第六話 こう見えて金持ちなので大丈夫です
思わず思いついて書いてしまった短編ですが、気に入っていただけたでしょうか?
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「お婆様ですか?お名前は?」
「鞠子」
「まさか、マリー・コ・カーネル様ですか?」
「なにそれ?」
「十代にして全属性魔法を操られた稀代の天才。他の世界を旅すると言い残し、異世界へ渡られた偉人です」
「あぁ~~~~」
花子は、全ての事が腑に落ちた。車中泊の事をカーネル(ⅭAR寝る)と呼んでいたのも、自分の昔の名前と掛け合わせていたからなのだろう。
そして、祖母の容姿は、黒髪黒目の純ジャパな祖父とは違い、社交界で踊っているのが似合いそうなものだった。
金に近い茶髪。
青に近いグレーの瞳。
真珠の様に白い肌。
今の年齢になっても、街角でモデルのスカウトを受けるらしい。
そして、幼い頃から花子に生きるサバイバル術を教え込み、株相場の値動きを孫にバラエティーの様に解説する変人ぶり。
剣道を始めたのも、祖母の影響だ。
鞠子の動きは、まるで舞を舞うように美しかった。
そして、家族の中で一人だけ馬鹿丁寧な話し方をしていた。
極めつけは、笑い声が、オホホホホホホだったことだ。
「うん……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
さっきのナイキの言い方を真似て答えてみた花子だが、多分、予想は合っているだろう。
「どちらにしても、花子さんから溢れ出る魔力は、別格なものと見受けられます」
ナイキが言うには、花子の魔力は、全身から後光のように光を発しているらしい。
「人間蛍みたいでやだな。引っ込められないの?」
「そればかりは、魔力操作の訓練をしないと」
「じゃぁ、教えて」
「仰せのままに」
ニコリと笑って胸に手を当てたナイキに、花子は、苦笑した。
「本当に、私って、特別な人間なのかな?」
あっさりと社長令嬢に彼氏を取られた負け犬女から、後光がさしていると言われても納得がいかない。
訝しげな視線を向ける花子に、ナイキは、
「元いらっしゃった世界でも、きっと色々他の方とは違う特性をお持ちだったと思いますが?」
と、言った。
言われてみると、花子も不思議に思う事があった。
子供の頃、祖母と旅行中に怪我を負った時、
「唾を付けていれば治るよ」
と言われ、本当にそれだけで腫れ上がった足が治ったのだ。
「貴女の体液には、治癒薬並みの魔力が込められていますからね。かく言う私も、貴女の涙のお陰で九死に一生を得ましたから」
ナイキの目には、花子の涙は黄金色に輝いて映ったらしい。
そして、花の蜜の様に甘い匂いを放ち、思わず舐めずにはいられない衝動にかられたという。
「不可抗力でした。申し訳ございません」
「もう、謝らなくていいよ、もう。それで、渡り人って、私以外にもいるんだよね?会ってみたいな」
「それなのですが、私の知る限り、数十年ぶりの御渡りです。しかも、国に富みを与える存在と言われ、大切に保護されております。ですので、彼らは一般人には会う機会がありません。花子さんが望まれるのなら、国に申し出てみますが」
「いや、いい。絶対言わないで」
国が保護していると言えば聞こえはいいが、監禁されているとも言える。
本人達が納得していれば問題ないが、自分は自由を謳歌すると決めたのだ。
わざわざ自分から名乗り出て、捕まりに行く必要もない。
そこからは、運ばれてきた食事に舌鼓を打つのに忙しくなった。
割引シールの付いた弁当の百倍は美味しい料理は、温かいだけで泣けそうな程嬉しい。
最後には、小さなケーキまで付いていて、コーヒーも豆から挽いた極上品だった。
「高かったんじゃない?」
「私は、こう見えて金持ちなので大丈夫です」
「こう見えてって、金持ちにしか見えないよね」
彼が着こなすスーツは、どう見てもオーダーメイド。
磨き上げられた靴も黒光りしており、それ以上に顔が良い。
アイスグレーの瞳は吸い込まれそうに感じられ、シルバーブロンドの髪には、エンジェルリングが輝いている。
――イケメンて、それだけで世界平和に役立っていそうよね。
眺めているだけで時間が勝手に過ぎて行ってしまうのは、逆に時間の損失とも言う。
花子の元彼も、顔だけは良かった。
だが、ナイキは、それ以上の逸材で、花子も観賞用としては完璧だなと思う。
「私、最初の目的地をローノにしたの」
「何故?」
「コロッセオがあるらしいから」
「なるほど。観光を楽しみたいのでいらっしゃいますね?」
「まぁね」
花子は、美食で満腹になった嬉しさと、まだ見ぬ光景への期待で輝くように微笑んだ。
それを見たナイキは、思わず息をのむ。
――この方は、ご自身の美しさに気付いていらっしゃらない。私が、命を懸けてお守りせねば。
ナイキは、魔法による主従契約がなくても、この美しくも無知でお人好しな女に好意を持った。
怪我した獣など見向きもせずに通り過ぎるのが、この世界での常識だ。
なにせ、どのような疫病を持っているか分からない。
それが、わざわざ血で汚れるのも厭わず拾い上げ、治療をしてくれる人間など百パーセント居ない。
正しく命の恩人であり、あっちへ行けと言われても離れがたい存在だった。
「そうだ。ナイキって私が付けた名前だけど、本名は?」
「ニケ・アンジェロと申します。ただ、私は、ナイキと言う名の方が、気に入りました」
「そう?じゃぁ、これからもナイキって呼ぶわね」
この時、花子は知らなかった。この男が、正真正銘の大貴族であり、世界屈指の大魔法使いであるという事を。
完




