【三十四話】 拾ったもの
すみません。この期間、都合がいろいろあり、また、構想を練らなければいけなく、二か月ほどご無沙汰してしまいました。
これからまた、ぼちぼち書いていくんで、よろしくお願いします。
ディオグランデは、本当に広い森だ。
それもそうだ。この国全体が昔は魔物の巣窟で、その大半が森だったのだから。
言ってみればここは、数十年前に人間が開拓するよりも前の状態をとどめているといっていい。
堂々と生える巨木。それに絡まる、人の腕ほどの太さのある蔓。地面は巨木の根のせいで凸凹し、それはドラグたちの歩みを遅らせていた。
「それにしても・・・ここを進むのって・・・よいしょ・・・大変じゃないですか!?はぁ、はぁ」
巨木の根っこを必死で登ったり下りたりしているシャルは、もう既に満身創痍の状態だった。
「大丈夫?シャル」
ドラグはシャルに手を差し伸べる。
「あ、ありがとう・・・ございます」
ドラグがシャルを一気に根の上に引き上げる。
「一体、あとどれだけ進めばいいんですか?師匠」
「どんぐらいなんだろ?ルディウス~!?」
ドラグは根っこの山五つ分ほど先にいるフードを被ったルディウスに大声で呼びかける。
「よいしょっと。ん?どうしたの?ドラグくん」
根っこから根っこへ飛び移って移動していたルディウスは、その足を止めて振り返った。
それにしても、根っこから根っこへ高速移動しているのに取れないフードは、いったいどんな構造をしているのだろう。
「目的地まであとどのくらいですか~!?」
「あと半分くらいかな~」
そう返事をするルディウスは、まだ汗一つもかいていない。さすがは隊長というところだろうか。
「あと半分・・・ッ!?」
まるで死刑でも宣告されたかのような顔をしてシャルは頭を垂れた。まぁ、半分ドワーフの血が入っているとしても、自分の背丈ほどの大斧を背中に背負っているのだ、当然きついだろう。
「ほら、半分終わったってよ?」
「まだ半分ですよ師匠!?」
そんな風に会話している二人にヴィスタが声をかける。
「お前ら足引っ張ってんじゃねぇぞ!」
「す、すみません・・・ッ!」
ヴィスタはその獣人特有の脚力と身軽さで、驚くべき速さで木々を移動していく。その身のこなしはギルドのトップクラスと呼ばれるにふさわしいものである。
「この野良犬!シャルにそんな野蛮な言葉で話しかけるな!」
するとその後ろからヨルトがヴィスタに対して言葉を投げかける。
「なんか文句あるのか?この尼」
「あぁ、ある。むしろ文句しかないわ!」
なぜこんなにヨルトがシャルをかばうのかというと、まぁ、昨日の宿でいろいろあったのである。
「二人とも?」
「「・・・ッ!?」」
すかさずルディウスが止めに入る。慣れたものだ。
「全く、なんであんなに元気なのか・・・少しは落ち着かんもんか?」
「しょうがないよ~、だってあの二人だよ~?」
「そう言われると何も言い返せない自分がなぜだか情けないわい」
ドラグとシャルの少し前を歩いていたゴウとパルミは言い争いを続けるヴィスタとヨルトにあきれながら、着実にその足を進めていた。
そんな時だ。ドラグが不意に後ろを振り返る。
「?師匠?どうかしたのですか?」
「いや、なんかきそうだな~って思って」
「なんか?」
そういっていると、ドラグたちの進行方向とは逆から、つまりは、今までドラグたちが進んできた方向から、何者かが迫ってきていた。それも、ものすごい勢いで。
「!?」
驚くシャル。
「ドラグ、どうかした?」
ルディウスがドラグへと聞く。
「敵襲、きたみたい」
「・・・え?」
その迫ってきたなにかは腰のところから剣のようなものを取り出して、ドラグに襲い掛かってきた。
それに対して、ドラグも、腰に下げている我力を引き抜き応戦。
そうして振り返ったドラグが見た相手の姿は、まるで猿のようであった。
「キィーーッ!」
「この姿・・・イミテイトモンキー!?」
『イミテイトモンキー』
このモンスターは、名前にモンキーがつくように、見た目は猿である。
しかし、問題が二つ。
この猿、まずサイズがおかしいのである。ざっと三メートルは超すであろう背丈、極太の手足、厚い胸板。とにかく規格が桁違いのサルなのである。
そしてこれが一番厄介な点。このモンスターは人間のように武器を扱い、人間の技を模倣し、自分のものにしてしまう。短期決戦にしなければ、相手がどんどん上達して、最初は力量が同じであったのに、結果負けてしまうということになりかねない。そういう面倒なモンスターなのだ。
しかし、おかしな点が一つ。
「イミテイトモンキー!?このエリアじゃ絶対見られないはずの超レアモンスターが・・・。やっぱりこの先で何かが起きているのは間違いない」
ルディウスはそういいながら、イミテイトモンキーの姿を認識するとほぼ同時に、その巨大猿の方へ、ドラグの加勢をしようと移動を始めていた。
そう。このイミテイトモンキー。ギルドの指定ではS級にあたるモンスターで、A級冒険者がパーティを組んでようやく倒す程度の力を持つ。
なぜS級に指定されるか。それは先ほど述べたイミテイトモンキーの特徴の一つである模倣が、実に厄介であるためだ。
