表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を殺すはずだった裏社会最強の殺し屋に、溺愛されてます  作者: NIKE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/14

第3話 選ばれなかった少女は、今夜選ばれる


 食事は、無言で置かれた。


プラスチックの皿に、簡素なパンとスープ。

温かい。ちゃんと、人が生きるためのものだった。


アングリーはそれを見下ろし、少しだけ目を伏せた。


――やっぱり。


 誘拐は衝動ではない。

この少年は、計画通りに動いている。


「食え」


壁にもたれたまま、ジュードは短く言った。


「毒は入ってない?」


「入れるわけがねぇ」


 あまりに即答だった。


アングリーは小さく笑って、スプーンを取った。

一口、口に運ぶ。


味は、驚くほど普通だった。


「目的は……身代金、でしょ」


ぽつりと零した言葉に、ジュードは視線だけを向けた。


「勘がいいな」


「パパは払うわ。言い値で」


 それは自慢でも誇張でもなく、事実だった。

ボーダ家はそういう家だ。


「それで、用済みになった私は終わり?」


「さあな」


 はぐらかす声。


でも、アングリーにはわかっていた。


身代金を受け取ったあと、

“証拠”は残さない。


そういう世界に、この少年は生きている。


 スープを飲み干し、皿を置く。

不思議と、手は震えていなかった。


「……ねえ、ジュード」


「そう何度も呼ぶな」


「じゃあ、殺し屋さん」


そう言うと、彼はわずかに顔をしかめた。


「私、死ぬことは怖くないの」


ジュードの目が、一瞬だけ動いた。


「……じゃあ何が怖い」


アングリーは、少しだけ考えた。


「選ばれなかったまま終わること」


言葉にした瞬間、胸の奥がひりついた。


「私は、ずっと誰かの“決めた役”を生きてきたわ。

 良い娘。良い令嬢。良い許婚」


視線を上げ、彼を見る。


「一度でいいから、

 “あなたがいい”って言われてみたかった」


行間に静寂が伴う。


ジュードは、すぐに答えなかった。


 煙草を取り出し、火を点ける。

紫煙が、二人の間に薄く漂った。


「……くだらねぇ」


低い声。


「恋愛ごっこするために誘拐したわけじゃねぇ」


「わかってる」


アングリーは、穏やかに頷いた。


「だからこれは、お願い」


拘束された手を、少しだけ持ち上げる。


「三日間だけでいい。

 ――貴方の恋人にして」


空気が、凍りついた。


「正気か」


「ええ」


迷いはなかった。


「身代金が支払われるまでの三日。

 そのあいだだけ、私を“選んで”」


ジュードは、煙草を深く吸い込んで、吐き出した。


「俺は人を殺す。

 情けはねぇ」


「そうみたいね」


「終わりは変わらねぇぞ」


「それでもいい」


アングリーは、微笑んだ。


「何も持たずに死ぬより、

 一度でも“恋をした”って思って終わりたいの」


 長い沈黙。


やがて、ジュードは小さく舌打ちした。


「……馬鹿な女だ」


「ええ」


 それでも、彼女は目を逸らさなかった。


ジュードはしばらく彼女を見つめ、

そして、ぽつりと言った。


「三日だけだ」


心臓が、跳ねた。



「それ以上は、何も期待するな」


「ありがとう」


 その言葉は、祈りのようだった。


ジュードは背を向け、扉に手をかける。


「……勘違いするな。

 これは慈善じゃねぇ」


 鍵の音。


扉が閉まる直前、低い声が落ちた。


「退屈しのぎだ」


 暗闇に戻った部屋で、

アングリーはそっと目を閉じた。


――三日。


 それは、アングリーに人生で初めて与えられた、

本当に自由な時間だった。




***





 最初の朝が来た。

あと三日。カウントダウンが始まった。


窓の外は塞がれているから、正確な時刻はわからない。けれど、体がそうだと告げていた。


 アングリーは、目を覚ました瞬間に思い出す。


三日間。

――恋人。


胸が、きゅっと音を立てた気がした。


「……おはよう、ジュード」


 彼は部屋の隅に座り、銃の手入れをしていた。

視線だけを向ける。


「朝から元気だな」


「だって、貴方の恋人だもの」


 即答だった。


ジュードは一瞬、動きを止め、そしてため息を吐いた。


「……それ、毎回言うつもりか」


「言うわ」


アングリーは、にこにこと笑った。

笑顔が止まらない。


恋人。

恋人なのだ。

三日間だけだとしても。


胸の奥が、くすぐったくて、落ち着かない。


「で」


ジュードは銃を置き、腕を組んだ。


「恋人になったはいいが、何をする気だ」


アングリーは一瞬、固まった。


――そう言われて初めて気づく。


 三日間だけ、恋人。

それがどれほど特別なことかはわかるのに、

“どう過ごすか”なんて、考えたこともなかった。



「わからないの」


声が小さくなる。


「恋人って、何をするの?」


真剣な問いだった。


ジュードは目を細め、じっと彼女を見る。


「……お前、それ本気で言ってる?」


「ええ」


アングリーは自らの長い髪に指を絡めた。


「三日しかないのに、無駄にしたくないの。

 でも、映画も小説も、みんな恋人になったところで話はおしまいでしょ?」




「――何をすれば“恋人”なのか、誰も教えてくれなかった」


 言葉が、ぽろぽろと零れる。


「手を繋ぐ?

 話す?

 一緒にご飯を食べる?

 それとも……もっと、特別なこと?」


最後の言葉で、少しだけ頬が熱くなった。


ジュードは視線を逸らす。


「……知らねぇよ」


「そっか」


アングリーは一歩、近づいた。


「ジュードなら、知ってると思ってた」


「……あのな。恋人っつっても色々あるんだぜ?」


「じゃあ、ジュードはどうするの?」


 期待に満ちた眼差し。


ジュードは舌打ちし、立ち上がった。

音楽のように、静寂が流れる。


ジュードは彼女をじっと見つめ、ふっと息を吐いた。


「……本当に、性質たちが悪い」


「ごめんなさい」


「謝るな」


 そう言って、彼はアングリーの前まで歩み寄った。


距離が、近い。


無意識に息を止めると、

酒と煙草と、微かに甘い香水の匂いが落ちてくる。


「立て」


「……え?」


「いいから」


 低く、短い声。

有無を言わせない様子だ。


アングリーが慌てて立ち上がった、その瞬間。


ジュードが一歩、踏み込み

アングリーの腕を力強く引き寄せる。


ためらう暇もない。


気づけば、お互いの鼓動が伝わるほどの距離だった。


互いの息が、ぶつかる――。



それは、切なくも甘い、初恋レッスンの始まりだった――。





ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。


ジュードがアングリーを引き寄せた、この直後

いよいよ、命がけの「恋人ごっこ」が始まります。


「……続きが、今すぐ読みたい」

そう思ってくださった方へ。

実はカクヨム版では、この先の「甘くて危険な3日間」のエピソードを一足先に公開しています。


第4話:恋人ごっこの始まり https://kakuyomu.jp/works/822139844041917371/episodes/822139844101935764


第5話:恋人として帰りを待つアングリー https://kakuyomu.jp/works/822139844041917371/episodes/822139844103896832


第8話 甘いキスのおねだり https://kakuyomu.jp/works/822139844041917371/episodes/822139844129107646


殺し屋の少年が、少女に絆されていく過程を一気読みしたい方は、ぜひこちらから覗いてみてください。


【続きはこちらからすぐ読めます↓(カクヨム)】

https://kakuyomu.jp/works/822139844041917371

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