【二十一話】 少年、少女の腕っぷし、そして・・・
カウンター内にある扉をくぐると、その先はなんと、立派な鍛冶場になっていた。
「汚いところだが、あの人だらけのところよりはましだと思う。すまないがここで我慢してくれ」
「ううん!別にいいよ、ミユちゃんと話せれば!」
ミユはそういって、鍛冶場のなかにあるそこそこの大きさの木造丸テーブルと四つイスに座ることをドラグに薦めた。
ミユの言葉に甘えて、その椅子に腰を掛けるドラグ。ミユはそのドラグとは反対側の椅子に腰を掛けた。
そして、そわそわしながら、ドラグに、ためらいながらこう言った。
「そ、その、それで、ぶ、武器の素材の方は、どどうなったのだ?」
まるで意中の男性に告白するときのようにそう言ったミユ。その見た目は、はっきり言ってものすごくかわいい。ドラグなど、今すぐにでも襲い掛かりたくなったことだろう。実際、少しだけ腰が浮いている。
どうやら、ミユがドラグの帰りを楽しみにしていたのは、そのドラグのもって帰ってくる素材を待っていたからのようだ。
「あ、う、うん。素材ね。うん。ちゃんと持ってるよ。ほら」
何とか残った理性で、欲望による衝動を抑えたドラグは、腰にぶら下げていた袋を机の上に置いた。
「?素材とは、これか?」
あまりの量の少なさに驚きと落胆を隠せないミユ。
そんなミユをみてにんまりの笑うドラグ。まるでこれからサプライズをする仕掛け人のような顔をしている。何とも間抜けな笑顔だ。
「まぁまぁ、そう焦らないでよ。まだちゃんと中身だしてないでしょ?」
「・・・?」
何を言っているのかわからないといったような顔をドラグに向けるミユ。
そんなミユの瞳を見つめながら、ドラグはその袋の中に手を伸ばした。
「見てて、驚くと思うから」
そう前置きをして、ドラグはついにその中身を取り出した。
バッと袋から引き出したその手には、今そこにある袋には到底入ってそうには思えないほどの、男の拳大の鉄の塊が握られていた。
「!?」
その鉄の塊を見て驚くミユ。
「まだあるよ」
そういうとドラグは、袋からどんどんとメタルマンのドロップアイテムを出し始めた。
次から次へと、出るわ出るわ。いつの間にやら机の上にはあふれんばかりの金属が転がっていた。
「・・・・・・!」
目をキラキラさせながら呆然とするミユ。
そんなミユを見たドラグは、サプライズが成功して満足そうだ。
「安心して、まだあるから」
「まだあるのか!?」
ドラグのさらなる言葉に、ミユはもう嬉しくてワクワクして、しょうがないと言ったような、表情筋が全て緩んだような顔をしている。
「それで、この前言ってたシャルの武器の話なんだけどさ」
嬉しそうなミユをしばらく眺めてから、ドラグは本題をミユにふった。
するとミユは、なんとかその顔を真面目な顔に戻して話をする体制にはいる。頬の赤みからして、まだ喜びを隠しきれてはいないところがまたかわいい。
「とりあえずは鋼鉄製でいこうと思うんだ」
そう言ったドラグに、ミユは意外そうな顔をする。
「戦斧を鉄でか?いたって普通だな。見たところ、この机の上の素材のなかには相当な値がつきそうな高級素材もわんさかありそうなものだが?」
ミユの言う通りなのだ。
ドラグはメタルマンの巣窟にいる物凄い数のメタルマンを狩った。それに、探索地内でも奥地とされるところまでくまなく探索したため、遭遇率の少ない、レアな素材で体を構成されたメタルマンにも多く出会い、そのドロップアイテム集めていたため、机の上に乗っているだけの素材の中にさえ、武器防具を作るには最高級なものがあった。
それを、ドラグはわざわざ使わないと言うのだ。ミユが不思議がるのも当然。
しかしそれには、ドラグなりの理由と考えがあった。
「まだレベルが低い頃から自分の実力に合わない、強すぎる武器を装備すると、武器に頼るようになっちゃうんだよ。そうすると、自分自身が育たないんだ」
「自分自身?」
「相手の攻撃を見切って避けたりする身のこなしとか、戦いの中での賭け引きとか、武器の使い方、技とかが身に付かないんだよ。そうすると、あるところでピタリと成長が止まっちゃうし、もしその武器を封じられたとき、自分の力でなんとかするってことができなくなっちゃうんだ。つまりは、自分で自分の身を守ることができなくなるってこと。それはとても危険なんだよ」
