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壊すしかできない出来損ないの聖女として捨てられた私、不滅の鬼神将軍に拾われて世界で唯一の"討滅の聖女"として溺愛される  作者: 蒼城レイ


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第14話 姉さま、と呼ぶ口で

翌日の昼過ぎ、聖女の紋章を掲げた馬車が、辺境の砦に着いた。


降りてきたのは、純白の聖女衣をまとった少女。淡い金の髪、白い肌。半年前、大聖堂で勝ち誇って微笑んでいた、私の異母妹——アンネリーゼ。


けれど、その姿は、記憶の中の彼女とは違った。聖女衣には旅の埃が滲み、目の下には隈が浮いている。美しい顔は、明らかに、やつれていた。


「姉さま……!」


私を見るなり、彼女は駆け寄ってきた。両手を差し伸べ、その目に、涙さえ浮かべて。


「お会いしとうございました! ああ、ご無事で……本当に、よかった」


芝居だ、と思った。半年前、私を国境の外へ捨てた者の言葉とは思えない。


「ずいぶんと、優しいお言葉ですわね」私は冷ややかに応じた。「半年前、私を『破滅の聖女』と呼んで、勝ち誇っていらした方とは、別人かと思いましたわ」


アンネリーゼの差し伸べた手が、わずかに止まった。けれどすぐに、彼女は悲しげに眉を寄せた。


「あのときは……わたくしも、若かったのです。何も分かっていなかった。姉さまの力が、どれほど尊いものだったか」彼女は、目元を拭った。「王都が灰に沈み始めて、ようやく分かりましたの。わたくしの守りでは、災厄は止められない。姉さまの力こそが、本物だったと」


言葉だけ聞けば、悔悟の告白だった。


「だから、お願い」彼女は、すがるように私の手を取ろうとした。「姉さま、王都にお戻りになって。あなたの力を、貸して。一緒に、王都を救いましょう。——昔のように、姉妹で」


昔のように。


私は、その言葉に、胸の奥が冷えるのを感じた。彼女が「聖女」として崇められ、私が「破滅」として忌まれていた、あの日々。それを、彼女は「昔のように」と呼ぶのか。


「……アンネリーゼ」


そのとき、私の背後で、低い声がした。ジークだ。彼は腕を組み、冷たい目で妹を見下ろしていた。


「この女から、離れろ」


「ま、まあ。鬼神将軍さま」アンネリーゼは、わざとらしく身をすくめた。「怖い。姉さま、この方は……」


「ジークは、私の大切な人ですわ」私は、はっきりと言った。「あなたが心配する必要は、ありませんの」


妹の表情が、ほんの一瞬、揺れた。「大切な人」という言葉に、彼女の中の何かが、嫉妬とも焦りともつかない色を、ちらりと覗かせた。けれどすぐに、彼女は聖女の微笑みを取り戻した。


「……とにかく、お話を聞いてくださいな、姉さま。お部屋で、二人きりで」


   * * *


二人きりになど、なってやる気はなかった。私はジークとハーゲン、そして昨夜から砦に留まっている使者のトビアスを同席させて、広間で妹と向き合った。王都へは戻らず、彼はこの辺境で、私に教会の隠しごとを伝える役目を選んでいた。


最初のうち、アンネリーゼは涙ながらに「和解」と「救援」を訴えた。けれど、私が首を縦に振らないと見るや——その仮面に、少しずつ、ひびが入り始めた。


「なぜ、お分かりにならないの」彼女の声が、苛立ちを帯びた。「王都が、滅びかけているのですよ。姉さまの力があれば、救えるのに。それを断るなんて、薄情ではありませんこと?」


「薄情、ね」私は静かに返した。「私を捨てた方々が、自分の都合で乞いに来て、断れば薄情。便利な言葉ですこと」


「だって、姉さまにしか、できないのですもの!」


彼女は、思わず、というように声を荒げた。そして——口を、滑らせた。


「姉さまの力さえあれば、わたくしはまた、聖女として……」


はっと、彼女が口を噤んだ。けれど、遅かった。


「また、聖女として」私は、その言葉を、ゆっくりと繰り返した。「——崇められる。そう仰りたかったのでしょう?」


「ち、違いますわ。わたくしは、ただ民を……」


「アンネリーゼ」私は、彼女の言葉を遮った。「あなたが欲しいのは、私の力ではありませんわね。私の力が支えた、『聖女アンネリーゼ』の座でしょう。王都が灰に沈んで、あなたの守りが通用しないと露見した。このままでは、あなたは聖女の座を失う。だから——また、私を使いたいのですわ。陰で災厄を断つ、便利な道具として」


妹の顔から、血の気が引いた。図星を突かれた者の顔だった。


「昔のように、と仰いましたわね」私は続けた。「ええ、昔。私が陰であなたの聖女を支え、あなたがその手柄を独り占めしていた、あの昔。あなたが言う『姉妹』とは、そういう意味でしょう?」


「……っ、姉さま、ひどいですわ! わたくしは本当に、和解を……!」


「和解を望む者は」私は静かに言った。「縋ると同時に、自分の座の心配などしませんわ」


広間が、静まり返った。トビアスが、信じられないという顔で妹を見ている。ハーゲンが、呆れたように首を振った。ジークは、最初から見抜いていた、というように、冷たい目で妹を見下ろしていた。


「……いいですわ」アンネリーゼは、とうとう仮面を脱ぎ捨てた。涙は引っ込み、その目に、追い詰められた者の険が浮かんだ。「わたくしは、聖女です。正統な、治癒の聖女。あなたは、破滅の聖女。世間の評価は、変わりませんわ。あなたがどれだけ辺境で持て囃されようと、王都が認めなければ、ただの追放者」


「ええ、それで結構ですわ」


「強がりを」彼女は、ふん、と鼻を鳴らした。「いいでしょう。なら、見せてさしあげます。本物の聖女が、どちらか。——わたくしの守りが、あなたの破壊より、どれほど尊いか」


その、まさに、ときだった。


砦の鐘が、けたたましく鳴り響いた。見張りの兵の絶叫が、櫓から降ってくる。


「災厄だ——っ! 砦の、目の前! 辺境の境界に、大型の灰の獣が、出現したぞ——っ!」


私と妹は、同時に立ち上がった。


守りの聖女と、討滅の聖女。


どちらが本物か——その問いの答えを示す舞台が、今、目の前に、整った。


お読みくださりありがとうございます。第14話、対決前夜でした。

「姉さま」と呼ぶ口で、本音が漏れる。アンネリーゼが欲しいのは姉の力ではなく、姉の力が支えた「自分の座」。彼女自身の口から、それが露わになりました。

そして次回・第15話、いよいよ大型イベント②。災厄を前に、守りの聖女と討滅の聖女、どちらが本物か。妹の治癒が無力を晒し、ヴィオレッタが——罵倒ではなく「事実」で、妹を完全に崩します。第一部、対決第一幕の決着回です。ブックマーク・☆評価で応援いただけると、とても励みになります。

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