【十八話】 少年、マジックバッグを買う②
「うそ、ホントに・・・・!?」
驚愕する受付嬢。
「よし、これで洞窟いっていいね?」
そんなことを意にも反していないドラグは、やっとマジックバッグが買える、と嬉しそうにしている。
「あ、あの、あなた、本当にレベル200なんですか?」
「まだ何かあるの?いま200って出たじゃん」
もう一度自分に確認してくる受付嬢に、まだ何か文句があるのか、と、いい加減うんざりしてくるドラグ。
(うそでしょ?本当にレベル200なの?測定機の故障・・・いや、ありえない。国立ギルド認定のものをしっかり使用してるんだから。それにこの測定器はつい最近支給されてきたものだし、故障なんてありえない。だとすると本当に・・・?)
心の中でいろいろと考えている受付嬢。すると難しい顔をしてドラグにこう言った。
「少々お待ちください!すぐ終わりますんで!」
そして、受付嬢はまた建物の奥へと行ってしまった。
数分して戻ってきた受付嬢は、頑体のいい白髪交じりの男を連れてきた。
するとその男はドラグの前に来ると、軽く一礼をした。
「どうも、このギルドのギルドマスターを務めています、デムズと言います」
「は、はぁ、どうも?」
どうやら白髪混じりの男の名前はデムズというらしい。突然の自己紹介にすこし困惑するドラグ。
「話は先ほど、この者から聞きました。メタルマンの巣窟に行かれたと?」
「あ、うん」
「おひとりで?」
「うん。仲間いないし?」
目を見開くギルドマスター。多分この場にいる全員、ドラグのこの話を聞いたら驚くだろう。
「ちなみに討伐数などは?」
「いくつだったかな・・・2000、いや、3000はいったかな?」
「「3000!?」」
予想していた数と、桁が二個ほど違ったために、驚きの言葉が重なるギルドマスターと受付嬢。
なぜドラグの討伐数がこんなにも多いのかというと、洞窟の中を高速で駆け回り、片っ端からメタルマンを斬り捨てるという行為を丸一日中続けたからだった。
それでも全然メタルマンは次から次へと現れたが。きっとメタルマンを討伐できる冒険者が少ないからだろう。大量にいるのだ。
「あなたなら、大丈夫かもしれない・・・」
驚いた後、顎に手を当てて何かを考え始めるデムズ。
「すみません。一つお願い事があるんです」
「ギルマス!?」
デムズのその言葉に、急に焦り始める受付嬢。
「本当にこの少年にあの依頼を任せるのですか!?」
「ここ最近この街には一級冒険者のパーティーが来ていなくて、本当にいま困窮しているんだ。国立ギルド認定のレベル測定器が200だと示したんだろ?」
「それはそうですが・・・」
「それならもう、頼るしかないだろう」
「・・・わかりました」
何やら深刻な話をする二人。
「あの~、その、だいじょうぶですか?」
そんな二人を見て心配そうにするドラグ。
「大丈夫です。問題ありません。それでお願いのことなんですが・・・」
「大概のことは任せてください」
「そういっていただけると助かります」
微笑を浮かべるデムズ。
その額に数滴の汗を浮かべ、覚悟を決めたようにデムズは言葉をつづけた。
「今回あなたにお願いしたいのは、一つのクエストなんです」
「クエスト?なんでまた?しかも俺に?」
「その内容が問題なんです」
そう前置きして、デムズはドラグの目をまっすぐ見つめ、真剣な面持ちで話し始めた。
「先日、あるクエストが発注されたのですが、その内容がものすごく危険で、誰も受注せずに残ってしまっていたんですよ。
その内容が、「メタルマンの巣窟」のなかにある『迷宮』の最深部にいる『メタルクイーン』を倒して、そのドロップアイテムを収集してきてほしい」というものなんです」
「『迷宮』?」
「実は、メタルマンの巣窟と呼ばれる洞窟奥深くには『迷宮』があるといわれているんです。きっとこのクエストはその『迷宮』の長を倒して、ドロップアイテムを持ち帰ってくるというものなんでしょう」
『迷宮』
それは、ある強力な力を持った魔物を長とした魔物の集団によって形成された、いわば魔物たちのお城である。
この『迷宮』には、魔物たちが持つレアアイテムやウェポンなどが存在し、それを目当てに『迷宮』へと足を運ぶ冒険者も多い。
そして、『迷宮』の魔物たちの長、通称ボスを何者かが撃破すると、その『迷宮』の魔物たちは散り散りになり、『迷宮』は自然消滅する。これを『迷宮攻略』という。
『迷宮』は、魔物の生息地、つまり、冒険者にとっての探索地の中に複数存在していて、自然発生と自然消滅を繰り返しているのだ。
今回のクエストは、先ほどドラグが探索していたメタルマンの巣窟の中に存在する『迷宮』の長を倒し、そのドロップアイテムを回収しろ、というもの。これが何を意味するのかというと、A級探索地内に存在する殺人的に激ムズな『迷宮』を攻略しろというものなのだ。
そんなものは通常不可能。一級冒険者が6×4人のレイドを組んだとしてようやく攻略できるかどうか、というほどの超難問クエストなのだ。
そう、この国を救ったという英雄ほどの、レベル200ほどの力を持ったものでなければ、攻略不可能なのだ。
「無理難題を言っているのは分かっているのですが、何せかなり上の位の人からの依頼でして・・・」
申し訳なさそうに頭を何度も下げるデムズ。
「う~ん・・・」
その話を聞いて、首をかしげながら何やら考え事をするドラグ。
