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壊すしかできない出来損ないの聖女として捨てられた私、不滅の鬼神将軍に拾われて世界で唯一の"討滅の聖女"として溺愛される  作者: 蒼城レイ


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第13話 乞う者の顔

王都からの使者は、若い神官だった。


名をトビアスと名乗った。年の頃は二十そこそこ。下級神官の質素な衣に、長旅の埃をかぶっている。砦の広間で私たちの前に立った彼は、王家の紋章入りの書状を捧げ持ちながら——その手が、震えていた。


「グレンツェ辺境伯閣下。そして……」彼は私を見て、言葉に詰まった。「ヴィオレッタ・ロートリンゲン……様」


「様、ですって」私は片眉を上げた。「半年前、私を国境の外へ捨てた都の方が、ずいぶんと丁寧な口をきかれますのね」


トビアスの顔が、ぐしゃりと歪んだ。怒りでも、侮蔑でもない。羞恥と、後ろめたさの表情だった。


「申し訳ありません」彼は、深く頭を下げた。神官が、追放した令嬢に。「あの断罪の場に、私もおりました。何も言えず、ただ……あなたが引きずられていくのを、見ていただけでした。今もそれが、悔いです」


私は、少し意外に思った。王都から来る者など、傲慢な命令を携えた連中だとばかり思っていた。


「書状の用件を」ジークが短く促した。


「はっ」トビアスは書状を開いた。「王都ハルデンにて、灰の被害甚大。聖女アンネリーゼの守りでは抑えきれず——王家は、ヴィオレッタ殿の……討滅の力を、お借りしたく」


「借りたい、ね」私は冷ややかに笑った。「捨てておいて、借りたい。ずいぶんと虫のいい話ですわ」


「ごもっともです」トビアスは反論しなかった。それどころか、声を落とした。「……ですが、ヴィオレッタ様。お願いに上がったのは、表向きの用件です。私が、本当にお伝えしたかったのは——」


彼は、広間の入口を、ちらりと窺った。同行の文官たちが、外で待っている。それを確かめてから、彼は声を、さらに低めた。


「教会上層は、この災厄の原因を、知っています」


広間の空気が、張りつめた。


「どういうことですの」


「私は神殿の文書庫で、書記の務めをしておりました」トビアスは早口で続けた。「灰の被害が始まってから、上層が古い記録を慌てて運び出し、封じるのを、何度も見ました。封印地の管理記録……歴代の聖女の記録……それらを、私たち下級の者の目から、隠すのです。まるで、知られては困ることがあるかのように」


「知られては困ること」


「それだけではありません」彼の声が震えた。「私は、ある記録の断片を、見てしまいました。封印は——意図して、ある『水準』に保たれている、と。完全に滅ぼすのでも、放置するのでもなく。誰かが、意図して、灰の獣を……『管理』している、としか読めない記述でした」


私は、ジークと目を見交わした。


封印が、勝手にほどけているのではない。誰かが、意図して、管理している。完全に滅ぼさず、わざと残している。——何のために。


「その記録を見たことを、上層に知られて、私は」トビアスは苦く笑った。「辺境への使者という、最も危険で、最も体のいい『厄介払い』を命じられました。途中で灰の獣に喰われて死ねば、口封じになる。そう思われているのでしょう」


若い神官の、覚悟の顔だった。


「なぜ、それを私に話しますの」私は問うた。「黙って使者の務めを果たせば、命は助かったかもしれませんのに」


「……西広場で、子どもが灰になるのを見ました」トビアスは、まっすぐに私を見た。「果物売りの男も。母親も。あの人たちは、何も知らずに、ただ朝市に来ていただけです。教会が何かを隠して、その間に、罪のない人が灰になっていく。——私は神官です。それを、見過ごせません」


私は、しばらく黙っていた。


私を捨てた都など、灰に沈めばいい——その思いは、確かにある。けれど、西広場で灰になった子どもに、罪はない。そして今、目の前で、若い神官が、命を懸けて真実を告げている。


「ジーク」私は彼を見た。「私、決めましたわ」


「言ってみろ」


「王都の体制になど、屈しません。乞われたから駆けつける、なんて真似はしませんわ。——でも」私は使者を見た。「目の前で灰になる人を、見捨てもしません。災いの芽は、王都だろうと辺境だろうと、私が灰に還します。それが、討滅聖女の務めですもの」


「……それでいい」ジークは頷いた。「お前は、そういう女だ」


トビアスが、震える声で「ありがとうございます」と頭を下げた。


「トビアス様」私は名を呼んだ。「あなたは、勇気のある方ですわ。その記録のこと、もっと詳しく聞かせてくださいな。——誰が、何のために、災厄を飼っているのか。私、突き止めますわ」


   * * *


その夜、私は使者を砦に泊め、明日から詳しい話を聞く手筈を整えた。


眠る前、物見櫓に登って北の空を見ていると、ハーゲンが上がってきた。


「お嬢さん。妙な報せだ」老副官は、難しい顔をしていた。「南の街道から、もう一団、こっちへ向かってる馬車があるってよ。それも——王都の、聖女の紋章を掲げた、立派なやつだ」


「聖女の、紋章」


私の胸が、ざわりと波立った。聖女の紋章を掲げて、辺境へ向かう者など、一人しかいない。


「ああ」ハーゲンは、私の顔色を見て、声を落とした。「……あんたの、妹さんだそうだ。アンネリーゼ様が、自ら、こっちへ向かってる」


半年前、私を「破滅の聖女」と呼び、勝ち誇って微笑んだ妹。


その妹が、今、自ら辺境の門へ——私のもとへ、来ようとしていた。


お読みくださりありがとうございます。第13話、乞う者の顔でした。

王都の人間がみな悪人ではない。トビアスのような、良心を捨てきれない者もいる。そして彼の口から、この物語の黒幕の影が、初めて滲み始めました。「誰かが、災厄を管理している」——その正体は、もう少し先で。

そして次回、ついに妹アンネリーゼが辺境に到着します。「姉さま」と呼ぶその口は、何を企んでいるのか。第14話、対決前夜です。ブックマーク・☆評価で応援いただけると、とても励みになります。


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