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呪い姫を抱きしめたら月詠の導師に覚醒したので、王子を〆て姫を救う旅に出ます  作者: 輪三


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赤い流旗

すると観客席の方から大きな笑い声がした。


「恥ずかしいな。子供達の戦いに大人がしゃしゃり出るか」


父上が前に出ながらそう言った。


「だまれ!れ者め、騎士爵風情が伯爵である私に逆らうのか!」


れ者は貴様だロドリゲス伯。モルド様はベルレイト王国では騎士爵だが、それは聖月山との友誼ゆうぎを結びたい、前の国王から送られた物に過ぎぬ。

世界中に八つある聖山は独立自治国。その座主であるモルド様はいわば国王だ。伯爵風情が偉そうな口を聞くな!」


ラザンが割って入った。


「何だ貴様は!」


「聖月山特別顧問ラザン・フジナガ名誉子爵である」


「フン、ジジイは引っ込んでいろ」


「そう言う貴様は何じゃ?」


「聞いていなかったのか?私は殿下の剣術指南役、ベルレイト王国国選勇者ロドリゲス・アウルス・ロクナー伯爵である」


「国選勇者?殿下の剣術指南役じゃと?」


「そうだ。貴様ごときが気安く口を聞いてよい相手では無いということが分かったか!」


「なんと・・・・・おどろいた!」


ロドリゲス伯はようやく分かったかという顔で偉そうにふんぞり返った。だが


「国選勇者が師であるのに、そなたの弟子たちは10人以上で徒党を組みながら、我が弟子リョーマ1人に散々打ち破られたと。弟子の不出来は師の不肖。ふんぞり返っている場合か馬鹿者め。恥を知れ!」


ラザンは呆れたように言い放った。


「おのれジジイ!決闘だ、切り捨ててくれる!」


そう言うと柄にゴテゴテと飾りのついた金色のグレートソードを抜いた。


「よいのか?決闘などと言うなら手加減してやれんぞ?」


「何が手加減だ!そもそもその手にする武器は何だ?東方の蛮族達が使う曲刀だろうが。正統な騎士が使う剣技が遅れを取るものか!」


「侍の命とも言える刀を知らぬとは・・・・・嘆かわしい。そんな男が剣術指南役?国選勇者?

片腹痛い!そもそもそこらに倒れ伏す者どもが・・・・・まぁ馬鹿に何を言っても無駄か・・・・・」


「…馬鹿だと!・・・・・黙れ!参る」


叫ぶと剣を肩に担ぎ突進した。

そのまま叩きつけるように切り下ろす。


「ビッグバン・ブレイド!」


グレートソードのスキルのようだ。ロドリゲス伯の膂力りょりょくもあり、凄まじい剣圧だ。

だがラザンはそれに合わせるように腰を下げ、居合で刀を抜き切り上げた。

オレのこの銀眼でもかろうじて追えたが、常人では見えない早さだっただろう。


腰間から抜き放たれた光のような斬撃。

そして伯爵の両手が剣を掴んだまま切断され床に転がった。


まったく隙の無い残身、血振りをした刀を鞘に戻した。

「チーン」という剣冠けんかんの音が静まり返った辺りに響き、皆に現実を知らしめた。


「ギャアー!」


伯爵の叫び声と会場の女性の悲鳴が重なった。


「手が・・・・・手が!」


血を撒き散らしながら床を転げ回っている。


「早く治癒魔術師に治療してもらうのだな。今ならまだ治るじゃろうて」


周りが皆言葉を失っている。仮にも国選勇者、この国で一番強いとされている男だ。

それを一刀で無力化したのだから。


「スゴイ!一刀で手を切断だと」


「ラザン・・・・・どこかで聞いたような?」


「思い出した、『鬼神切りのラザン』ではないか?」


「災害級の巨大鬼ギガンテスを一撃で切り伏せたというあの・・・・・」


「あの櫻倭おうわ国出身者で構成された名高い『黒華こっか傭兵団』の初代団長だったと聞いたぞ」


爺は有名人なんだと感心していたら殿下が叫んだ。


「き、騎士団む、謀反むほんだ、この3人を捕らえよ!」


「謀反では無いぞ。殿下が始めたバトルロイヤルという名の私刑リンチにリョーマは堂々と勝った。それに異を唱え乱入したのはロドリゲス伯。そして決闘と叫んでラザンに返り討ちにあったにすぎぬよ」


