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【三十話】 少年とイザコザ

 場所は王宮にある第二演習場。

 日の高い青天の元、土の上で二人の男が対峙していた。


「急に呼び出してどうしたの?まさか、告白!?いや、俺そういう趣味はないんだけど・・・・」

「ちっげぇよ!」


 ドラグと、狼の獣人のヴィスタだ。


 ドラグの下らない言葉を怒鳴り声で制し、ひとつため息をついてからヴィスタは再び口を開いた。


「お前、本当に強いのか?」


 ヴィスタがそう思うのも無理はないだろう。何度も言うが、ドラグの見た目は駆け出しの冒険者そのものなのだ。


「強いよ?多分」

「多分って・・・・」


 軽くそういいのけたドラグの間抜けた雰囲気に、思わずズッコケるヴィスタ。


「それで、告白じゃないならなに?」


 ドラグがそう問うと、ヴィスタは気を取り戻したように、元のキッとした表情に戻り、こう言った。


「俺は弱いやつは認めない。俺と戦え!」


 ヴィスタがドラグにしたかったこと、それは決闘の申し込みだった。


 それに対してドラグはと言うと。


「いいね、そう言うの好きだよ!」


 やる気になっていた。

 その顔には満面の笑み。それは純粋に戦いを楽しもうとする笑み。

 ドラグのもつ顔の1つ、それは戦闘狂としての顔。


 予想外の反応に、思わず身を仰け反り一歩引くヴィスタ。


 すると、突然二人だけの空間だったところに第三者の声が響いた。


「また下らぬことをしているのか、野良犬」

「なんだと!?って、ヨルト!なんで帰ってねぇんだ!」


 それはエルフの魔術師、ヨルトだった。

 ヨルトはこの演習場の入り口の門から悠然と歩いてくる。


「お前が何かやらかしそうだったのでな」

「けっ!相変わらず余計なことばっかするクソ尼だな」


何やらいろいろと言い合う二人。そんな二人を見て、ドラグは


「仲いいんだ?」


 と言ってしまった。


 それはいわば二人にとって禁句であった。


「「だれとだれが仲がいいって!?」」


 驚くほどピッタリのタイミングでドラグのほうを振り向く二人。


「うわ、息ピッタリ」

「うるせぇよ!このクソ尼!被せんじゃねぇよ!」

「被せてきたのはお前の方だろう!この野良犬!」

「やっぱり仲良いじゃん」

「うるせぇ!」「どこが!」


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


 

「またあの二人が何かしておるぞ。全く、それを止めねばならぬこちらの身にもなってほしいものだ」

「本当に仲がいいね、あの二人」

演習場から聞こえてくる言い争いの声を聞きながら歩いてくる人物が二人。ドワーフのゴウと、桃髪のパルミだ。


 演習場を取り囲む檻越しに、ヴィスタとヨルトを見る。


「あ、新入りの子もいるじゃん」


 するとすぐにヴィスタたちと一緒にいるドラグの姿に気づく。


「なんだ、またヴィスタは新顔をいじめとるのか」

「いつもやってるよね~」

「差し詰め、ヨルトがヴィスタを止めに行ったところ、言い争いになったという感じか」

「なんか、それもいつも通りだね~」


 はぁ~、と二人そろってため息をつくゴウとパルミ。


「さて、止めに行くか」


 と、ゴウが演習場の入り口に手をかけた瞬間


 ガキンッ!


 突然鳴り響く衝突音。


「!?なにしとるんじゃお主ら!」


その音は、三人が戦いを始めた音だった。


「おいっ!二人そろって何をしとるんじゃ!ヴィスタはともかくヨルト、お前まで・・・一体何しとるんじゃ!?」


 ゴウがそう叫びながら演習場の柵の扉を開く。

 しかしその言葉に返答はなかった。


「お主ら・・・いい加減にっ!」


 そう言ってゴウは、一見駆け出しの少年を過剰に攻撃しようとする二人に怒りを覚えながら、少年を守るために三人の戦う演習場の中心へ急ごうとする。


 が、しかし、


「なにあの子、二人と互角に戦ってるじゃん。すご~い!」


 パルミのその声が、急ごうとするゴウの足を引き留めた。


「なんだと・・・!?」


 ゴウの目には、この国内でもトップクラスの腕を持つ冒険者二人を相手に、二人に劣ることなく立ち振る舞う、少年の笑みが映っていた。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


