【二十八話】少年、初対面
ドラグたちがイースを出発してから、5日が経った。
王都では、王の召集によって集められた、世の中に名の知れた冒険者が、王の宮殿、王宮の客間に集まっていた。
王宮の部屋ということもあって、その広さ、豪華さ、居心地のよさは一級品であった。
高い天井と、そこに吊るされている大きなシャンデリア。そのシャンデリアが照らすフロアには触り心地の良さそうな、柄の豪華な絨毯。その上には彫刻を施された長机と、数多くの椅子が置かれていた。
その椅子に座る人が四人。
その全員が、全身を一級装備で固め、見るからにして強者の気配を漂わせていた。
そのうちの一人のスラリと背の高い、机に靴を履いたままの足を乗せている狼の獣人が口を開く。
「なぁ、このまだ全員揃わねぇのかよ?」
その男は少し苛立っているのか、少し荒げた声を上げてそう言う。
すると、今度は桃色の長髪を揺らしながら、快活そうな若い女の子が口を開いた。
「確かに~、前のミッションはこの四人でやったもんね~?」
桃色の髪の少女は、自分の横を常に浮いているメイスをつつきながらそう言う。
その会話にさらに加わってきたのは、屈強そうな、しかし背の低いドワーフだった。
「まぁ、いずれにせよ、待つ他あるまい」
落ち着いた口調でそう言ったドワーフは、自分の前に置いてある酒をまた一口飲んだ。
その三人の話を聞いていたエルフは、ため息をついた。
「はぁ~、一体何を焦っているのだか。どうせ魔物を狩る以外することもないくせに。少しは落ち着いたらどうだ?」
その言葉に反応したのは獣人の男だった。
「あぁ!?てめぇ、俺の事言ってんのか!?」
「なんだ、自覚症状はあるのか。感心だな」
「なんだと!?」
「落ち着け、二人とも。毎度会う度に言い合いせずともいいだろうに」
「あはは、やっぱり仲いいね~」
「「何処がっ!?」」
言い争うエルフと獣人。その様子を見て、止めようとするドワーフと、なにやら火に油を注ぐ少女。
そのまま、その言い争いはヒートアップし、
「この尼、やんのかっ!?」
「いいだろう!野蛮な獣人など捻り潰してくれる!」
「てめぇ・・・・っ!」
ついにそれぞれの武器を手に取ってしまうエルフと獣人。
さすがに不味いと思ったのか、ドワーフと少女も焦りはじめた。
「おい、いい加減よせ!」
「お、お二人さん、仲良くだよぉっ?」
「仲良く?誰がこんないけすかない女と!」
「私がこの野良犬と仲良く?冗談はよせ!なぜ高貴なエルフがこんな野蛮なものと」
「なんだと!?」
悪気なく、またしても二人の苛立ちを加速させてしまう少女。
もう収拾がつかなくなってしまった現場。
「覚悟しろ、この尼っ!」
「返り討ちにしてやる、犬っころ!」
そんな一触即発の現場に、突如扉が開かれる音と共に
「ここが客間だ」
人の言葉を話す猫三匹と、
「うわ、広いな」
「・・・・」
見た目駆け出しの少年と唖然とした女の子のような金髪少年が現れた。
あと少しで戦場と化した王宮の客間は、そのすべての視線を二人の少年に向けた。
なにやら普通ではない場の空気を感じたのか、ふと元から客間にいた四人を見る三毛猫。
「どうしたのだ?何かあったのか」
どうやらこの猫は、あと少しでこの客間にて戦いが起きていたのかもしれないと言うことに気づいていないようだ。
「この化け猫!タイミングがわりぃんだよ!?」
「な!?化け猫とはなんだ!失礼な!」
「しゃべる猫なんざ化け猫だろうが!」
「この野郎が、そこに直れ!侮辱しおってこの犬が!」
「俺は狼だ!」
「あら、野良の犬と猫がじゃれあってるわ」
「なんだと!?」「野良とはなんだ!」
再び言い争いが始まる客間。
いい加減あきれた、とでも言いたそうなドワーフがため息をつき、猫ちゃんかわいい!、と我関せずな桃髪の少女黒猫を抱きよせる。
なんとも統一感のないチグハグでてんやわんやな状態。そんな部屋にまたしても新しい人物が、先ほど猫によって開かれた扉の向こうから現れた。
「まったく。あなたたちは協調性がないのかい?毎度のように言い争っているように思うのだけど」
そのフードを被った人物はフードの奥でため息をついた。
「さぁ、みんな揃ったから行くよ。王の間へ」
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
客間にいたものは皆、王の間へと移動していた。
馬車が通れそうなほど広い王宮の廊下はずっと先まで続いている。
ドラグたちはそこを歩いていた。フードを被っている人を先頭にして。
ドラグとシャルは、戸惑っていた。
王宮に着いたはいいものの、客間にと押されたら何やら喧嘩した男女がいて、それが今回の王からの直接的なクエスト、「ミッション」を共にこなすパーティーの仲間だと言うのだから。
「参ったなぁ」
こういう仲の悪いパーティーには、裏切りとか言う悲しい出来事が付き物なのだ。それがドラグにとっては気がかりとなっていた。
別に自分が何かされるのは大丈夫なのだ。全てを返り討ちにするだけの自信とその能力を持っているから。
しかしシャルはまだ、そう言ったことになれていないだろうし、もしそういう、もしものことが起きた際に自分のみを守るだけの術を持っていない。
ドラグは、対魔物でシャルを完全に守るのは絶対的に可能であるのだが、対人間でシャルを守ることは、完全とは言えないのだ。なにせ、人間は巧妙かつ卑怯なのだから。
さて、そんな風にドラグはシャルの身を案じているのだが、その案じられている本人はと言うと、
「どどど、どうしましょう!本当に宮殿の中に入ってますよ!師匠!」
と、なんとも気楽なことに興奮を覚えていた。
その様子を見て一層心配になるドラグ。ドラグはひとつため息をついた。
そんな二人を、他の四人、つまり、桃色の髪をもつ少女と、エルフと獣人とドワーフはどう思っているのかと言うと、
「「「「誰だ、この駆け出し」」」」
当然の反応であった。
そんな風にして、一行は大きな両開きのドアの前にたどり着く。
「さぁ、着いた。入るよ」
フードがそう言う。一行は王の間へと入っていった。




