過去魔王を倒したすめらぎ家からの協力要請。世界中でこれに参加することは栄誉とされた」


父上が続ける。


「民は不満を押し殺し、自分たちの村や町の者達が勇者と共に真勇魔討しんゆうまとうに参加できる栄誉として協力するんだと。

兄であり弟であり、息子であり、恋人であり、夫であり。最愛の者を戦地に送り出している。

私も次男を聖月山の戦士の一人として送り出している。

親としてどういう気持ちか卿らには分かるか?」


父上はそこで一旦黙り、気持ちを静めてからまた話し出した。


「実利の話をしよう。500名の兵を失ったということは、新たに500名を選び直さねばならぬということだ。

民からまた供出を願うか?

真勇魔討ではなく、殿下の思い付きで殺しておいて・・・・・。

無理だな下手したら反乱が起きるぞ。

それに三ヶ月しか無い、訓練が間に合わぬ。卿らの領地の訓練が済んでいる領兵を回すしかあるまい」


一同が騒然とした。今まで傍観者ぼうかんしゃとして見ていた者達が、一気に自領への都合や損失を考え当事者となったからだ。


けいらこのままで良いのか?あの王子がこの国の後を継いでいくことが正しい選択か?」


一座を見回す。皆黙り込んだ。


「黙りなさい!よくもセイドリアを!ええい近衛兵は何をしているの早くこの者達を捕らえなさい!」


第一王妃クミニーニャ妃が血相を変えて叫びだした。


一瞬躊躇(ちゅうちょ)した金色の鎧の近衛兵が動こうとした。


「ギャア」


動いた3人が矢を受け転がった。


「動くなと言ったはずだが」


ラザンが冷たく言い放った。

第一王妃がギョッとして立ち尽くすのが分かった。

父上がさらに続ける。


「四公爵なら分かるよな八聖山が敵になるということの意味が。

我らと同盟を結んでいる、世界三大強国の帝国、獣神国、島嶼諸国連合も敵に

まわり経済封鎖、旅団規模の遠征軍が来援するということも」


四公とも苦々しげに押し黙ったままだ。


特に公爵筆頭マルフェル・デューケル・フォード公は父上をにらみつけている。

この方はクミニーニャ妃の父君、つまり殿下の祖父としてこの国を裏から牛耳っている男だ。


「ハートレイン公、貴公の娘は殿下の婚約者だったな?良いのか本当に。あんなのに大事な娘を嫁がせて?瞬剣士、才媛さいえんじゃないか」


「・・・・・そうだな・・・あのような愚物だとは・・・・・。

レティーネス。お前に問いたい」


呼ばれたレティーが慌てて前に出る。


「はい、お父様」


「お前が殿下を好きでは無いのは気付いていた。だが婚姻は貴族の勤め。

それをお前も理解し寄り添おうと勤めていたのも気付いていた」


「・・・・・・・」


「だがここからは公爵家の立場では無く、一人の父親として問う。

レティーよ、お前は殿下とげたいか?」


「お父様、先に質問をさせて下さい。お父様は殿下のダークカーズヒュドラの討伐と失敗、その後の解呪の強要の所為でハーディア妃殿下がお亡くなりなったこと。亡骸を勇星教団が奪ったこと、フェリネシア殿下が呪いを受けたことをお知りになっていたのですか?」


「・・・・・知っていた。お前が知ればますます苦悩すると思い黙っていた。

許せ・・・・・」


レティーが哀し気に顔を伏せた。やがてゆっくりと顔を上げ声を上げた。


「私は公爵家の勤めとして殿下といずれ結婚するものと思い、自らを律し鍛えてきました。

ですが・・・・・このなされよう・・・・・私はハーディア妃殿下によくお声掛けいただきました。とてもお優しく素敵な方でした。フェリネシア殿下とは年上の友人とも、まるで素敵な姉のようなお方だと思い、憧れお慕いしておりました。