「なんだこいつ・・・!」


 ヴィスタは予想外の少年の強さに驚いていた。


 それは、ヨルトも同じだった。


「くっ・・・!?」


(この野良犬と仲がいいなどと言うから、ついカッとなってしまって手を出してしまった。悪い癖だ。

 しかしなんなのだ!このドラグ・ベンとやら。ただの少年かと思えば、やはり今回のミッションに呼ばれるだけあるとでもいうのか?攻撃が当たらない、どういうことだ!?)


 二人とも、まさかこのパッ見駆け出しの少年に自分の実力が劣るなど思いつきもしなかっただろう。


 ドラグは二人の攻撃を的確に退けていた。


 ヴィスタの攻撃は、その瞬発力を武器とした超高速攻撃。レベルが50に達していない冒険者から見れば、その動きは目には映らぬほどの速さだ。

 しかし、ドラグはその攻撃を、まるですべて見えているかのようによけていく。


 ヨルトの強みは、魔術にある属性、火、水、土、風の四大属性のすべてを習得したヨルトだからこそ繰り出せる色とりどりな魔法。しかしそれも、当たらなければ意味がない。


 次々と繰り出される攻撃。それをよけていくドラグ。


 そんな状態がしばらく続いた。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


 戦いが一段落ついたのは、ヴィスタの体力、ヨルトの魔力が尽きかけた時だった。


 日は落ちかけて空は赤くなった。


 息を切らしながら攻撃の手を止め、ドラグを見るヴィスタとヨルト。その様子を呆然としながら見つめるゴウと既に戦いを見るのに飽き、寝ているパルミ。


 そんな演習場に現れたのは、


「全く、何をしてるんだい?」


 ルディウスだった。

 ゴウの後ろ、開け放たれたままの柵の扉からスタスタと歩いてくるルディウスは、相変わらずフードを被り、ただ一つ、特筆すべきところは、その双方の拳が強く握られていることだ。


「る、ルディウス・・・!」

「隊長殿・・・」


 ヴィスタとヨルトがハッと顔をルディウスに向け、そしてその顔から血の気を引かせる。


「明日の朝から出発なのわかっているよね?」


 ルディウスがそういう。


「いや、これは、いろいろありまして、隊長殿・・・」

「ルディウス!こいつがよ!」


 ルディウスから目をそらすヨルトと、何か言い訳を始めようとするヴィスタ。


 そんな二人に、ルディウスはゆっくりと近づき、


 ゴゴンッ!


 その両拳で二人の頭を殴った。


「いてぇ!」「うっ・・・!」


 叫ぶヴィスタと唸るヨルト。


「全く、何回もいざこざ起こして。いい加減にしてほしいな」


 顔は見えないものの、声色からして、あきれ半分怒り半分といったところだろうか。


「申し訳ない、隊長殿」

「ヨルトさん、あなたがいながらなんでヴィスタ君と一緒にドラグ君と戦っちゃってるのかな?」

「うっ、それは・・・本当に申し訳ない」

「ヴィスタ君もいい加減大人になってほしいな」

「でもよ、ルディウス。こいつがよ・・・」

「またなんか気にくわないことでも言われたんでしょう?差し詰め、ヨルトさんと仲がいいみたいな。一体それのどこが気にくわないの?」

「だってこんな尼と仲いいなって言われたらそりゃもう・・・」

「こちらこそ願い下げだ、犬が」

「なんだと!?この・・・」

「もう一発入れられたいのかな・・・?」

「「・・・・・・。」」


 ルディウスが来て、急にシュンとするヴィスタとヨルト。

 その様子を確認したルディウスは、呆然と立っているドラグに話しかける。


「ドラグくん、この二人には仲良しとか、そういう類いの言葉は禁句なんだ。今後、そういったことは言わないってことで、よろしく頼むよ」

「・・・え?あ、あぁ、分かった」


 日はほとんど落ち、空は暗くなりかけていた。


「明日の朝には出発だ。それぞれちゃんと体を休めておくこと。いいね?」


 そういってルディウスは演習場を後にした。

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