【三十二話】 出発前夜②、そして出発
「ちょ、ちょっと・・・!?」
「はい到着~」
無理やりパルミに連行されたドラグはある大きな扉の前に立たされ、
「はい、ドーン」
「う、うおっ!?ブッ!」
その状態でパルミに背中を思いっきり押され、顔面から扉にダイブする。
その衝撃でドラグはその扉の向こうへと入る。
「イタタ・・・なんなんだよ一体。ん?」
鼻を押さえながら顔をあげ立ち上がるドラグ。その目線の先にあったのは、
「おぉ、すげぇ・・・」
今まで見たことがないほど大量の食事と
ガツガツガツ!
大量の兵士だった。
「あれ~?兵士用の食堂に来ちゃったかな~?」
あれれ~?と首をかしげるパルミ。
「す、すごい迫力だな・・・」
ドラグの前では、屈強な男たちが目の前の山のような食事をむさぼり食い、その山を崩していく。
その気迫にすこし引いているドラグに、突然声がかかった。
「あれ、師匠!?」
「ん?シャルの声がした気が・・・」
シャルの声がしたような気がして、ドラグは今一度食堂を見渡す。
すると、
「あ・・・あそこだ」
男たちの間に、あの特徴的な、光輝く金髪が一つ。
それが、周りの男どもに負けないほどの勢いで飯を腹の中へと入れ込んでいる。
「何やってんだあいつ・・・」
そう思ってると、急に食事をしていた兵士たちが
「師匠?師匠ってことは!」
「あぁ、間違いない!見た目駆け出しの冒険者だ」
「あれがあの化け物二人と渡り合ったっていう・・・」
急にその手を止め、ドラグを注目し始めた。
「な、なんだ?急に」
食堂の空気の変貌ぶりに、自分が何かしたのかと不安になるドラグ。
するとシャルのさらに向こうから、
「おぉ!ドラグ!なんだ、お前もここに来たのか!」
「ダンさん?」
ダンがドラグに手を振った。そして、
「みんな!あれがドラグ・ベンだぞ」
ダンがそういうと、兵士たちが
「やっぱりそうなのか!」
「すげぇ!本物だ!」
「本当に強いのか!?」
などと言いながら、食事をやめ、ドラグの方へワラワラと集まってきた。
「え?なになに!?う、うわぁ~・・・っ!」
筋骨隆々な男たちに囲まれ、ドラグはその肉に溺れていった。
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
朝日の昇り始めた空の下、冒険者は王宮正門に集合しつつあった。
まず、その場に着いたのは、全身を神聖なるエルフ族の装備で包んだヨルト。そして、ヨルト一人いたところに、全身アーマー姿で大楯と大剣を持ったゴウが間もなくやってきた。
「相変わらず早いな、ヨルト」
「元々日の出のころには起きるのだ」
「そうか」
ゴウはそういうと、大楯と大剣を門の横にある塀に立てかけ、その側に座り込む。
「これからしばらく、よろしく頼む」
「こちらこそ、足を引っ張らんよう、せいぜい頑張る」
笑み浮かべる二人。この二人はもう付き合いが長い。
そんな二人のいる場所にやってきた人物が二人。
「師匠、しっかりしてください!」
「いや、俺、もうダメだ・・・」
シャルとドラグだ。
シャルがドラグの右手を両手で握りしめ、ドラグを引っ張ってくる。
ドラグは心ここにあらずという感じで、全身を脱力させた状態で正門へ、シャルの手によって運ばれてくる。
「何をしているのだ、お主」
ダンが心配そうにそう言う。
しかしドラグはポカーンとして答えようとしない。
「実は、昨晩の夜、王国軍の兵士たちにつかまりまして、師匠は百人余りの腕っぷしに自信のある兵士たちと手合わせを・・・」
「あの筋肉バカどもとか?それは不運だったな・・・」
そう、昨晩ドラグは、兵士たちに囲まれたあと、手合わせの申し込みを受けていたのだ。
まぁ、それは主に、「よし、お前ら!ドラグと手合わせしたい奴はいるか!?」と兵士たちに聞いてしまったダンのせいなのだが・・・。
そのせいでドラグは、体力的には大丈夫なものの、暑苦しい漢たちの雰囲気にあてられ、精神的に疲弊していた。
ドラグの昨晩の悲劇を聞いて、気の毒に、とドラグをいたわるゴウと、その様子を想像してゾッとしたのか、自分の両腕を抱えるヨルト。
ドサッと地面に置かれるドラグは、倒れたまま動かない。
するとその動かないドラグにヨルトが近づいていく。
「ドラグ、昨日はその・・・すまなかった。ヴィスタを止めるつもりが悪い癖で」
「ん?あぁ、うん、いいよ別に・・・」
心底疲れている様子で軽くヨルトにそう返すドラグ。
そんな様子の四人の下へ、もう一人冒険者がやってくる。
「ベンちゃ~ん、大丈夫~?」
パルミだ。
桃色の髪をなびかせながら駆け寄ってくる。
「パ、パルミか。お前、昨日なんで助けてくれないんだよ・・・」
ゲッソリとした表情でパルミを見るドラグ。
「だって~、あんな人たちに囲まれたくないもん」
「それ、俺も同じだから・・・」
はぁ・・・とため息をつくドラグ。
ちなみにベンちゃんとは、「どらぐべん?じゃあ、ベンちゃんだね~」というよくわからないパルミの感覚によって生まれたドラグのあだ名である。
すると、
「なんだ、ルディウスはまだ来てねぇのか」
誰もいなかったはずの門の上に、狼の獣人、ヴィスタが立っていた。
下にいるドラグたちを見ながらそう言ったヴィスタは、ドラグの様子を見ると
「何してんだ?お前」
一体何が起きたのかと怪訝な顔をしながら、ドラグたちの下へ降りてきた。
「あの暑苦しい王国軍の男どもにつかまったそうだ」
ゴウがそう返すと、
「何やってんだお前、逃げりゃいいだろう。強いのか弱いのかわかんねぇ奴だな・・・」
と、疲れ切った様子のドラグをのぞき込みながらそういった。
そんな王宮正門に最後の一人が顔を出す。
「みんな揃ってるみたいだね」
今回のこのチームを率いるルディウスだ。今日も相変わらずフードを被っている。
ルディウスは、一台の大きな馬車を連れて正門にやってきた。
「それじゃあ早速馬車に乗って。急いで今回の目的地に向かうよ」
ついに始まったミッション。今後彼らに起こる出来事を、彼らは誰一人として知らない。




