第四話 完全に執事キャラをものにして
ルーポ達から逃げ切ったニケは、助手席に座って外の景色を楽しんでいる。
横で運転し続けている女性の名前が花子だという事は分かっただけで、天にも昇る気持ちだった。
「それで、契約の件なのですが」
「うん。それは、後で」
そう答える花子からは、最初に感じられた刺々しさは消えていた。
何故なら、ニケが語るこの世界の常識が、かなり彼女の常識と外れていることに気付いたからだろう。
――利用価値のある男だと知ってもらえたようで、良かった。
この直前、ニケは、まるでマジックのように空間魔法で金貨を一枚取り出して見せた。
純金製の硬貨は、それ自体に価値がある。そして、残念ながら、花子の財布の中に入っている紙切れは、ただの紙切れだ。
それ以外にも、食料や衣服等入れ放題の魔法に、彼女は興味津々だった。
「そんなに簡単に物を出し入れできるなら、私が起きる前に服くらい着られたでしょ?」
「花子さんが力強く抱きしめて下さっていたせいで、残念ながら無理でした」
「あ、そっ」
素っ気なく答えられるのも、これはこれで面白い。
言葉ばかり丁寧で中身のない貴族令嬢とは大違いだ。
――しかし、私は、この話し方で合っているのだろうか?
常に傅かれる側だったニケは、自分よりも上の人間が少なかった。
所謂、王族ぐらいである。
そして、彼らとは殆ど口を利くことなく、一方的に命令を下されるだけの関係。
そうなると、彼の模範となるべき相手は、唯一仲の良かった執事しかいない。
その言葉遣いを真似てみたのだが、どうも違和感があって自分でも可笑しくなってくる。
「先ずは、腹ごしらえよ。奢って」
「仰せのままに」
正に仰々しく返事をしつつ、ニケは笑った。
――彼女の為なら、全財産はたいても悔いはないな。
一応、親に渡さなかった金だけでも、一財産ある。
国家予算とまでは言わないが、無職でも、死ぬまで食べるのには困らないだろう。
たかる気満々の花子に、奢る気満々のニケ。
町まで辿り着いたころには、完全に執事キャラをものにして、いかに彼女を楽しませるかだけを考えていた。
「ナイキ」
「なんでしょうか?」
「貴方もだけど、ここにいる人達って、私の乗り物に驚かないわね」
乗り物を降り、レストランに向かう途中、周りをキョロキョロと見回していた花子がニケに尋ねた。
「どういうこと?」
「あるんですよ、ここにも。花子さんが運転されるのに似た乗り物が」
「え?」
「われらの世界には、渡り人が時々来られるのです。その方々が、作られた乗り物と形が酷似しております」
「あぁ。なるほど」
渡り人について説明すると、花子は思いの外あっさりと受け入れた。
「こちらでは、カーと呼ばれております」
「そのまんまね」
捻りのないネーミングに、逆にガッカリした様子すら見せた。
――なかなか、肝の据わった人だ。
自分なら、これほど自然になじむことは出来ないだろと、ニケは変なずぶとさを持つ花子に感心した。




