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【三十三話】 ディオ・グランデ

「まず、聞いてほしいことがある」


 馬車が王都を出発してから少し経ったとき。ルディウスがみんなに対して話し始めた。


「昨日の夜、出発の前にもう一度状況を調査してきたんだ。もう既に、王都の近くの森でさえ、魔物の分布が変化し始めている。一刻も早くこの原因の突き止めて、早急に対処しなくてはいけない」


 ヨルト、ゴウは真剣に耳を傾け、パルミとヴィスタは聞き流し、そしてドラグは


「師匠、大事な話をルディウスさんがしてますよ!?」

「ん?あぁ、うん・・・」


 いまだに心ここにあらずの状態にいた。


「とりあえず、目的地の近くまでこの馬車で行く。そしてそこに着いたら朝を待ち、ディオ・グランデの調査を始める。大体あちらに着くのは今日の夜だと思うからね」


 うんうん、とうなずくヨルトとゴウ。

 そんな中、ドラグはそのぐったりした様子のままこう聞いた。


「朝まで待つ?着いたらそのまま行けばいいんじゃないのか、、、?」


 そう平然と言い放つドラグに、馬車に乗っていた者全員がドラグを振り返る。


「お主、夜になると魔物が狂暴化することぐらい知っとるだろう?」


 ゴウはドラグにそう言う。


 魔物は夜に狂暴化する。原因はわかってはいないが、統計上その事実が分かっている。

その差は歴然で、その地域の適正レベルが20ほど上がるほどの違いがある。

 ギルドの方でも夜の討伐は控えるように冒険者に訴えてるし、冒険者自体も夜の討伐を避けている。それもそうだ。強くなったモンスターを倒したところでもらえるドロップアイテムが変わるわけではないのだから。夜の討伐は損なのだ。


「知ってるけど、急がなきゃなんだろ?」


 ドラグは気軽にそうやって言う。


「それにここにいる人全員、強いでしょ?」


 と、ドラグは言葉を重ねる。


 そんなドラグにルディウスはこう返す。


「それでも、現在魔物の分布が変わってきている以上、なるべくリスクの低いほうを取るべきなんだ。どれほど強い魔物がでてくるかわからないのだから。

 それにもしリスクをおかしてここの誰かが戦闘不能になって欠けたりしたらそれだけで致命傷なの、国家的にね」


 そうだ、ここにいる者は全員一級冒険者、その中でもトップクラスのレベルなのだ。一人でも欠けたらそれだけで冒険者何人分の損害になるのか、その規模は計り知れないというものだろう。


「というわけで、明日の朝、ディオ・グランデへ向かうこととする。その間に各々準備をしておいてほしい。いいかい?」


 ルディウスがそう言うと、ゴウとヨルトは頷き、パルミは「は~い!」などと若干間の抜けた返事をした。

 そしてヴィスタにおいては


「Zzz・・・」


 船をこいでいた。


「何を寝ているのだこの野良犬!隊長殿がこれからの動きについて話していただろう!?」

「Zzz・・・」

「この・・・!いい加減起きろ!いつまで寝てるつもりだ!」


 そういってヨルトは自分の杖を手に取る。


 賑やかな馬車の中。ドラグたちは着実にディオ・グランデに近づいていた。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


