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夢に現れるもの 〜原子力警備員が見た夢と現実〜  作者: ゆずさくら


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 俺と田村は施設の建物の裏に止めてあった管理人の車に乗った。

 そして、気付かれないように施設を出て海沿いの道を走行していた。

「どうする?」

「原発に行くんだが、まず、寝たい。適当に人のいない所で車を止めてくれ」

 田村に言われた通り、大きな道を外れ細い道を進み、空き地に入って道から見えないような位置を探して止めた。

 車の中は個室だ。ここから出なければ、寝ている間に首を絞められていることもないだろう。

「お前が見張っていてくれ」

 言いながら、田村は寝てしまう。

 寝てしまうと、今度は寝言を言い始める。

「助けてくれ、死にたくない」

 俺は無視してスマフォを手に取りニュースを見た。

 田村が乗っていたタクシーが川に落ちたことが、地方のニュース記事になっていた。

 探していると車の盗難についても小さいながら載っていた。

「?」

 奇妙な記事を見つけて俺は怖くなった。

 記事のタイトルは『ゾンビごっこ? 奇妙な集団行動、新興宗教か』とあって、目を閉じてフラフラと同じ方向に歩く集団を目撃したという内容だ。

 記事は目撃した奇妙な集団の描写と、こと地域には原発があり、この奇妙な集団が新興宗教で、原子力発電所を狙っているとしたら、過去にあったテロ集団と化した新興宗教の名前を引き合いにして、警笛を鳴らすような記事だった。

 その集団が向かっていたのは街から原発方向に向かっていた、つまり昨日の田村がとった行動と同じだ。眠りに落ちた人間が、何かに導かれ田村を追いかけているのだとしたら……

 いや、まて。田村はそこまでのことは言っていなかった。何人も何人も、田村から離れても夢遊病のように行動をし続けた、とは言っていない。だから、目をつぶってフラフラ歩く集団が、田村を殺そうとした人達かどうかも分からない。

