表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にました。神様が『ごめん全部あげます』って言ってきたので、好き放題無双することにします  作者: 甘栄堂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/13

第5話:理想のゲームを作ってやった

 朝、最高の気分で目が覚めた。

 昨夜のことを思い返して、笑いが込み上げてくる。


 王女。

 聖女。

 魔族の姫。

 エルフ娘。


 どう考えても現実感のない顔ぶれに囲まれて、その視線も言葉も態度も、全部がこっちを向いていた。

 嫌なわけがない。

 むしろ、あれを嫌がる方がどうかしてる。


 ベッドの上でぼんやり天井を見ながら、俺は口元を押さえた。


「……すげえよな、ほんと」


 思い出すだけで、まだ体の中心が熱くざわついている。

 元の世界じゃ、たぶん一生縁がなかった。

 それが今は、欲しいと思った反応がちゃんと返ってくる。拒まれない。引かれない。命じればその通りになる。


 最高だった。

 そこに嘘はない。

 なのに。


「……で?」


 ぽつりと呟いて、自分で少し首を傾げた。

 で、その次は?

 あれだけのことがあって、こんなに満たされた感じがあるのに、朝になったらもう次のことを考えている。


 終わった感じがしない。

 いや、終わってたまるか、という感じに近いのかもしれない。

 もっと欲しい。

 もっと決定的に、「これは俺のものだ」って思える何かが欲しい。俺の欲望は、こんなにも大きなものだったのか。大きすぎて、むしろ気持ちが悪いくらいだ。

 その瞬間、頭の中でひとつの答えが繋がった。


「……そうだよ」


 体を起こす。


「創作だ」


 そうだ。そこだ。

 女も、街も、欲しかったものはかなり手に入った。かなりどころじゃない。生前の俺から見れば、もう十分すぎるほど勝っている。

 でも、俺にはまだ本命がある。


 アニメ。

 ゲーム。

 同人誌。

 設定資料集。

 サントラ。

 限定版の箱。

 発売日前の異様な高揚感。

 攻略本をめくる時間。

 発売後の感想スレ。

 それを全部ひっくるめた、あの世界。


 俺は、あれを消費して生きてきた。

 だったら今度は、自分で作る側に回ればいい。


「ミア」

「は、はい」


 いつものように、少し離れた位置から返事が飛んでくる。

 見れば、ミアは部屋の隅でちょこんと座っていた。こいつ、ほんとどこにでもいるな。


「スタジオって作れる?」

「すたじお……?」

「ゲーム会社」

「……可能です」

「よし」


 思わず拳を握る。


「やっぱりそうだよ。女とか街とか、そういうのもいいけど、俺の本命はこっちだったんだ」

「はあ……」

「“はあ”じゃない。本命だぞ、本命」

「は、はい……」


 ミアが軽く引いている気がする。

 まあいい。分からないなら分からないで。

 俺は視界の画面を開いた。


 創作支援。

 施設生成。

 人材設計。

 演算補助。

 嗜好解析。

 市場予測。

 感情反応モデル。

 無限予算。

 無限試作。


「……何でもあるな」


 笑うしかない。

 予算が足りない。

 納期が厳しい。

 人がいない。

 意見が合わない。

 クオリティが届かない。

 そういう創作の障害が、最初から全部ない。

 だったらもう、理想のゲームを作るしかないだろ。


「ミア」

「は、はい」

「絵師って作れる?」

「可能です」

「作曲家も?」

「可能です」

「シナリオライターは?」

「可能です」

「プログラマ」

「可能です」

「デバッガー」

「可能です」

「声優」

「可能です」

「やば」

「はい……?」


 やばい。

 やばいだろ、これ。

 俺の中で、何かが一気に噴き上がった。


「そうだよ。ハーレムとか理想郷とかもそりゃ嬉しいけど、結局、俺がいちばん長く浸ってきたのはこっちなんだよ」

「こっち、と申しますと……」

「創作」

「はあ……」

「好きなものを作る側に回る。しかも妥協ゼロで。これ、最強じゃん」

「そういうものなんですか……?」

「そういうものなんだよ」


 今度は本気だった。

 いや、今までも本気ではあったんだろうが、方向が違う。

 街を作るのは楽しかった。女たちに求められるのも気持ちよかった。

 でも、これは別だ。

 これは俺の“好き”そのものだ。


 すぐに広い制作施設を生成した。

 外観こそこの世界に合わせた石造り。でも中は完全に理想仕様。広い会議室。静かな作業部屋。防音完備の収録室。ハイスペックすぎる機材。資料棚。休憩室。仮眠室。ついでにカフェスペースまである。


「いや、最高かよ……!」


 歩くだけで楽しい。

 何も作ってない段階でも、もう楽しい。

 俺は廊下を歩きながら、何度も頷いた。


「作業場って、こういう無駄なロマンが大事なんだよ」

「ロマン……」

「分からないならいい」

「いえ、ロマンは分かりますが、これがロマン……?」


 人員も揃えた。


 絵師。

 作曲家。

 シナリオライター。

 プログラマ。

 UIデザイナー。

 背景美術。

 演出担当。

 全員、理想値。


 技術だけじゃない。性格も、相性も、作業効率も、熱意も、全部高水準に設定できる。


「これ、もう勝ちじゃん」

「まだ作ってはいないのでは……」

「うるさいな。勝ち確の状態ってあるだろ」

「そういうものなんですか……」

「そういうもんだよ」


 俺は制作室の中央に立ち、大きく息を吸った。


「テーマは……」


 考える。

 剣と魔法の異世界ファンタジーか。

 いや、それだけじゃ弱い。

 恋愛も欲しい。バトルも欲しい。探索も欲しい。キャラ育成も欲しい。BGMは神曲。UIは快適。テンポは良く。周回要素もあり。泣けるシナリオもある。隠しルートも、裏ボスも、ファンディスク的な余地も欲しい。