「進行状況は?」


 闇の中で椅子に座りながら肘掛けに肘をつき、頬杖を突きながら、あるものは目の前で膝まついている者にそういった。


「はい~、既に準備は滞りなく済み、後は時を待つだけでございます、はい~」


 膝まづいている者は顔をあげ、揉み手をしながらそういった。


「そうか、よくやった。さがれ」

「はい~、失礼します、はい~」


 椅子に座っていた者は、その椅子から立ち上がり、ここからは見えない空を見上げる。


「ふ、ふふっ、ハハハッ、アハハハッ!」


 突然笑い始める。


「実にファンタスティック!最高だ!」


 そういってその者はその椅子に立て掛けてあった杖を手に取る。


「これでようやく、あの方の復活が叶う!あの忌々しい呪縛から解き放たれ、そして!」


 その者は手に取った杖を天に突き立てる。


「再びこの地に魔物の国が再建されるのだ!ハハッ、アハハハハッ!」


 笑い声がこだまする。闇の中で二つの目がキラリと光った。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


 日が落ちてかなりの時間が過ぎた頃、ドラグたちはディオ・グランデの近くの街に到着した。


「シャル、起きて?着いたよ~」


 シャルはよだれを垂らしながら、頭をドラグの肩に預けて寝ていた。


「・・・ん?あぁ、師匠様ぁ、おはようございます~」

「うん、おはよ。夜だけどね」


 シャルは寝ぼけたまま朝の挨拶をする。


「え~っと、ヴィスタ、さん?起きて~」

「Zzz・・・」


 あのヨルトの猛攻を受けてなお寝続けたヴィスタは未だに寝ていた。驚くべき図太さである。


「どうしようかな・・・俺ら以外もう馬車降りて宿に行っちゃったし」


 あと数刻の後に日は出てくるが、一応なるべく鋭気を養うためにルディウスは宿をとっていた。

 そのため、馬車には既にドラグとシャル、そしてヴィスタしかいなかったのだ。


 ドラグが頭を悩ませていると、


「なんだ、まだ寝てるの?」

「あ、師匠!隊長さんです!」

「あぁ、ルディウス。ヴィスタが起きなくて」

「そうかと思ってきましたよ。全く、よくこんなに寝ていられるものだ」


 ルディウスはそう言うと、拳を軽く挙げ、それをヴィスタの頭めがけて振り下ろした。


「ぅお!?あっぶねぇ!」


 すると、ヴィスタは跳ね起き、その場から飛びのいた。


「全く・・・狸寝入りですか?ヴィスタ君」

「ちゃんと寝てたよ!殺気出して攻撃してくんなって!」

「君はこれくらいの本気さでやらないと起きなそうじゃないか?」


 再びにぎやかになる馬車の中。


「さぁ、ヴィスタ君もドラグ君も早く宿に行って、少しでも休んで体の調子を整えておいて」


 そういうとルディウスは馬車を出て行った。


「気を付けろドラグ、あいつのはマジでやばいから」


 ヴィスタはドラグにそう言ってから、ルディウスの後を追うように馬車を降りて行った。

 ヴィスタの姿が見えなくなってからドラグはふと思いつきでこういった。

 

「飼い犬と主・・・」

「ぷっ、あはははっ!師匠、それ面白いです!」

「お、おい、聞こえたらどうするんだよ・・・めんどくさくなるだろう?ほらシャル、宿に行こうか」

「あ、はい、師匠!」

「夜だから静かに」

「はいっ!師匠っ!!!」

「話聞いてる!?」


 そう言ってドラグとシャルも馬車を降りて行った。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


 あくる日、日が既にディオ・グランデを明るく照らした頃。


「師匠、木の根っこが多くて、よいしょっ・・・歩きずらいです」

「そうか?」


 ドラグたちは既にディオ・グランデに立ち入っていた。


 このディオ・グランデは、この森の多いグランド王国の中でも特に長寿の、巨大な木々が群生している森で、適正レベル100のA級探索地である。


 普通の冒険者ならいくつ命があっても足りないほどの危険地帯。そんな中をドラグたちは、


「んだよ、またこいつか」

「仕方ない、やるぞ」

「俺に指図するな、このクソ尼」


 なんの苦労もなく、ヴィスタとヨルトにおいては口喧嘩をしながら道を進んでいた。


「全く、なぜあの二人はいつもああなのだ」


 ゴウが頭を抱える。


「二人はいつもこうだね~」


 パルミもそういいながら、ヴィスタとヨルトの回復を行う。パルミはプーリストだ。チームの回復を行う。


「二人とも、これが調査で、討伐数競争ではないってことを忘れないでね?」


 ルディウスも二人に言い聞かすようにそう言う。

 しかし二人は言い争いに夢中になっているのか、魔物を蹴散らしながら喧嘩を続けている。

 するとルディウスは、


「忘れないでね・・・・二人とも?」

「「っ!?・・・はい」」


 すこしドスの聞いた声で二人に呼びかける。

 すこし熱を下げる二人。

 そんな二人を見てドラグは、


「やっぱり二人とも、なかぐぅ・・・!?」

「は~い、ベンちゃんそこまで~」


 ドラグが禁句を口に出そうとしたところを、パルミが間一髪でドラグの口を手で押さえる。


「よくやったパルミ」


 ゴウがグッドサインを送る。


「ベンちゃ~ん、だめだよ~。またケンカがはじまっちゃうでしょ~」

「そうだドラグ。ここは王宮の演習場ではない、ミッションの現場なんだ。なるべくチームの統一性を崩すような言動は控えてほしい」


 パルミとゴウがドラグにそう言うと、ドラグは一度頭を縦に振る。

 すると、パルミはドラグから手をはなし、ドラグを解放した。


「このチームに統一性って・・・あるのかな?」


 ドラグの斜め後ろから、シャルがボソッと言う。


「そういうのは気にしちゃだめだよ~、シャルちゃ~ん」

「シャルちゃん!?僕は男です!」

「でも可愛いから~、シャル「ちゃん」で決定~」

「なっ!?」


 パルミのよくわからない感覚で、ドラグ同様にちゃん付けに決定されてしまったシャル。


「まだましだよシャル。俺なんか「ベンちゃん」だよ。この見た目で・・・」


 はぁ、とため息をついたドラグのところへ、この世にこれほどおぞましいものがいるのかと思うほどに大きなワーム、「ジャイアントワーム」が飛びついてくる。


「シャーーッ!」

「うわぁぁ~~!?」


 ドラグの隣にいたシャルは泣きわめき叫ぶが、襲われたその本人はというと


「・・・」


 ほぼ無反応。

 言葉一つ発することもなく、無言でその右拳をジャイアントワームに対して振りぬく。

 するとジャイアントワームは目の前ではじけ飛ぶ。これでもB級モンスターで、中堅くらいの冒険者がようやく倒せるくらいの力はあるのだが・・・。


「なんか、ここにいると自分の感覚がおかしくなりそうです・・・」


 シャルは目の前にいる超人たちにあきれながらそう言う。


 ドラグたちは着実に森の中を進んでいった。

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