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今日も凍てつく視線を投げてくる息子はまだまだ反抗期なので、俺のダンディズムを教えてやろうと思う  作者: 黒瀬 蓮


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第5話 玄関で靴を揃える。それが紳士だ

 駅に着くと、時刻は22時――。

 ああ、なんて事だ。

 取引先からの急な誘いを断りきれず飲み会に付き合わされてしまった。

 全く、今どき飲みニケーションなんか流行らない。令和だぞ、令和。

 来月の社長面談ではノミハラについて熱く語りたいと思う。


 慌てて帰路に就く。

 由紀子はきっと今頃肩を震わせながら、泣いているだろう。

 一秒でも早く由紀子の元に帰らねば――。


 ようやく自宅に着く。

「ただいま」と玄関で言い、靴を揃えた。


 暗闇の中、人の気配がした。

 由紀子か!?

 ああ、間違いない! この香りは由紀子だ。


 俺は思わずその人影を思い切り抱きしめた。

 身体から香るシャンプーの匂い。

 ああ、由紀子。思わず溶けてしまいそうだ。


 顔を見ようと肩を掴んだ。

 ん? 由紀子こんなガタイ良かったか?

 視線を上げると胸の中にいたのは紫音だった。


 ダンディズムを極める俺としては、まさか由紀子と間違えたなんて、口には出来ない。


「おう、紫音、ただいま!ちょっと母さんと間違えてしまったな、はは」


 呆れた顔をしながら俺を見る紫音は、今日もイケメンだ。


「……ったく! また酔ってんのかよっ!毎回抱きつくの止めろ!押し返して倒れられても困るから!こっちは身動き取れねぇんだからな!」


 生意気な口を利いても優しさ溢れるイケメンだな紫音。父さんは嬉しい。

 紫音の言葉を若干無視しながら俺は紫音に言う。

「紫音、帰ってきたら靴は揃えるんだぞ?」

「あ、他人の家に行った時もな?」


 紫音は、「耳にタコだっつーの!」と言いながら階段を上がっていった。

 由紀子がリビングからバタバタと迎えに来る。

 ああ、本物の由紀子。可愛い。愛しい。


「由紀子、ただいま」

「はい、お疲れ様」

 満面の笑顔で俺を見つめる由紀子。

 この笑顔を見るために、俺は今日も頑張れた。


「ありがとう、由紀子」

 そう言って由紀子を抱きしめようとした瞬間、

 親父が奥から出てきた。出てこなくていいのに……


「若いの……」

 やっぱり、掴めない。神出鬼没の親父。

 親父と言えども、俺と由紀子の甘い時間を奪うことは許されない。


「……親父、まだ起きてたのか」

「ほっほっ、年寄りは目が覚めるのが早いんでな?」

「今は夜の23時だが?」

「細かいこと言う奴は由紀子さんに愛想を尽かされるぞ?」

 まるでヘビに睨まれたカエルだ。

 昔からだ。この親父、妙に返しが強い。


 由紀子がクスクスと笑っている。

 ああ、由紀子。そんな楽しそうに笑う顔も可愛い。

「由紀子、風邪を引くといけない、こっちへ……」


 自然な流れで肩を抱こうとした瞬間、


「おお、そうじゃ!」

 親父が急に手を叩いた。

「ワシ、腰をやってしまってのぉ」

「は?」

「今日は由紀子さんに腰を揉んでもらおうかのぉ」

「えっ、お義父さん大丈夫ですか!?」

 由紀子が慌てて親父の元へ向かう。


 ……ぐっ。

 ダンディズムを極める俺としては、姑息な嫉妬など見せるわけにはいかない。


「由紀子ぉぉぉ〜」

 親父の元に行こうとした由紀子を抱き寄せる。


 親父がニヤリと笑う。

「器が小さいのぅ」

「……くっ」


 今日もいっぱい食わされた。でも、いい。

 由紀子さえ守れるなら、俺はダンディズムさえ捨てられるんだ。

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