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【二十話】 少年、いないうちに店が繁盛している

 ドラグがメタルマンの巣窟からイースの街に戻ってきた。


「おー!帰ってきた帰ってきた!早くカレンさんのご飯が食べたい」


 街の入り口を入りながらそんなことを言うドラグ。ドラグはすでにカレンのご飯なしでは生きていけないほどにカレンの味にドはまりしていたようだ。


 時刻はちょうど昼時、ドラグの腹の虫がそろそろなるころだろう。

 街は、今日も冒険者たちでにぎわっていた。


 ドラグは一直線に集いの酒場へと足を進めながら、街の様子(街の女の子)を眺める。


 すると、ふとドラグの視界の中に人の列ができた鍛冶屋が目に入った。


「・・・え?ここって・・・」


 思わず足を止めたドラグの視線の先には、「鍛冶屋 デュイス」と書かれた看板の文字。


「もしかして、ミユちゃんの店!?」


 信じられない!と思わず口に出してしまうドラグ。

 ドラグが遠出するまで、ミユの店は誰も寄り付かない感じのさびれた店だったのだ。

 それが今や、ドラグの目の前では人が列に並ぶほどの繁盛店になっているではないか!ドラグが驚くのも無理はない。


 何が起きた!?、としばらくその場に立ちすくしていると、


「しっかり並んでくださいね~。武器防具の購入はこちら、修繕はこちらで~す。あ、あの、頭撫でられると、その、動きづらいんですけど・・・」


 ドラグの目に、行列を整理する金髪美少女、いや、美少年映り込んできた。

 その金髪美少年は精一杯手を伸ばして人が列からはみ出さないようにしている。

 列に並ぶ人、特に女性は「ほんとにかわい~っ!」とシャルのその金色に輝く頭を撫でまわしていた。


「シャル!?」


 思わず叫んだドラグ。

 するとその叫び声で、シャルはようやくドラグに気づいた。


「あ、師匠!お帰りなさいです!」


 そう言いながらドラグのもとにてててっとかけてくるシャル。相変わらず男とは思えない可愛さだ。

 シャルが走ってきた向こうには「あ~・・・」と名残惜しそうにシャルに向けて手を伸ばしている女冒険者たち。そんなにもシャルの頭はなで心地がいいのだろうか。


「いつ戻られたんですか?」

「い、いや、つい今だけど・・・どうしたの?コレ」


 ドラグが目の前で起きているイリュージョンのような光景のわけをシャルに問う。


「はい!師匠がいない間、ミユさんのお店をお手伝いしたら、繁盛しました!」

「え~、どういうことかさっぱりな説明・・・」


 その問いにシャルはあっけらかんと、とても抽象的な答えをドラグに返した。


「もっと詳しく教えて」

「わかりました。・・・」


 さらなる説明を催促するドラグ。するとシャルは店が繁盛するきかっけとなる要所要所をドラグに説明し始めた。


 シャルが言うには、「売り物の値段をちゃんとして、店の外観を少し変えたら、お客さんができて、そのあとは口コミでどんどんうわさが広がって行って、今の状態に至る」ということらしかった。


「ちょこっといじるだけでお店大繁盛とか、人生イージーモードかよ・・・」


 あきれた様子でいまだに呆然としているドラグ。

 そんな様子のドラグを見て首をかしげるシャル。


 すると不意にドラグの耳に、列に並んでいる冒険者たちの声が入ってきた。


「本当にかわいい女の子が鍛冶師やってるって本当かよ?」

「本当だって!ほんとに可愛いんだから!」

「可愛いってどんなふうにだよ?」

「なんていうか、職人気質なんだけど乙女でツンデレ、みたいな?」

「何それ可愛い・・・」

「それに、さっき列の整理してた子も可愛かったろ?」

「まあな。え、お前まさかロリk・・・」

「違うっつーの!それにあの子男らしいし」

「え?まじかよ!え、お前まさか、ショt・・・」

「だから違うって!」


(あ~、なるほどな)


 ドラグはこの鍛冶屋デュイスの人気急上昇の原因を察した。

 つまりは、可愛い女鍛冶師と女の子みたいな金髪美少年という物珍しいワードに対する好奇心が、これだけの客を集めていたのだ。口コミの内容もきっと二人のことが主だろう。


 するとさらにドラグの耳にお客たちの声が聞こえてきた。


「しかもな、その女鍛冶師ちゃん、めちゃくちゃ腕がいいんだよ!」

「へぇ~、そうなのか」

「あぁ!この前修理に出した俺のロングソードなんて、帰ってきたら新品だった時より切れ味が増してるかもしれないくらいだったよ!」

「それは何が何でも大げさだろ?」

「やってもらえばわかるって!」


 どうやらミユの腕を見込んでの客もいるようだ。


 まぁ、実際ミユの腕前は良い。なにせ、レベルマックスのドラグのお墨付きなのだから。一目注目を置かれれば、名が知れ渡るのも時間の問題だった。


 ドラグが、これはまだまだ客が増えそうだな、などと考えていると、


「ミユさんも師匠の帰りを待ってたんですよ!さ、行きましょう!」

「あ、お、おい!?」


 シャルは、鍛冶屋デュイスのこれからを想像していたドラグの手を強引に引き、店の中へとドラグを連れて行った。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