「な、なるほど・・・・・・・」
スラスラと自分の考えを述べるドラグ。
ミユは、内容はそれほど理解していないが、ドラグにはドラグなりの考えがあってのことだと言うことはわかったようだ。
「とりあえずは鉄製にすることは了解した。大きさは?」
「店先のやつと同じ大きさでいいよ」
「本当に大丈夫なのか?あれはシャルの背丈ほどの長さがあるぞ?」
まだ、シャルがあんな小柄で、自分と同じほどの長さの巨大戦斧を使うことを信じていないミユは、思わずドラグにそう言う。
それに対してドラグは諭すようにこう言った。
「いいんだ、それくらいのじゃないとシャルの力を十分に発揮できないと思う」
まぁ、シャルは巨大な丸太を振り回してオークを粉砕する美少年なのだ。それを見たからこそドラグはそういっているのだろう。
「んー・・・・・・・分かった」
渋々と言った様子で了承するミユ。
「ありがとう」
「いいのだ、ドラグの方がシャルにとっていい武器というのを分かっていることは知っている。なにせまだ私は未熟者だからな」
「未熟者?その域で?」
「なにせ私はまだ『鍛冶スキル』を持っていないのだ」
「!?」
『鍛冶スキル』
それは、日々鍛練することと、魔物を倒し自分のレベルをあげることの両方を成し遂げたものに与えられる『スキル』というもの。
この『スキル』というものを得ると、そのスキルの内容によって、剣術や武術、鍛冶などの成長速度が向上したり、根本的な技術が力向上する。
鍛冶などの職業につくもののなかで、一級鍛冶師と呼ばれるものたちの大半はこの『鍛冶スキル』を得て、超人的な技術を身に付けている。
ミユは、その事について、自分を未熟者と言ったようだ。
しかし、驚くべきは
「スキルなしでそんなに腕がいいの!?すごい!」
そう。もう既にこのような木造のこじんまりした店にはふさわしくない腕を持つミユが、その腕をスキルなしで、修練のみで得たと言うことが驚きなのだ。
「そんな、誉められたものではないのだ。私は自分の器を大きくすることを怠った。コレがその結果だ」
あからさまに悔しそうにするミユ。そのようすを見てドラグはあることを考えていた。
(スキルなしでこの腕って、ミユってもしかして物凄い鍛冶師なのか!?まだ全然俺と変わらない歳だし、もし魔物を倒してレベルが上がって、スキルが手に入ったら、もしかしたらこの国で一番の鍛冶師になれるかもしれない!)
そう思ったドラグは、ミユにこう話した。
「ねぇ、ミユちゃん。もっと腕、上げたい?」
急な問に、ポカンとするミユ。そして、
「当たり前だ」
当然だろう、と言ったような顔でドラグにそう答えた。
その答えを聞いてドラグは、こう返した。
「今度、一緒に魔物狩に行かない?」
「・・・・・・・・!?」
ドラグの突然の申し出に困惑するミユ。
ミユがスキルを得られないでいた理由の1つは、ミユに魔物の狩り方を教える指導者がいなかったからなのだ。
その指導役をドラグが担ってくれるという申し出。ミユにとっては願ったり叶ったりの申し出だった。
「い、いいのか?」
「うん、ミユちゃんがスキルがほしいと思うならね」
戸惑いながら、ドラグに上目遣いでそう聞くミユ。その問いにドラグは笑顔を浮かべながらそう言った。
そんな、ドラグの言葉を聞いたミユは、座って椅子から立ち上がって、
「是非お願いしたい!」
そう言った。ミユの上を目指すその向上心、その自己実現欲は素晴らしいものだった。
「うん、分かった。じゃあ今度予定が空いたら一緒にオークの森に行こうか」
「あい分かった!本当にありがとう!」
「どういたしまして」
目の前で深々と頭を下げるミユを見て、ドラグは微笑ましい気分になった。
そして、こう思った。
(やった!ミユちゃんとデートだ!)
救い用のないグズ男であるドラグであった。
「それで、話を戻すんだけど・・・」
そして、ドラグが改めてシャルの武器のことについてミユと話を進めようと思った矢先、鍛冶場と店を結ぶ扉がバタンと開かれ、外で接客をしていたシャルが入ってきた。
その顔は何かを、物凄く焦っているようであった。
そして、シャルが口を開いた。
「師匠!魔物が・・・・・・・・魔物の軍隊が街に攻めてきました!」




