第二話 シゴデキバタ臭ドケチ女
「ただいま、データーをリロード致しました」
花子が、状況が理解できずに呆然としていると、突然カーナビが話し始めた。
「ひいっ」
花子は、思わず恐怖で悲鳴を上げてしまったが、その声が聞き慣れたものだった為、思わず首を傾げる。
「え?おばあちゃん」
祖母鞠子は、行動の突飛さとは裏腹に、とても上品な口調で話す人物だった。
そして、名前が純和風なくせに、顔がバタ臭かった。
その血を引いた花子も、日本人離れした鼻筋をしていて、クッキリ二重のバサバサ睫毛で化粧をせずとも化粧をしているようなゴージャスさを兼ね備えていた。
化粧品に金を使わないのに、商社の営業でまかり通ったのは、この加工を必要としない整った顔立ちがあったからだ。
「次の目標地点は、いかがなさいますか?」
カーナビから流れてくる声は、やはり鞠子のもので、有り得ない状況にパニックになっていた花子も、少しずつ落ち着いていく。
「なんか、ホッとする声ね」
一度ハンドルから手を離した花子は、助手席に載せてあった水筒のお茶を飲んだ。
ゴクッゴクッゴクッ
喉が渇いていたから勢いよく飲んでしまったが、スーパーすら見当たらない場所で、買い物を出来るはずもない。
慌てて飲むのを止めて水筒を振ってみると、かなりの重さがあった。
「ん?結構入ってる?」
朝から何回も口を付けた割に、かなりの量が残っていた。
もう一度飲んでから、水筒を振ってみたが重さが変わらない。
「まさか、水筒の中から湧いて出てるとか?」
魔法のような現実に、ふと、花子は昔鞠子に読んでもらった物語を思い出した。
それは祖母鞠子お手製の絵本で、魔法が使える少女マリーが現代の日本に突然迷い込み、右も左も分からないまま引き起こす珍騒動が描かれていた。
花子は、大好きな祖母と似た名前の少女が大活躍する内容が、本当に大好きだった。
毎晩飽きることなく読み返したほどだ。
主人公は、ある時は、干ばつにあえぐ農家の為に、慈雨を降らせた。
またある時は、大怪我を負った馬を走れるほどに治療してみせた。
現実世界では決して不可能な奇跡を、魔法と言う力で成し遂げるマリーが、本当に格好よく見えたのだ。
――たしか、その中に、中身の減らない水筒の話があったはず。
思い出を紐解いてみると、祖母と絵本の少女は名前だけでなく全てが本当に良く似ていた。
姿かたちだけでなく、口調や行動パターンまでもが。
「うそでしょ……」
祖母が異世界の魔法使い?
そんな馬鹿馬鹿しい話が、現実のはずがない。
きっと、これは疲れすぎた花子が見ている夢なのだ。
花子は、自分の頬を摘まむと思い切り抓ってみた。
「いった~~~!」
思い切りが良すぎて、引き千切れるかと思った。
結局、激痛が走っただけで目は覚めなかった。
「おばあちゃん……本当に魔法使いだったの?」
花子は、なんだか可笑しくなってきた。そして、これが夢でも現実でも構わないと吹っ切れた。
「折角なら、楽しまないとね!」
そう思えた根底には、祖母への絶対的信頼感があった。
自分を孫ではなく、旅の相棒として扱ってくれた大切な人が、この旅を用意してくれた。
そう思えば、何も怖がることは無かった。
「おばあちゃんに負けない大冒険にして見せるわ!見ててね、おばあちゃん」
まるで天国に居る人に思いを馳せるように空を見上げた花子だが、鞠子はまだ生きている。
今もトライアスロンに出場し、七十代の部で優勝するほどの体力の持ち主だ。
もし、今目の前に居たら、
――勝手に殺さないでいただけるかしら?
と、扇を広げ、口元を隠しながら厳しい視線を受けてくるに違いない。
こうして、シゴデキバタ臭ドケチ女の異世界ⅭAR寝る旅が始まったのだった。