 それに、歩いているとはいえ街から施設まで十四、五キロと言った程度だ。田村を狙ってきているのなら、一晩中歩けばもう来ているだろう。

 施設の周りにそんな集団はいなかった。心配することはないだろう。

「やめろ、金がたりないのか? おい、たったあれだけの通訳でこれ以上払える訳」

 田村がまた寝言を言っている。昨日の通訳との金の話をしている夢だろうか。

「おまえが悪いんだぞ。首を絞めてくるから。殺す気はなかった。これは正当防衛だ」

 俺は寝言を聞いていて、鳥肌が立った。

 内容からすれば、田村は昨日の通訳を殺してしまったのだ。

 ニュースサイトで記事になっていないということは、まだ死体が発見されていないことになる。

 いや、待て。寝言だけでは、死んだかどうかもわからない。何でも最悪の方向で考えるのは、俺の悪い癖だ。

 俺は田村をいつ起こすか考え、アラームをセットしようとしていた。

 だが、何も思いつかないまま、気晴らしにスマフォで漫画を読み始め、その内に寝てしまった。




 ガタガタと車が揺れて、俺は目を覚ました。

「!」

 寝る前に見ていたニュースを思い出していた。

 目をつぶったまま、フラフラと歩く人の集団を見つけた記事。

 車の周りをそいつらに囲まれた後、窓ガラスを割られ、助手席の田村を連れ去ってしまう。

 横を見ると、田村はしっかり助手席で寝ていた。

 前方も、横にも人影はない。

 大丈夫。

 大丈夫だ、と思った瞬間だった。

 ルームミラーから車の後方を見ると、目を閉じた人が列をなして立っていた。

 同時に、車が動き出しているのに気づいた。

 空き地は坂になっていて、車は徐々に加速を始めていた。

 この先は海が見えるだけ。

 確認はしていないが、おそらく崖なのだ。

 だが、この空き地に停車した際、俺は絶対にフットブレーキをふみこんだ。

 数人で押されたくらいで動くはずがない。

 俺は慌ててフットブレーキを確認する。

「えっ…… なんで?」

 踏み込まれていない。

 俺は慌ててそのまま踏み込んだ。

 勢いがついていて、減速は始まるが止まらない。

「落ちるっ……」

 よく考えれば、普通にブレーキを踏めば良かったのだ。

 前輪がガクン、と落ちたところで車は止まった。

 だが何かあれば落ちてしまうだろう。

 今度は慌てて田村を起こした。

「起きろ、車が落ちる! 早く起きろ!」

 田村を揺する度、車もズレているような気がして、起こそうとする力が弱くなる。

「起きろって!」

 ようやく田村が起きる。

 状況が分からないから、無駄に動いて、車が揺すられ、ズレる。

「聞け! 今車は崖から落ちそうな状況だ。バランスを崩したら落ちる。ドアを開けて、左右同時に車から降りるぞ!」

 田村が俺の顔をじっと見ているが、意味が通じたか分からない。

 俺がドアを開くと、田村も同じようにドアを開いた。

 そのタイミングで、車がまた崖に向かって少しズレた。

 田村が無言で俺の顔を見ている。

 意味が通じてると信じるしかない。

「せーの!」

 田村の方を見ず、俺は車から飛び出した。

 俺が飛び出した為に、車の中心部分の重量が一気に減り、前方のエンジンの比重が重くなる。

 飛び出す際に、すこし車を蹴り出していることもあるから、車は自然と崖に向かってズレだす。

 車の影で田村も車を飛び出たか、確認出来ない。車が完全に落ちていくと、反対側には田村が寝転んでいた。

「なんでこんなことになってるんだ」

 俺は指で連中いる方を示した。

「……」

 田村も、俺もほぼ同時に立ち上がった。

「なんなんだ、あいつらは」

「お前の近くにいたせいで眠り込んでしまった連中だよ」

 俺たちが車を飛び降りたことが、目を閉じている連中に遅れて伝わったらしい。連中が空き地を、俺たちに向かって移動し始めた。

「逃げるぞ」

「それしかないな」

 と逃げようとした時、足を取られた。

 粘土質の土地なのか、濡れた土の表面が滑る。

 そうか、だから車もすぐ止まらなかったんだ、と俺は思った。

 必死に草を掴み、滑る体を止めた。

「おい、落ちるなよ」

 田村が、転んだ俺の手を引き、立ち上がらせてくれた。

 だが、そんなことをしている間に、何人か『目を閉じた』連中が近くに来てしまった。

「どけ!」

 田村は手で払う様にして言った。

 しかし、言って聞く相手ではないのは分かっていた。

 連中は単に目を閉じているだけでなく、眠ったまま何者かに操られているに違いない。

「突き落そうとしているんだ」

「俺に指図するな」

 田村は、連中に進んでいき、両腕で肩を突き飛ばした。

 田村に突き飛ばされた『目を閉じた』男は、あっさり転んでしまう。

「お前も早くしろ、囲まれるぞ」

「うわっ!」

 転んだ男の腕が、別の男の足に掛かって、その男も倒れた。

 さらに後ろの男が、倒れた男に足を掛けて倒れると、そいつは勢いよく濡れた土の上を滑りだす。

 本能で掴んだ手が、倒れた男を芋ずる式に引き込んでしまう。

 避けないと、巻き込まれたら…… 落ちる。

 俺は一瞬の判断で避けたが、思い直して目を閉じている男の襟を掴んだ。 

 一人は全身が崖に出ていて、二人目は腰から下が崖に出ている。

 俺が掴んでいる男はギリギリ全身を残しているが、ズボンを掴まれて身動きが取れない。

「助けてくれ!」

 俺は田村に言った。

 田村は、俺の手を蹴った。

 俺の手は、抵抗も出来ず、簡単に跳ね上がってしまった。

「あっ……」

 襟を掴んでいた男の姿が消えていた。

 そして鈍い音が聞こえてきた。

「おいっ!」

 俺は草を掴みながら、ユラユラと立ち上がる。

「なんだ? 助けてやったろう。今度はお前が俺を助け……」

 俺は生まれて初めて人を殴ろうとしていた。

 しかし、振った俺の拳の先には何もなかった。

 空振りしたことで足が滑り、俺は殴るのを諦め、下に生えている草を掴んでいた。

「奴らが来る前に逃げるぞ」

 田村はこの坂上にいる目を閉じた連中の残りも、次々とこっちに向かってきているのを指差した。

 さっきの場面、田村のとった行動が多くの人間を死なさずに済む方法だった。俺たちが死ねば、目を閉じた連中も助かるとは限らない。俺たちがこの場を離れるのに時間を掛ければ、上から降りてくる連中まで巻き込んで、全員が崖下行きになったかもしれない。

