【十二話】 少年、魔物の異変に気付く
「とりあえず、シャルの討伐数からすると、この森に勝てない相手はいないよ」
「ホントですか!?」
「うん。ここら辺でモンスターを100体も倒せば、あっという間にレベルが上がって強くなって、ここら辺のモンスター五匹を一気に相手にできるようになる」
「五体!?」
「シャルはもう300体も倒してるから、もうこの森で安全に一人暮らしできる位の力はついてるよ」
ドラグに言われて、自分の力の強さに半信半疑ながらに気付くシャル。
「本当にそんなに力が・・・?」
「さっきのオーク見たでしょ?可哀想なくらい跡形もなく木っ端みじんになってたじゃん」
「それはそうですけど・・・」
さっきのオークは本当に木っ端微塵という表現があう死に方をした。木の幹がぶつかった瞬間にその衝撃に耐えられず肉、内臓、骨までもばらばらに吹き飛んだのだ。オークにどれだけの運動エネルギーが与えられたのか、想像もできない。
「とりあえず俺が何を教えたかったを言うね?」
「あ、はい」
ドラグは気を取り直して技の教授を始める。
「とりあえずシャルに覚えてほしいのは、『相手を見ること』この一つだよ」
「?それだけですか?」
ドラグの言葉に拍子抜けするシャル。戦闘中、相手を見るというのは、冒険者にとって当然のこと。今更そんなこと、いわれなくても分かっているとシャルは思ったのだ。
「それだけだよ。
でもね、それだけのことが、みんなできないんだよ、シャル?」
「?」
疑問符を浮かべるシャル。
「よく考えて。相手の動きを見て、どこに、どんな攻撃が来るのかを瞬時に判断して、回避、攻撃、防御をすることができれば、人は自分よりポテンシャルが高い相手にでも簡単に勝てるんだ。
それが、さっきの俺とオークの戦いさ。
オークは、めちゃくちゃ弱くても、魔物だ。人間よりも多少は力もある。でもね、レベルのない人間の状態になっても、オークより弱くても、オークには勝てるんだ。
それはなんでかって言うとね、相手をよく見てたからなんだよ。
相手の攻撃がどんな攻撃を、どのくらいの速さ、どのくらいのパワー、どのタイミングでしてくるのか。 そして今相手がどんな体勢にあって、自分はどこに攻撃を当てられるのか。
相手はどんな攻撃ができるのか。どれだけの間合いを取れば安全か。
相手の弱点はどこか。
そういうのを全部見て判断すれば、自分よりも強い相手を倒すことができるんだよ。
シャルは、そういうことしてた?」
「!?」
シャルは驚愕していた。
目の前で見せてくれた実演の中で、ドラグは今言ったことをすべて、瞬時に判断していたのだ。
一体それだけのことを、誰ができるだろう。
シャルはドラグのハイスペックさに驚きながら、ドラグへの尊敬の念を大きくしていた。
「まぁ、俺もそれ全部を同時に意識して見てるわけじゃない。そういうことを無意識下でできるようにするために鍛錬が必要になってくるんだ。これからしばらくは、っていうかこれからずっと、こういうことを教えていこうと思うんだけど、それでいいかな?」
「はい!お願いします!ドラグ師匠!」
「・・・・うん」
ドラグはついにシャルの師匠づけに折れた。
シャルにどんなことを教えるのかを伝えたドラグは、もうそろそろ底を尽きかけていた自分の所持金を稼ぐために、いつもの狩り場へ向かった。
「ドラグさんの戦いっぷりが見れるなんて、楽しみです!」
「危険だっていうのに・・・」
シャルも一緒に。
ドラグはシャルに「危ないから帰りなさい」と言ったのにもかかわらず、シャルは「今度こそドラグ師匠の戦いから見て学ぶんです!」といって聞かず、結果一緒に行くことになったのだった。
オークの森の奥地の湖、そこにある印の付いた木のもとに、二人はついた。