「あ、あの!本当に、無理にというわけではないんです!無理だと思ったらやめていただいて大丈夫ですので!命が何より大切ですし」
ドラグの様子を見て、無理そうだと思ったデムズは、すかさずドラグにそのクエストは強制でないことを伝える。
しかし、ドラグはデムズの予想したこととはかけ離れた考え事をしていた。
「あ、いや。全然大丈夫ですよ、そのくらいのクエスト」
そう軽く言葉を返すドラグに、受付嬢は思わず怒鳴った。
「そのくらいって・・・このクエストがどれほどの危険度を伴っているか、あなたは分かってるんですか!?」
「え?うん、わかってるつもりだけど」
「絶対分かってない!ギルマス!この人全然分かってないです!」
ドラグを指さしながらデムズにそういう受付嬢。
デムズはそんな受付嬢をなだめながら、ドラグの方に体を向ける。
「本当に大丈夫ですか?このクエストは、この街に来たどんなに強いパーティーの方もお受けにならなかったクエスト。それほどに危険なものなんです」
真剣な目でドラグを見るデムズ。
そんなデムズに、ドラグは衝撃的な一言を返した。
「うん、本当に大丈夫だよ。たぶん俺、その『迷宮』、もう攻略してきちゃったと思うから」
「「・・・・・・へ?」」
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
数刻ほど前
ドラグは、不思議な扉の前に立っていた。
「洞窟の中に扉があるよ・・・変なの」
メタルマンを蹴散らしながら「メタルマンの巣窟」である洞窟を突き進んできたドラグは、その先で、重厚な扉を発見した。
その扉は、もとから洞窟があったところに後付したように設置されていた。
「とりあえず入ろう」
扉を何のためらいもなく開けるドラグ。その扉は大きく厚い。ぎぃぃっ!っと音を立てながら重々しく開く扉。
そして扉が開ききる。
するとその開けた扉の向こう、ドラグの視線の先には、今までの洞窟の様子とほとんど変わらない空間と、その中に、
「おぉ、めっちゃいる!」
大量のメタルマンがいた。
今までドラグが遭遇したメタルマンたちの中でも一番多く集団で活動していたのは五体。
しかしそこにはなんと、50体ほどの、色とりどりのメタルマンがいた。
さらに、
「ん?なんか違うやつが・・・」
その中央には、なぜかその50体のメタルマンに守られるようにして、女型の透明なメタルマンが微動だにせずに鎮座していた。
「なんか今までと違うみたいだな?」
今まで遭遇したメタルマンたちとは、数だけでなく、何かが違うということを感じ取ったドラグは、とっさに我力を鞘から抜く。
現在のドラグのレベルは150ほど。残りのレベルを我力に預けた状態だ。
「あのよくわからない変わった形のメタルマンがどのくらい強いのかわからないけど、まぁ、このままのレベルでいけるか」
相手の力量を見切り、そう判断するドラグ。
「よっしゃ、いっちょやるか!」
そういうとドラグはメタルマンの大群にその身を投じた。
こともなく、その場で何やら集中し始めた。
「魔法を使うのは久しぶりだからな・・・ちょっと調整できないかもしんないな」
ドラグがそう言うと、何か透明なものが我力にまとわりつき始めた。
するとドラグは目をカッと開き、
「『風刃』!!」
そう叫ぶと同時に我力を横一線に振るう。
すると、メタルマンの大群に向かって、その何か見えないものが飛んでいき、次の瞬間、
スパッ!
メタルマンたちはみな、体を上下に切り離されていた。
そのままむなしく灰になるメタルマン。
今、一体何が起きたのかというと、ドラグが『風刃』という魔法を使って遠く離れたメタルマンを斬り裂いたのだ。
『風刃』は、冒険者の中では多く使用されているポピュラーな風属性魔法である。基本的に風の刃を飛ばす遠距離斬撃なのだが、冒険者の中でも剣を扱う冒険者は、自分の武器にその『風刃』をまとわせて放つことが多い。
しかしなぜ、こんな高度な技術も必要なければ、大量の魔力を消費するわけでもないこの技によってメタルマンたちは斬殺されてしまったのかというと、それは一重に、ドラグのレベルとその剣の技術によるものだろう。
その高すぎるレベルと剣術によってメタルマンたちはいとも簡単に全滅させられてしまったのだ。
「オッケー、洞窟崩さずに済んだ」
のんきにそんなことを言うドラグ。完全に化け物である。
こうしてメタルマンたちはドラグの手によって全滅させられてしまったのだ。
唯一、守られていた女型のメタルマンを残して。
「へぇ。今ので斬れないんだ?」
予想外の結果に驚くドラグ。
ゆっくりとその謎のメタルマンに近づいていく。
それでその距離が剣が届く範囲まで縮んだとき、ドラグはそこであることに気付く。
「・・・こいつ、動かないのか?」
そう。この謎のメタルマン、先ほどからほんの少しも動いていないのである。
「本当に動かないのか?」
そう言って、そのメタルマンに剣の腹を当てて確かめるドラグ。
しかしそのメタルマンは、剣を向けられようとも、剣で叩かれようとも、びくともしなかった。
だが、ドラグは今の行動であることに気づいた。
「こいつ・・・・・・・硬い」
このメタルマン、ドラグの攻撃を受けてもびくともしなかった通り、他のメタルマンに比べて非常に硬い素材でできていた。
「なんなんだコイツ、透明だけどキラキラしてるし、何で出来ているかよく分かんないな。でも、なんか、凄そう!」
目の前のメタルマンから何かを感じたドラグは、自分の愛剣我力を大きく振り上げた。