「……全部入りだな」

「詰め込みすぎなのでは……?」

「黙って見てろ」


 俺はプロットを組み始めた。


 主人公設定。

 世界観。

 国家構造。

 ヒロイン構成。

 勢力図。

 冒険の動線。

 序盤のフック。

 中盤の燃え展開。

 終盤の伏線回収。

 真エンド条件。

 イベントCGの配置。

 セーブデータの引き継ぎ要素。


 楽しい。

 めちゃくちゃ楽しい。

 女たちに囲まれていた時とはまた違う熱があった。

 こっちは、もっと直接的に“好き”に触ってる感じがする。


「そうだよ……」


 口の中で転がすように言う。


「これだよ。やっぱこれだろ」

「零さん?」

「女がいて、街があって、それも最高だった。けど、それだけじゃ俺の“好き”の全部じゃない」

「……はあ……」

「作る側だよ。作る側に回って、初めて本当に勝ちなんだ」

「そういうものなんですね……」

「だからそう言ってんだろ」


 何時間くらい経ったのか分からない。

 設定を詰め、キャラを足し、システムを広げ、削って、また足して。

 そうしているつもりだった。

 つもり、だったのに。


「……ん?」


 気づくと、目の前に完成品があった。


「は?」


 新作ゲームの完成品が、本体とコントローラごと目の前に揃っていた。


 「……え?」


 周りを見る。

 スタッフたちは静かに立っていた。

 誰も疲れていない。

 誰も揉めていない。

 誰も迷っていない。


「完成しました」


 シナリオ担当らしき女が頭を下げる。


「最適化済みです」


 プログラマが言う。


「感情導線、演出密度、没入率ともに理想値を満たしています」


 別の誰かが言った。


「……いや、待て待て待て」


 俺は一歩下がった。


「何で完成してんの?」

「零さんが理想とする作品像を、最短で形にしました」


 ミアが当然みたいに答える。


「最短って」

「無限演算補助と自動最適化を併用しましたので」

「いや、そういう問題じゃなくて」


 心臓が妙な打ち方をする。

 完成している。たしかに完成している。

 俺が欲しいと思ったものが、全部入っている感じはする。

 でも。


「スタッフを揃えたんだぞ?」

「はい」

「だったら普通、会議とか、試作とか、調整とか、そういう過程があるだろ」

「制作工程全体が、自動最適化されていました」

「……は?」

「人員配置、試作、調整、演出の取捨選択、感情導線の検証まで含めて、“最短で理想形へ到達する工程”として処理されています」

「工程ごと、すっ飛ばしたってことか?」

「結果的には、はい……」

「……俺、何した?」


 ぽつりと漏れた。


「はい?」


 ミアが首を傾げる。


「いや、だって。俺、何かしたか?」

「理想の条件定義と方向性の指定を」

「それだけじゃん」


 口の中が少し乾く。

 揉めてない。

 悩んでない。

 どれを削るかで頭を抱えてない。

 このキャラは残すべきかとか、このルートは要るかとか、演出過剰じゃないかとか、そういう時間が何もない。

 ただ、こういうのがいいと思った。

 そしたら、最適な完成品が出てきた。


「……プレイするか」


 自分に言い聞かせるように呟いて、俺はゲームを起動した。


 オープニングが流れる。

 BGMがいい。

 演出がいい。

 画面がいい。

 テンポがいい。

 実際、面白かった。

 いや、本当に面白い。

 少なくとも、客観的に見てめちゃくちゃ出来がいいのは分かる。


「……うん」


 画面を見たまま頷く。


「面白い」

「おめでとうございます」

「面白いよ。たしかに面白い」

「零さんの理想ですので」

「……だからだよ」


 そこで初めて、心の奥に引っかかっていたことがはっきりした。


「だからだよ」

「え?」

「俺、何もしてねえじゃん」


 ミアが黙る。

 俺はコントローラを置いた。


「会議もしてない。揉めてもない。削ってもない。悩んでもない」

「……」

「ただ“こういうのがいい”って思ったら、完成品が出てきただけだろ」

「はい……」

「それ、俺が作ったって言えるのかよ」


 返事はなかった。

 いや、返事されなくても分かっている。

 ここでミアが何を言ったところで、たぶん俺の中では変わらない。


 面白い。

 たしかに面白い。

 でも、その面白さが、自分の中に刺さらない。

 他人が作った神ゲーを遊んでるみたいな感覚に近い。

 いや、元の世界ではそうだったよな。何か違う。もっと曖昧で、もっと綺麗すぎる何かだ。


「……最初から完成してるって、こんなにつまんねえのか」


 気づけば、そんな言葉が出ていた。

 誰に向けたものでもない。

 自分でも、少し驚いた。

 でも、それがいちばん近かった。

 何もかも理想通りで、何一つ足りないものがない。

 それなのに、手応えだけがない。

 俺は完成したゲームのタイトル画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