 俺はそう考えることにした。それでも納得は出来なかったが、人を死なせてしまったと『だけ』考えるよりましだった。

 滑る場所を抜けると、田村は走った。 

 俺も後を追うように走った。

 連中は目を開けてない。だから全力で走れないはずだ、という判断だった。

 案の定連中は真横を抜けていく俺たちをどうすることも出来なかった。

 空き地を出ても俺たちは走り続けた。

「どうするんだよ、一生このまま走り続けるつもりか」

「車を探そう。キーが付いている車」

「この先、コンビニなんてないぞ。例のプレハブがある村、次は原発だ」

 息が切れる。

 後ろを振り向いても連中は追ってこない。いや、追ってきているかも知れないが、俺たちほど早く動けないのだろう。とにかく、姿は見えない。

「プレハブの村に車なんてあったか?」

「見覚えはないな」

 田村は疲れたのか、突然、歩き始めた。

 それを見て俺も走るのをやめた。

 息を切らせながら田村が言う。

「原発には車が置いてあったな」

「ああ。だが、原発には入れないぞ。俺は勤務時間外だ」

「原子力発電所は、経産省の管轄なんだから、経産省の俺が言えば入れる」

「……だといいんだが」

 林の中の道を俺たちは歩き続けた。

 途中、後ろからパトカーがサイレンを回して走ってくる音が聞こえた。

「やばいぞ」

「サイレンが鳴っている時は大丈夫だ」

「何言っているんだ、お前が車を盗んだんだ。捕まるぞ」

 俺はガードレールから身を乗り出して、パトカーの走っていく方向を見極めた。

「俺の近くに来て、眠ってしまったら車は運転できない」

「どうかな。タクシーの運転手は、運転出来てたんだろ?」

「あの道は一直線だったからな。踏み込めばいいだけなら出来るだろう」

「警察に捕まってから、警察が寝るのが一番危険じゃないか」

「俺の近くで寝れば、俺が先に銃を奪える」

 俺は田村の顔を睨みつけた。

「……警官まで殺す気か? お前ひとりが生き残る為に何人殺す気だ?」

「別に警官を殺すとは言ってない。銃で撃たれる前に銃を奪うと言っている」

 確かにそうかも知れないが、警官は銃が無くても武道の心得があるはずだ。どのみち首でも絞められたら、勝てないだろう。

「とにかく、この騒動を起こしているのは原発に関係している」

「なんでそんなに原発にこだわる」

 田村は答えなかった。

 道の先をじっと睨むように見て、黙々と歩くだけだった。

「おい、なんとか言えよ」

 田村の服を引っ張ってみたが、無視して歩き続けるだけだった。

 俺は諦めて黙っていた。

 道なりに歩き、原発の燃料保管庫の建設作業者が住むプレハブのある場所についた。

 バスではいつもあっという間についていたが、改めて歩くと遠いことが分かった。

 プレハブが立っている空き地に入ると、俺は疲れて、座り込んでしまった。

「……」

 田村はプレハブの方へ黙って行ってしまった。

 俺はそのまま仰向けになり、空を見上げていた。

 バリン、とガラスが割れたような音がした。

 俺はプレハブの方を見たが、こっちからでは何も分からなかった。

 そのまま向き直って空を眺めていると、田村がやって来て、横に座った。

「ほら、飲み物に食い物だ」

 俺と田村の間に、紙パックの牛乳と菓子パンが置かれた。

「プレハブから盗んだのか」

「誰もいなかった」

 田村は袋を開いて食べ始めた。

「盗んだのか、と言ってる」

「なんでそんなことを気にする。人がいればちゃんと金を払った。お前は食べないのか?」