基本的な物理的戦法の技術は、一度見ればほぼ理解、模倣することができる。さらにこの猿、知識欲が強いため、仲間同士でその技術を高めあっていることがある。そうすると個体ごとに力の差は出るものの、とても強力な戦闘力を持つ可能性があることは、理解できるだろう。
そんな厄介なこの猿型巨大モンスターだが、対処の方法はいくつかある。
その一つは、
「『ウインドスラッシュ』!」
「キャイッ!」
魔法による攻撃である。イミテイトモンキーの持つ魔力量はとても少なく、魔法を打ち出すことができないため、魔法による攻撃は模倣されることがないのだ。
すかさず鎌風を起こす魔法『ウインドスラッシュ』を放つヨルト。さすがはギルドに所属している中で一番優秀な魔術師なだけはある。相手の特性をすべて覚え、的確に対処する。まじめなヨルトだからできることである。
ヨルトが打った見えない風の刃は、イミテイトモンキーに直撃する。
しかしイミテイトモンキーの、その規格外の強靭な体に阻まれ、致命傷は負わせられない。
これはヨルトの魔法が弱いからではない。イミテイトモンキーに当たらなかった刃の一つが、ドラグの後ろにある巨木をいとも簡単に切り裂いていた。そのことから、ヨルトの腕は一級品であるのが再度わかるだろう。
自分の体を急に襲った攻撃に驚き、ものすごい跳躍力で後ろに退くイミテイトモンキー。そしてヨルトを認識すると、今度はドラグではなくヨルトを狙い始めた。
「キシャーーッ!」
牙むき出しでヨルトに襲い掛かるイミテイトモンキー。巨木三つ分ほど離れた場所にいるヨルトに向かってものすごい速さと身のこなしで迫っていく。そこはさすが猿というところだろう。
しかし、ヨルトは何も動じなかった。
「そんな下品な顔を、エルフであるこの私に見せるな、下賎め。『フレアボ-ル』!」
「ウキャッ!?」
風属性魔法と火属性魔法の掛け合わせによってできる『フレアボール』という技。火を起こしたところに風を送り込んでやることで爆発的な熱を相手にあてることができる殺人技である。
これにはさすがにまずいと思ったのか、身を少しのけぞらせるイミテイトモンキー。しかし時すでに遅く、ヨルトが放った魔法は見事猿の顔に直撃した。
もだえる猿。そこに、ドラグが追い打ちをかける。
「『風刃』!」
先ほどヨルトが放った「ウインドスラッシュ」に似た技である『風刃』を繰り出すドラグ。その威力は・・・
「・・・キィ?」
不意に巨大猿の上半身が下半身から分離する。そのことに実感がわいていない様子のイミテイトモンキー。
先ほどヨルトのウインドスラッシュを跳ね返した強靭な肉体とは思えないほどに、イミテイトモンキーはいとも簡単に、ドラグに切り倒されてしまった。
イミテイトモンキーが再起不能なのを確認したドラグは、軽やかに巨木の根を飛び越えてそのそばに寄っていった。
「王宮で手合わせした時も思ったが、やはりドラグはただものではない。なぜギルドで有名になっていないのだ?」
イミテイトモンキーをたやすく仕留めたドラグに驚きの表情を隠せないでいるヨルトが、イミテイトモンキーの体が灰に変わるのを見ていたドラグのもとに近づく。
「だって、僕、ギルド入ってないから」
「ギルドに入ってない!?」
そんな会話をしている二人のもとに、ルディウスがさらにやってきた。
「二人だけで倒してしまうなんて、私の取り越し苦労だったようだね」
そういいながらルディウスは灰に変わりつつあるイミテイトモンキーに近づき、じろじろと見始める。
「本当にイミテイトモンキーだね。あまり戦闘の技術が備わってないから、つい最近発生した個体みたいだ。ということは、本来の生息域から移動してきたという可能性は低い・・・。
考えられるのはただ一つ、この近くでイミテイトモンキーの発生する場所ができたということ。これは大事件だよ。早く何とかしないと・・・
ん?なんだろう?これは」
そんな風にイミテイトモンキーの状況分析をすすめていくルディウスであったが、ふと、もとはイミテイトモンキーであった灰のなかに何かが落ちているのを見つけた。最初はドロップアイテムかと思っていたようだが、どうやら違う。
「イミテイトモンキーはこんなものドロップしないしな・・・」
ルディウスがそう首をかしげながら考えていると、そのルディウスが手にしているものを見たヨルトが、急に焦り始めた。
「隊長殿!今すぐそれを置いてください!それは『魔法石』!魔法をため込んでおける石です!」
「!?」
『魔法石』
自分の魔法をためて置ける特殊な石。もとは無色透明な水晶のようなものなのだが、魔法を入れられると、その魔法の属性に応じた色になる。
石によってためて置ける魔法の規模や個数が異なるが、大きなものほど、強力で多数の魔法をためることができる。
ルディウスが見つけたのは、赤黒い、子供の手のひら程度の石。
ヨルトが気づかなければ誰もそれが魔法石だとは気づかない。
ヨルトの言われた通りに魔法石を明後日の方向へと投げ捨てようとするルディウス。
しかし、時すでに遅し。
「うおっ!」「うわっ!」「きゃっ!」
魔法石が、急にその赤黒い輝きを強め始めた。




