第五話 とんだ大物の孫に拾われたようだ
色々と花子が規格外な人間という事を理解したニケだが、大事なことは伝えておかなければならないと思い、彼女に現状を説明することにした。
「しかし、魔力を動力源としておりますので、乗れる者は少なく、運手を出来るだけで尊敬に値するのです。ですので、今周りにいる者達が花子さんに向ける視線は、尊敬の眼差しという事になります」
レストランのドアを開け、中へとエスコートすると、店の客が一斉に花子を見た後視線を下げた。
それは、不躾に見て失礼になってはいけないという気持ちの表れだった。
二人がテーブルに着くと直ぐに、ウェーターが走って来た。
普段見ない魔力量を放つ女性を見て、内心興奮していたのだろう。
接客を他の者に奪われてはならないと必死だ。
ニケは、手渡されたメニューを見て、この店の名物料理をいくつか頼んだ。
それに合わせて飲み物も頼む。
「はい!承知いたしました」
威勢のいい返事をして帰っていくウェーターに対して、花子の眉間に皴が寄った。
どうやら、自分が特別な扱いをされているのだと気づいたようだ。
「まさか、ずっと、こんな風に扱われるの?」
「そうかもしれませんし、そうではないかもしれません」
「意味深な言い方、止めてくれる?」
花子が唇を尖らせてむくれる姿を見て、ニケは、軽く頭を下げた。
突然異世界へ飛ばされ、ただでさえ気持ちの整理が追い付かない彼女を、もう少し気遣うべきだった。
「申し訳ありません。ただ、全身から漏れ出る魔力を抑えきれないうちは、ずっと、このように扱われると考えた方がよろしいかと存じます」
漏れていると言われて、慌てて花子は、自分の手を見てみた。そして、首を傾げていた。
「何も見えないけど?」
「それは、貴女にとって、その状況が当たり前すぎるからです。魔力のない者に取れば、眩し過ぎて目が開けていられない程ですから」
「そんなものなの?」
花子は不思議そうな顔をするが、ニケの目から見ても、花子は発光しているように見える。
その姿は、まるで女神のようだ。
彼が幼少期から再来と騒がれた伝説の魔法使いも、このような人物だったと語り継がれていた。
「つかぬことをお聞きしますが、花子さんの御身内に、こちらの出身の方がいらっしゃるのでしょうか?」
不躾だとは思ったが、どうしても気になってニケは聞いてしまった。
すると、花子は驚いた顔をした後、一瞬黙った。
――あぁ、また私は失礼なことをしてしまったようだ。
反省しても、口から出た言葉を引っ込めることは出来ない。
――許してもらえるなら土下座でもしようか?
と思い始めていたニケの耳に、
「多分、おばあちゃんかな」
と言う声が聞こえた。
「お婆様ですか?お名前は?」
「鞠子」
言葉の響きに、予想が当たっていたことを確信したニケは、
「まさか、マリー・コ・カーネル様ですか?」
と正解を求めるように聞いた。
しかし、花子は、キョトンと驚いたような顔をして、全くピンと来ていないようだ。
「なにそれ?」
「十代にして全属性魔法を操られた稀代の天才。他の世界を旅すると言い残し、異世界へ渡られた偉人です」
「あぁ~~~~」
そこで、やっと花子は何かに思い当たった様だ。
「うん……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
言葉を濁してはいるが、どうやらニケは、とんだ大物の孫に拾われたようだ。
「どちらにしても、花子さんから溢れ出る魔力は、別格なものと見受けられます」
「人間蛍みたいでやだな。引っ込められないの?」
「そればかりは、魔力操作の訓練をしないと」
「じゃぁ、教えて」
傍にいることを許されたニケは、大公家の中で唯一自分を思いやってくれた執事を思い出し、彼の所作を真似て胸に手を当てた。
「仰せのままに」
彼女が望むなら、地面に膝をついて靴に口づけしても構わないとすら思う。
ニケにとって、花子は神様が与えてくれた幸運なのだから。