「……」

「正しいことをしたいのは分かる。だが、今が非常事態だと分からないのか?」

 田村はそれ以上喋らなかった。

 俺は誰にという訳ではなく、手を合わせ謝った。

 それで食べて良いという訳ではなかったが、どうしてもそうしないと気が済まなかった。

 先に食べ終わった田村が話し始めた。

「十分非常事態だぞ。普通に生きていたはずの人間が、たまたま俺の近くを通りかかっただけで、なんで俺を殺そうと狙ってくる。ありえないだろう? この地域に、海難事故、地震、自殺。三つセットで繰り返し起こるのは何故だ。ここで謎を解かないと、また数年後に同じことがおこってしまうぞ」

「本気で言っているのか」

 それは俺が『クスルー』のせいだと考えたことと同じだ。船が引きよせられ、地震が起こり、夢で狂った者は自殺する。

 おそらく以前の事件と違うのは、田村がやってきて原発を調べようとしたことだ。『クスルー』は夢を操って、田村を殺そうとしている。

 いや、違う。

 ルルイエやクトゥルフは、小説の中の出来事だ。作り話なんだ。ウィアード・テイルズに掲載する話なのだ。

 だから、田村を殺そうとしている連中は……

 なぜ。

 なぜ、連中は目をつぶったままこっちに向かってくる。

「お前と通訳が夢を通じて、知らない言語で話し合った。昨日の話も、十分異様だ」

「……」

 もうすでに俺たちは何人か、人を殺してしまっている。死んでいないかも知れないが、崖から落としてしまった。

 後戻りできない。戦うか、狂って死ぬか。

 夢で人を支配できる相手に、戦えるのだろうか。

「車はやっぱりなかったな。ここまででかなり疲れたが、もうひと頑張りして原発に向かおう」

 俺たちは、原発までの道を歩いた。

 パトカーは追ってこなかった。

 途中のがけに落ちた車や目を閉じたまま道を歩く連中を見つけたからかも知れない。

 道なりに歩いている内に、雪ではなく、雨が降って来た。

 潮の匂いがする、不思議な雨だった。

「昨日もこんな雨だった」

「雨であんなに濡れたのか」

「話した通り、半分は雪にダイブしたせいで、もう半分は雨のせいだ」

「この雨、魚臭いな」

 空は曇っていて、だいぶ気温が下がって来た。

「竜巻などで海水を巻き上げてしまい、それが降ってきているのかもな」

「確かに、蒸発した水ならこんな匂いがするわけがない」

 雨は、弱くなることも、強くなることもなく、降り続いた。

 俺と田村が原発に着くころは、街灯がないと何も見えないほど暗くなっていた。

 原発の正門を見ながら、どうやって中に入るかを考える。

「よく考えたら、田村が入所の受付をしていたら、警備の人間が眠りに落ちてしまうのでは?」

「抜け道を知らないのか」

「ない」

 俺は即答した。

「お前は原子力発電所の警備員だろう。原発の周囲を見たことないのか。無理やり入れるところとか」

 あった。

 俺は思いついた。

 原発に無理やり入るのに、都合のいい場所があった。

 原発勤務の初日に、警備所長と車で外周を見て回った。あの時、海側の壁がやけに低かった。

 あの時は津波が心配だったが、侵入するにも非常に低い壁だ。

 海側の壁は、塩でダメになる為センサーがなく、カメラで監視している。

 カメラの監視さえなんとかして、俺が壁の上から引き揚げれば入って来れる。

 俺はスマフォの地図を使って、田村に説明した。

「わかった。頼むぞ」




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