父上が溜息を付きながら呆れ声で言った。


「黙れ、黙れ!ベルレイト王国次期国王である私に逆らったのだ!騎士団何をしているこいつらを討て!」


「つまり我らマークス家と戦争をすることですか?」


父上が冷たい眼をして言った。


「そうだ、王国軍4万で山ごと焼き払ってくれる!」


父上は大きな溜息をついた。


「だってよ、リョーマ、ラザン」


そう言うと大きく息を吸い、父上は腹の底からの聞く者を畏怖いふさせるような大声で叫んだ。


「宣戦布告を受けた。これより聖月山はベルレイト王国を交戦国とみなし赤い流旗りゅうきを出す!」


ラザンが懐から小さな骨笛を出し一気に吹いた。

ピイーという高い音が会場に響く。やがてその音は城壁の向こう側からも鳴り響き、引き継がれるように音が遠くへ遠くへ伝播でんぱしていった。


「騎士団こいつらを殺せ、そのまま軍を起こして一気に攻め滅ぼすぞ!」


殿下が立ち上がり叫んでいる。


「殿下お待ちください!なりませぬ。聖山を敵にまわすなどとんでもないことですぞ!」


宰相のセクムト公爵が悲鳴のような声を上げた。


「ええい黙れ!セクムト。私の言う通りにしろ」


「なりませぬ、赤い流旗など出されたらこの国は滅びますぞ!」


「なぜ滅ぶ、せいぜい3千の兵だろうがこちらは10倍以上の兵で攻めるのだ、余裕で勝てる」


「そうでは無いのです・・・・・そもそも4万と言ってもそれは総動員した兵力であって・・・・・」


宰相はアワアワしている。


「こいつは本当にこの国の次期国王か?初期の政治学も何も知らぬのだな。リョーマ説明して差し上げろ」


父上が呆れ果てている。


「殿下、聖山の頂上には通常巨大な銀色の旗を出しています。これが赤い旗に変わるということは、聖山が戦争に入ったということになります」


「だから何だというのだ!」


「赤い流旗が出たということは、八聖山全てが交戦国として敵になるということです。すぐに各聖山から援軍が来ます」


「それがどうした、各山から例え数千ずつ来たところで大したことでは無い」


「本当に分かってないですね。聖山の兵はただの数千では無いのです、聖月山は山岳戦の精鋭『偃月羊騎兵えんげつようきへい』、聖氷山からは一騎当千、ドラゴンライダーの『氷瀑竜騎兵ひょうばくりゅうきへい』、聖樹山からは精霊魔法と長弓を操る『樹叡長弓兵団じゅえいちょうきゅうへいだん』など


それぞれの精鋭が集まります。それに現在も演習で各聖山からの兵が駐屯しています。あと巡礼者も皆戦える者は武器を取り参戦するでしょう。

父上、今はどの聖山の部隊がいますか?」


「聖氷山と聖樹山、あと聖岳山もそれぞれ300はいるぞ。あと巡礼者にガルフォード帝国の前皇帝とお母上様がいるので護衛200もいるな。流れの傭兵や他国の国選勇者も何人か、あと魔術師養成所の学生もいるな。

赤い流旗が出れば皆喜んで参戦するだろうな」


父上が淡々と応えた。


「もういい。こいつらを殺せ。全て有耶無耶うやむやにしてしまえ。騎士団長早くこいつらを討ち取れ!」


「なりませぬ殿下・・・・・」


騎士団長のラッド伯が拒否する。


「な・・・・・拒否をするだと!ラッド貴様を更迭こうてつする。副騎士団長貴様がやれ。出世したいと言っていたな?こいつらを打ち取ればお前が騎士団長だ!加増もしてやる」


「本当ですか殿下!」


30歳過ぎであろう男がニヤリと笑った。


「よし出世を望む騎士団員オレに続け!あの者どもを殺せ!」


「リョーマ!」


父上がオレの横に並びながら、腰に下げている60CM位の棒を3つ繋ぎ長い崑を作った。この三撃崑はミスリルのワイヤーで繋がっており伸縮が可能だ。また槍の穂先なども付けることが可能で、父上は状況によって武器の種類を変えて戦う。今回先端に付けたのは重い分銅が鎖で繋がったフレイルのようだ。