 鍛冶屋デュイスの中に入ると、そこは外と同様、あるいはそれ以上の人でごった返していた。


「本当にすごいな・・・」

「僕もびっくりです!」


 人の多さに気圧されるドラグ。それをよそに、もうこの光景に慣れているのか、シャルは嬉しそうに笑った。

 シャルはいまだに握ったままのドラグの腕をもう一度グイッと引っ張り、店の奥へと足を進めた。

 その先には、ドラグ同様、大量の人に戸惑っているこの店の店主、ミユがいた。


「こ、これを修理するのだな?」

「おう!よろしく頼むよ!お嬢ちゃん!」

「あ、あい分かった。で、では、しばらくこれを預からせてもらう」

「どのくらいだ?」

「ど、どのくらい!?え、えっと・・・」


 どうやらミユは接待が苦手なようだ。


「まったくミユさんは・・・人に慣れていないんですかね?」


 やれやれといった様子で一つため息をつくシャル。すると、ドラグの腕から手を放し、てててっとカウンターの向こう側に行ったと思ったら、困惑しているミユの横に椅子を置いて、その上に立ち、ひょっこりとカウンターから顔を出した。

 すると、シャルは今ミユに質問をした男に対してこう言った。


「現在、修繕や製作の依頼が殺到していまして、この分では大体二週間後かと」


 男に対してそういうシャル。まるでシャルの方がこの店の店主のようである。


「二週間か・・・ギリギリ遠征には間に合うな。ん?なんだ、この可愛い小娘は?」

「僕男ですよ!」

「む?それはすまなかった!」


 やはり女の子と間違えられてしまうシャルは、少しむすっとしながらそう答える。


「代金は後払いになりますので、今日はこのままお帰りいただいて結構です。二週間後には修繕が終わってますので、その時に来てください」

「おう!了解したぞ!坊主。そうだ、ついでに武器も見て行っていいか?」

「ぜひ!うちのはとてもいいやつを取り揃えていますよ!」

「それは楽しみだ」


 そういって店の商品の物色を始める男。


 その様子を見てほっとするミユと、そのミユに対して頭を下げるシャル。


「受付ありがとうございました。交代です。ミユさんは鍛冶場に戻ってください」

「ありがとう。人はどうも苦手で・・・」


 ふぅ~、と肩の力を抜くミユ。本当に接客が苦手のようだ。


「あ、そうでした!師匠が帰ってきましたよ!」


 ふと今思い出したようにシャルがミユにそういう。どうやら先ほどの男の接客をしているうちに少し当初の目的を忘れていたようだ。


「おぉ、ドラグが!それで、今ドラグはどこに?」


 疲れて下を向いていた顔をパァ、と明るくさせながら上げるミユ。

 そんな様子のミユに、ドラグは、


(え、なに?そんなに俺に会いたかったの?いやぁ、照れるなぁ・・・!)


 顔を赤くさせながら体をくねくねとうならせていた。気持ちの悪い男である。


「ドラグさんならそこに」

「ん?おぉ、ドラグ!」


 ドラグの顔を見つけてより一層顔を明るくさせるミユ。


「久しぶり、ミユちゃん。元気だった?」

「うむ、元気だったぞ?そちらは・・・無事なようだな!」

「うん!」


 ここ最近、ミユのドラグに対する言葉数が増えてきた気がする。チンピラにこの鍛冶屋でからまれた時から、ドラグとは集いの酒場で何度も顔を合わせ、話をしていたミユ。心が打ち解けあったからなのだろうか?


「立ち話もなんだ。奥で休もう。長旅で疲れているだろう?」

「うーん、疲れてる、かな?うん、たぶん疲れてるよ」


 何ともあやふやな回答をするドラグ。なにせレベル999の体だ。たった数日間旅に出たところで、何の疲れもない。ただ。ドラグはミユとお話がしたいだけなのだ。


「それではシャル。受付は任せた」

「はい!任せてください!」

「いつも済まない」


 ミユは受付をするシャルにそういって、そして二人はカウンターの奥にあるドアの向こうへと入って行った。

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