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壊すしかできない出来損ないの聖女として捨てられた私、不滅の鬼神将軍に拾われて世界で唯一の"討滅の聖女"として溺愛される  作者: 蒼城レイ


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第9話 乞われても、もう遅い

その使者は、夜陰に紛れて、辺境の砦を訪れた。


   * * *


粗末な外套に身を包み、紋章を隠した馬車。降りてきたのは、王宮の文官だった。供も連れず、ただ一人で。それが、すべてを物語っていた。これは、公式の使者ではない。王家が、表立って認めることのできない——非公式の、救援要請。


「ヴィオレッタ・ロートリンゲン様」


砦の広間で、文官は深く頭を垂れた。震える声で。


「どうか……どうか、王都をお救いください。灰の病が、城壁にまで迫っております。聖女アンネリーゼ様の力では、もはや、抑えきれませぬ。あなた様の——あなた様の力だけが、頼みなのです」


広間に、辺境の兵たちが集まっていた。皆、冷ややかな目で、その文官を見ている。この男が代表する王都が、自分たちの聖女に何をしたか、彼らは知っているからだ。


私は、玉座のような将軍の椅子には座らず、文官の前に、まっすぐ立っていた。ジークが、すぐ後ろに控えている。


「お顔を上げてくださいまし」


私の声は、自分でも驚くほど、静かだった。


「あなた方は、私を何と呼んで、追放なさいましたかしら」


文官の肩が、びくりと震えた。


「破滅の聖女。出来損ない。祈れば祭壇を砕く、魔女の再来——でしたわね」私は、ゆっくりと続けた。「馬車も、護衛もなく。聖女衣の代わりに、薄い旅装一枚で。私を、国境の外へ捨てた。背後で門が閉まる音は、ずいぶんと、軽うございましたわ」


「も、申し訳……」


「謝罪を聞きに来たのではありませんわ」私は遮った。「ひとつ、教えてさしあげましょう。——あなた方が灰になっていく理由を」


私は、文官を見据えた。


「王都を守っていたのは、守りの聖女の祈り——ではありませんの。私ですわ。あなた方が"花を枯らす"と忌んだ、この手で」


文官が、息を呑んだ。広間が、しんと静まる。


「私を捨てた日から、王都を守る手は消えました。守りの聖女には、塞ぎ直すことしかできない。根絶できるのは、私だけ。——あなた方は、唯一の解を、自ら捨てたのですわ」


私は、深く息を吸った。怒りはあった。けれど、もう、それに飲まれはしない。


「ですから——今さら祈りを乞われても、もう遅いのですわ」


冷たい言葉が、広間に響いた。文官が、絶望に顔を歪める。けれど。


「——と、申し上げたいところですけれど」


私は、続けた。


「灰になっていく民に、罪はありませんわ。子どもも、老人も、ただ怯えて暮らす者たち。私を石もて追ったのは、王子と、教会と、妹。民ではない」


私は、文官の目を、まっすぐに射た。


「——憎む相手と、救う相手は、別ですのよ」


文官が、はっと顔を上げた。


「ですから、民は救います。けれど——勘違いなさらないで」


私は、声に芯を込めた。


「私は、王家に屈したのでも、教会に許しを乞われたから動くのでもありませんわ。民を、私が、救いたいから救うのです。あなた方の体制に、頭を下げるつもりは、ありませんの。——むしろ、申し上げておきますわ」


ジークの気配が、背後で、静かに私を支えていた。


「守りの聖女だけを正統とし、討滅の力を"破滅"と忌んできた、あなた方のやり方。それが、間違いだったと——いずれ、王都のすべてが、思い知ることになりますわ。私を捨てた、その選択の結果として」


文官は、何も言えなかった。ただ、深く、深く、頭を垂れるだけだった。


「ご報告なさい。辺境のヴィオレッタは、民を救うと。けれど、王家の救援要請に応じたのではない、と。——その違いは、大きゅうございますわよ?」


   * * *


文官が去ったあと、ハーゲンが、感嘆の声を漏らした。


「お見事でさ、お嬢さん。捨てた連中が、頭を下げに来た。これ以上の意趣返しは、ねぇ」


「意趣返しではありませんわ」私は微笑んだ。「ただ、立場が、変わっただけ。捨てられた者が、捨てた者に、必要とされる。——それだけのことですの」


ジークが、私の隣に並んだ。氷のような目に、わずかな熱があった。


「お前は、強いな」彼は静かに言った。「俺が何百年も探していた力で、お前は——人の心まで、変えていく」


   * * *


その頃、王都では。


非公式の救援要請が黙殺されかけたことを知った、一人の少女がいた。アンネリーゼ。彼女は、自分の無力を突きつけられ、姉が「民は救うが、王家には屈さない」と告げたという報告を聞いて——蒼白になった。


「姉さまが……民は救う、と」彼女は震える手を握りしめた。「でも、わたくしには、屈さない。わたくしを……許さない、ということ?」


焦燥が、彼女を突き動かした。このままでは、聖女の座が崩れる。姉に、もう一度すがらなければ。直接、会って。膝をついてでも。


「……行くわ」彼女は呟いた。「わたくしが、辺境へ。直接、姉さまに、お願いするの」


追放した姉のもとへ、捨てた妹が、自ら向かう。


その決断が、二人の——そして、王都と辺境の運命を、大きく動かすことになるとは、このときの彼女は、まだ知らなかった。


お読みくださりありがとうございます。第9話、そして第1章「灰の辺境」、ここに完結です。

捨てられた聖女が、捨てた者たちに必要とされる——けれどヴィオレッタは、王家には屈しない。民は救う。その線引きにこそ、彼女の強さがあります。立場の、完全な逆転。

そして、追い詰められた妹アンネリーゼが、自ら辺境へ向かうことを決意しました。次章、ついに姉妹が、辺境で相まみえます。「姉さま、力を貸して」と縋る妹に、ヴィオレッタは何を告げるのか——。

ここまで第1章を読んでくださって、本当にありがとうございます。物語は、いよいよ"ざまぁ"の本番、王都の崩壊と妹との直接対決へ。続きを、どうか見届けてください。

面白いと思っていただけたら、ブックマーク・☆評価で応援いただけると、何よりの励みになります。次章で、またお会いしましょう。


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