その方達になんて仕打ち・・・許せません。

お父様、私はこのような方と人生を共に歩む気には到底なれません!」


「分かった・・・・・。クミニーニャ王妃殿下、こたびの件ハートレイン公爵家としても看過できない。殿下との婚約、正式に破断とさせていただく」


「な・・・・勝手なことを言わないで!そもそもこれは陛下がお決めになったことそれを・・・・・」


「なればこそだ。殿下の愚行をおいさめするのが周りの大人の勤め、だがそれを怠ったのが今回の顛末てんまつ。もちろん岳父がくふとなるはずだった私にも責任はある」


オットー公が苦悩の嘆息を漏らした。

父上が口を開く。


「グスタフ卿、卿の甥にあたる第二王妃の御令息ごれいそくはお幾つになられるか?」


はっとした、ジルベルト・デューケル・グスタフ公爵が少し考えて応えた。この人はオスルの父親で軍務大臣だ。


「7歳になる」


「7歳ねえ・・・・・。まあ後は卿らで話し合うことだな」


父上はそう言い唐突に話を終わらせ号令を出した。


偃月兵団えんげつへいだん撤収てっしゅうする!」


大山羊の手綱を引き羊首を返す。


「第一長弓隊は弓弦を引き絞り待機。第二小隊はワシと共に殿しんがり、撤退の援護。

それ以外は座主と若をお守りして撤収。集合先は城門外!」


ラザンが声を張り上げた。


「リョーマ行くぞ」


父上にうながされオレも羊首を回す。その時だった。


「リョーマ様、フェリネシア殿下はご無事なのでしょうか?」


レティーが心配そうに聞いてきた。


「大丈夫です。マークス家で庇護ひごしております。」


「良かった・・・・・」


「お待ちくだされ!聖導師リョーマ殿。本当に我が国と敵対してしまうのですか?は、話し合いをお頼みできませぬか?」


宰相のラグウェル卿だった。


「閣下、我々は好きで敵対するのではありません。私にもこの国に大切な友人がいます」


そう言ってオスル、レティー、メイヤを見渡した。


「ですが殿下を奉戴ほうたいする限り、くみすることはありません。敵となります」


「何にしても卿らで今後のことを決められよ。これより我らはベルレイト王国との領境を閉ざす。使者の印を持つ者以外は領境を乱す者は敵とみなし攻撃をする」


そう言うと父上は大山羊のあぶみを蹴った。一気に走り出し城壁に作られた足場を蹴り、上に登りそのまま駆け下った。

オレも鐙を蹴り城壁を駆け登り上から広場の一同を見回した。

皆呆然とした表情で見上げていた。

次々に大山羊に乗った兵達が駆け上がってくる。

殿しんがりのラザン達も城壁に登って来た。


「若、行きますぞ」


オレは僅かに首肯しゅこうすると、もう一度新たに友となった3人を見渡した。


オスルがそっと手を上げた。オレも手を上げる。

レティーと目が合う。少し微笑む。

メイヤが声を上げた。


「リョーマ様行かないで!」


苦笑を返し、一気に駆け下った。

午後も遅くになったのに太陽の光がやけに強くまぶしかった。


____________________________

第一章の主な登場人物

リョーマ・マークス       月詠の導師に覚醒した、本編主人公

ラザン・フジナガ        マークス家剣術指南役。『鬼神斬りのラザン』

アヤメ・キクカワ        リョーマに仕える侍女。リョーマを心から愛す人

モルド・マークス        リョーマの父。聖月山の座主

ラナー・マークス        リョーマの姉。リョーマ大好きっ娘

ジェイク・マークス       リョーマの兄。国の騎士団所属、敵対関係

フェリネシア・アークレイン   ベルレイト王国第三王女。リョーマの想い人

マリアンヌ・アークレイン    ベルレイト王国第四王女。フェリネシアの妹

コレット            フェリネシア達の侍女。犬人族獣人

セイドリア・アークレイン    ベルレイト王国第一王子。蛮行で様々な害を成す

レティーネス・ハートレイン   四大公爵家令嬢。殿下の婚約者

オスワルド・グスタフ      四大公爵家令息。リョーマの友となる

メイヤ・モルゾフ        伯爵家令嬢。リョーマに一目惚れ

ゴリアス・ガリグ        伯爵家令息。近習、リョーマを目の敵にしている

ハーディア・アークレイン    第三王妃。殿下の解呪の所為で死亡。

セクムト・ラグウェル      四大公爵家。ベルレイト王国宰相

ロドリゲス・ロクナー      剣術指南役。国選勇者。殿下の師匠


なお、貴族は名前と家名の間に身分を示す爵位名が入る。

王族=レアル 公爵=デューケル 侯爵=マルキール 伯爵=アールス 

子爵=ヴァイカル 男爵=バロル  など

_________________________________

ここまでが『第一章ベルレイト王国編』となりますがいかがでしょうか?

リョーマは今後どのような道を歩むのか?

フェリ様の呪いは解呪できるのか?

次回から『第2章、聖月山での戦い』になります。

お読みいただきありがとうございました。

少しでも面白いと思われましたら、ポイントや

リアクションをいただけましたら、励みになります。

よろしくお願いいたします。

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