表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にました。神様が『ごめん全部あげます』って言ってきたので、好き放題無双することにします  作者: 甘栄堂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

第7話:魔族の娘は、なぜ少しだけ“普通”なのか

 王女と話しても、聖女と話しても、エルフ娘と話しても、最近はだいたい同じところへ着地する。


 俺を褒める。

 俺を気遣う。

 俺を優先する。

 俺が望めば何でも従う。


 それ自体は悪くない。

 むしろ、ちょっと前の俺なら、そんな状況で文句を言う奴の気が知れないと思ったはずだ。

 でも、毎回そうだと、さすがに見えてくるものがあった。


 会話の終わり方が似ている。

 何を振っても、最後はこっちを立てる方向へ戻る。

 少しズレるだけで、勝手に補正されるみたいに、きれいな形へ収まっていく。

 楽だ。

 めちゃくちゃ楽だ。

 楽なんだけど。


「……うーん」


 昼下がり、部屋の椅子にだらっと座りながら、俺はぼんやり天井を見た。


 王女は丁寧すぎる。

 聖女は厳かすぎる。

 エルフ娘は静かすぎる。

 全員、美人だし、全員こっちを向いてるし、全員“正解”の反応を返してくる。

 なのに、最近ちょっとだけ、息が詰まる。


「零さん……?」


 横から、遠慮がちな声がした。

 ミアだ。

 こいつは相変わらず、いつも部屋の隅にいる。最近はもう、そのこと自体を気にしなくなってきた。


「なあ、前から思ってたんだけど」

「はい」

「王女も聖女もエルフも、補正かけたらすぐ“こっち向き”になったよな」

「はい」

「でもあいつだけ、妙に普通なんだよ」

「普通……?」

「ちゃんと文句言うし、軽口も返すし、まだ向こうの自由な意思? が残ってる感じ」


 ミアが、ああ、という顔をした。

 その、分かってました、みたいな顔がちょっと腹立つ。


「何だよ、その“ああ”って」

「いえ……説明していませんでしたので……」

「説明しろよ」

「はい……」


 ミアは小さく居住まいを正した。

 こういうときだけ、少し業務っぽい。


「魔族は、神界と長く敵対してきた種族です」

「敵対……。そうだろうなぁ」

「はい。神聖干渉への抵抗値が、全体的に高い傾向があります」

「抵抗値って、ゲームみたいに言うな」

「実際、近いです……」


 それはそうかもしれない。

 世界そのものが管理画面で見えてる以上、今さらそこへ突っ込んでも仕方ない。


「好感度補正や印象補正も、人間やエルフより通りにくいです」

「へえ」

「特に、あの方は初期値がかなり低かったので……」

「初期値?」

「零さんへの印象です」

「……どんだけ低かったんだよ」

「だいぶ」


 そこで言葉を切るなよ。

 だいぶ、じゃ分からんだろ。


「じゃあ、あれでも補正かかってるのか?」

「かなり」

「かなりかよ」

「かなりです……」


 俺は少し黙った。

 あの魔族の娘は、俺の前で普通に文句を言う。素直ではない。言い回しにも棘がある。こっちの言うことを全部そのまま飲み込む感じでもない。

 だから、あいつだけは少し“生きてる”感じがした。

 でも、その“生きてる感じ”ですら、補正込みだったらしい。


「……初期値どんだけ低いんだよ」

「マイナスの極大値に近かったです」

「マ、マイナス? しかも、極大値って……」

「事実ですので……」

「そのマイナスが、ツンデレくらいまで上がってるってこと?」

「そういう理解で、だいたい合っています」

「雑な説明だな」

「分かりやすさ優先です……」


 でも、妙に納得はした。

 なるほどな、と思った。

 完全にこっちへ落ちるには抵抗がある。

 だから少し引っかかる。

 少し引っかかるから、会話になる。

 王女や聖女やエルフ娘みたいに、最初から最後まで“はい、零様”で終わらない。

 その分だけ、面白い。


「……皮肉だな」

「何がですか……?」

「落ちにくい方が、話してて楽しいってことだよ」


 言ってから、自分で少し笑った。

 ちょっと前の俺なら、最短で落ちる方がいいに決まってると思っていた。

 いや、今もその気持ちはある。あるけど、全部がそれだと、逆につまらない。

 創作でもそうだった。

 理想郷でもそうだった。

 何もかも最短で整うと、最後に残るのは“終わってしまった感”だけだ。


「全部最短で片づくのって、楽ではあるんだよな」

「はい」

「でも、何か違う」

「はい」

「……お前のその“はい”、最近ちょっと腹立つな」

「すみません……」

「ほら、それ」


 ミアがしゅんとする。

 こいつはこいつで、毎回ほぼ同じ反応だなと思ったが、それを言うのはやめた。たぶん今は、本題じゃない。


 その日の夕方、俺は魔族の娘を呼び出した。

 城外れのテラス。

 王都の喧騒が少し遠くなる場所で、あいつはいかにも面倒そうな顔で現れた。


「呼びつけるなら、もう少し言い方ってものがあるでしょ」

「来てる時点で、わりと優しいな」

「別に。暇だっただけ」

「じゃあ帰るか?」

「何でそう極端なのよ。……帰らないわよ」


 こういうのだ。

 こういう返しだ。

 帰らない。けど、素直にも乗らない。この感じが、妙にちょうどいい。


「なあ、お前」

「なによ」

「今さらだけど、名前は?」