ラザンは刀を抜きオレに言った。


「相手はフルプレートの鎧ですじゃ。闘気を刃にまとわせることができぬと切れませぬ。若は先程の闇の刃をまとわせて戦いなされよ」


騎士団員が殺到してくる。10名位か全員ではない。やはり騎士団長が躊躇しているからか。


ラザンが先に動いた、1閃、2閃と刃が光る度に武器を持つ手が半ばまで切られ剣を取り落としている。手加減をしているらしいがなかなかの光景だ。


父上も飛び出し頭上で崑を回すと右は左へと振り、突き跳ね上げ、次々と相手を打ち倒していく。フレイルの当たった個所はエゲツなく凹んでいる。骨が砕けているのだろう、のたうち回っている。


オレにも2人来た。刃引きした刀を捨て、腰の太刀を抜き『闇刃あんじん』をまとわせる。殺到される前に相手の目の前に一瞬で踏み込み、低い斬撃で足を切っていく。悲鳴を上げながら転倒している。

向かってきた騎士団員はもう無力化した。


「おのれ。宮廷魔導師団!出世したい者はオレの詠唱に合わせろ!ファイヤーボールだ」


いつのまにか後方に下がっていた殿下が、短杖を手に呪文の詠唱を始めた。


「リョーマを狙え」


「レイム・ファイア・スロール・ラム・グリオ・ロド・リゲロ。炎よ集いて敵を討て。ファイヤーボール!」


6人、タイミングは少し違うが顕現けんげんした火球がオレに殺到してきた。


「死ねリョーマ!」


父上とラザンがオレをかばうように前に出る。

だが書架で学んだ月詠の導師には有名な特技がある。


「大丈夫です」


オレはそう言うとひと言つぶやいた。


「銀月」


突き出した右手から子供の頭ほどの銀色の球体が生まれ、フヨフヨと前に飛んでいく。それは向かってくるファイヤーボールの方にスピードを上げ飛んでいくと次々と吸収していき止まった。

少し大きくなり銀色の球体の中が赤く光っている。


オレは右手を天に向かって突き出した。

球体が一気に上昇する。やがて30m位上がったところで手を握り開いた。


ボガン!!


派手な音と閃光を放ち、空中で爆発した。


「何!吸い込まれただと」


宮廷魔術師たちが騒いでいる。


「月詠の導師に魔術は効かない。次に放つ者がいればその者の前で破裂させる」


オレは静かに告げた。


「馬鹿な・・・・」


「詠唱もしていなかったぞ!」


「聖導師というのは化け物か」


その時城壁の向こうから何か音がし出した。

城下の石畳に高く蹄が蹴る音だ。


「来たか」


父上はつぶやいた。


「やつらは騎馬を伏せてあったか!」


誰かが叫んでいる。


「大丈夫だ城壁は越えられん。合流して逃げられる前に誰か何とかしろ!」


殿下が悲鳴のように絶叫した。


だが


ドゴン、ドゴンドゴン!!


城壁に何か激しくぶつかると音が響いた。


「む無駄だ!魔術で城壁が壊せるものか!!」


殿下が馬鹿にしたように言った。


だが高い蹄の音ともに城壁の上に踊り上がる影があった。

それは1騎、3騎、7騎、12騎と増えていく。

城壁を守る兵が何か叫んで殺到していたが、すぐに蹴散けちらされた。


「レイム・アース・ウォーグ・ラード・グラン・レド・ローム。大地よ顕現けんげんせよ。アースウォール」


城壁の上から詠唱が次々と響いた。すると城壁の内側の3か所、まるで足場のように地面が現れた。

それは高さ12mはあろう城壁の上から、3mずつ高さを変えて階段のような足場になった。

すると城壁の上にいた騎兵が次々と地面に降りていく。


「なんだあの獣は馬じゃないぞ!」


「山羊?それにしてもでかい!」


そう山羊だ。ただの山羊では無い。普通の山羊の5~6倍はある大山羊、グレートダイアゴートと呼ばれる大型の品種だ。山羊だけあり、高い登攀力を有していて足場さえあれば城壁も越えられる。

それが騎兵のように鎧を着た兵を乗せ、オレ達を守る様に前面に展開していく。

その数30騎にも及んだ。

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