「オークの森にこんなところがあるんですね・・・」
「普通冒険者は来ないんだけどね」
「なんでですか?」
「モンスターがいっぱいいすぎて危ないんだよ。多数の魔物に囲まれると、強い冒険者でも負けちゃうことがあるからね」
「え!?危ないじゃないですか!」
「だからそう言ったじゃん・・・」
今更怖がるシャル。
「とりあえずシャルはその木の上に登って」
「木の上?」
「モンスターに気づかれないようにしてないと、シャルのほうにもモンスターが寄って行っちゃうからね」
「わ、わかりました!」
やはりモンスターは恐いのか、シャルは猿のような速さで印の付いた木の上に登った。
「この高さでいいですか!?」
「うん!そこで大丈夫だよ!始めるね!?」
「お願いします!」
ドラグは木の上に言ったシャルに確認をとると、懐から毎度恒例の自作トラップアイテムを取り出し、目の前に放った。
その効果は相変わらずで、あっという間に木々の間からモンスターが顔を出す。
「ひぃっ!」
木の上から聞こえてくる悲鳴。それを無視して刀を抜くドラグ。
「ん?前よりも多い?」
この前に狩りに来た時よりはモンスターの数が増えていた。ぞろぞろと出てくるモンスターたち。その数は、ドラグがこの狩り場で狩りを始めてから最多と言っておかしくない量だった。
(おかしいなぁ、ちゃんと狩ってるのに・・・)
魔物の出現方法は、今のところ詳しくは分かっていない。人間界での繁殖も考えられるし、魔界と現世の狭間から侵入してきているという説もあるし、魔物は自然発生的に生まれるという考え方もある。(悪魔はもともとは魔界の生き物であるという考え方が主流のため、二番目の案がいちばん有力なのだが・・・)
しかし、魔物は尽きることは無いものの、大量に狩ればその数は減るし、放置すればその数は増える。
今回、ドラグは、数日前に大量討伐を行ったのにもかかわらず、モンスターの数が増えていたのだ。
(偶然かな?)
ドラグが首をかしげていると、木の上から声が聞こえてくる。
「バ、バグベアー!?」
シャルはドラグの正面の木々から現れたその巨躯の魔物を見つけて、悲鳴を上げた。
シャルを絶体絶命の危機に追い込んだ張本人、バグベアーが、またしてもこのオークの森にやってきていたのだ。
このバグベアーは、本来この森にはいないはずの魔物。
(魔物達の生息範囲が変化してきている・・・?)
ドラグは魔物達の異変に気づきながら、左腰の片手剣を抜く。
溢れ出る闇の魔力。その魔力に気圧される魔物達。
「ん~、こいつらなら、レベル50位必要かな?」
ドラグがそう言うと、その片手剣から出てくる魔力の量がほんの少し、気持ち程度だが減った。そして何か分からないキラキラと輝くものが、片手剣からドラグのほうへ移る。
そのキラキラがドラグの腹部に到達すると、ドラグの全身が淡く発光し、しかしすぐに収まった。
「じゃあ。いつも通り、その魔力止めて、剣になって?『我力』」
ドラグはそう剣につぶやくと、ぱたりと剣から溢れ出る紫色の魔力が収まった。
その間に魔物達はぞろぞろと集まり、この前以上の大群となり、ドラグを囲んでいた。
その群れの中には数体のバグベアーが混ざっており、この前の群れよりも一段と強そうな魔物の群れとなっていた。
そんな群れの様子を見るやいなや、ドラグは舌なめずりをして、片手剣を右手に構える。
「よし、やろうか?」
その目は、もう既に戦いを求める戦闘狂の目に変わっていた。
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最近もう話を、昔に書いていた内容をいじるというより、完全に新たに作るといった方向になってきました。
出てきましたね。ドラグの剣の銘は『我力』と言います。