 魔族の娘が、少しだけ眉を上げた。


「今さら聞くの?」

「今さら聞く」

「……リリスよ」

「へえ」

「何よ、その“へえ”って」

「いや、思ったよりそれっぽいなって」

「失礼ね」


 睨まれる。

 でも、その睨み方にちゃんと体温がある。嫌悪じゃなくて、親近感の延長線上にある、文句としての睨みだ。

 王女の微笑みより、ちょっと安心するのは、たぶん俺の方が変なんだろう。


「で。何の用?」

「前から気になってた」

「何が」

「お前、偉いのか?」


 リリスが目を細めた。


「……何でそう思うのよ」

「服装とか態度とか。あと、時々やって来る魔族が、妙にお前に丁寧だし」

「観察してるじゃない」

「一応な」

「気持ち悪い」

「言い方」


 そう言いながら、俺は少し笑っていた。

 リリスは一度だけ肩をすくめて、それからあっさり言った。


「魔王の娘だから」

「……は?」

「父上が、今の魔王」

「いや、待て待て待て」


 俺は思わず身を乗り出した。


「魔王の娘!?」

「そうだけど」

「そうだけど、じゃねえだろ」

「大声出さないで」

「いや、だって、もっと早く言えよ!」

「聞かなかったのはあんたでしょ」


 それはそうかもしれない。

 でも普通、魔王の娘ってもう少し、何というかこう、イベント感を持っているもんじゃないのか。

 いや、この世界に普通があるのかは知らないが。


「……魔王の娘かよ」

「何よ。不満?」


 心なしか、俺の目にはリリスの表情が寂しげに映った。


「不満っていうか、急に魔王イベントが見えてきたなって」

「まおういべんと?」

「こっちの話」


 背後でミアが、小さく口を開いた。


「直接、魔王にも補正をかければ最短です」


 俺は即座に振り返った。


「やらねえよ」

「効率は良いですが……」

「効率の話じゃない」


 自分でも驚くくらい、はっきり言っていた。


「せっかく異世界に来たんだぞ。少しくらい勇者っぽいことはしたい」

「わざわざ勇者になるんですか?」

「雰囲気だよ、雰囲気」

「雰囲気で魔王討伐を……?」

「そういうのが大事なんだって」


 ミアはまだ納得していない顔だったが、こっちとしてはわりと大事な線引きだった。

 魔王にまで直接補正をかけて、はい陥落しました、では違う。

 それは、また“作業”だ。

 理想のゲームが完成品で出てきた時みたいに、作成過程そのものを飛ばしている感じしかしない。

 だったら面倒でも、ちょっと引っかかる方を選びたい。

 その方がまだ、面白い。


「……あんた、変ね」


 リリスがぼそっと言った。


「何が」

「何でもできるなら、いちばん楽な方を選べばいいのに」

「つい最近までそう思ってたよ」

「今は違うの?」

「ちょっとだけな」


 ほんの少しだけだ。

 全部を捨てて苦労だけしたいわけじゃない。

 しんどいのは嫌だ。

 面倒も本当は避けたい。

 でも、何もかも一瞬で片づくと、後に残るのが妙に空っぽだって、少し分かってきた。

 リリスはしばらく黙って、それから視線をそらした。


「来るなら来れば」

「ん?」

「魔王城に」


 その言い方が、いかにもこいつらしかった。

 素直に来てと言わない。言わないけど、拒んでもいない。


「でも父上、たぶん殺す気で来るわよ」

「まあ、その時はその時だろ」

「軽いわね」

「一応、死ぬほど権限は持ってるからな」

「その言い方、ほんと嫌い」

「褒め言葉として受け取っとく」

「受け取んなよ」


 リリスは明らかに呆れた顔をした。

 けど、帰ろうとはしなかった。

 俺も、妙に気分が軽かった。

 王女や聖女やエルフ娘と過ごす時の“整いすぎた感じ”とは違う。

 少し雑で、少し引っかかって、少し先が読みにくい。

 たったそれだけのことなのに、こっちの方が、まだ話している感じがある。


 夜、部屋へ戻ってからも、その感覚は残っていた。


 魔王の娘。

 魔王城。


 敵対だの討伐だの、面倒そうな単語ばかり浮かぶ。

 でも、不思議と嫌ではない。

 むしろ、ちょっとだけ胸が高鳴っていた。


「零さん」


 ミアが、控えめに声をかけてくる。


「何だよ」

「本当に、直接補正はかけなくてよいのですか」

「かけない」

「非効率です」

「だから効率の話じゃねえって」

「ですが……」

「できるけど、やらないってのも、たまには必要だろ」


 口に出した瞬間、自分で少しだけ驚いた。

 できるけど、やらない。

 そんな選び方、前の俺ならしなかった気がする。


 できるならやる。

 取れるなら取る。

 楽できるなら楽する。


 その方がいいに決まってると思っていた。

 でも今は、それだけだとつまらないと、少しだけ分かる。

 ほんの少しだけ。

 まだ、この先どうなるのかは分からない。

 魔王城へ行って、結局つまらないかもしれない。

 また都合よく収まって、冷めるかもしれない。

 それでも、少なくとも今回は、最初から終わらせる気にはなれなかった。


「……まあ、やってみるよ」


 俺がそう呟くと、ミアは複雑そうな顔をした。

 止めたいのか、見守りたいのか、自分でも決めかねているような顔だった。

 でも俺は、少しだけ笑っていた。


 久々に、イベントに向かう前の感じがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