第二十二話 マゾヒスト?
――目を開けると、そこには顔があった。
「大丈夫?」
その内の一人が喋る。
俺は頷く。そして、顔が退いたのを見て、上半身を上げた。
見回すと俺は客間のソファーに横になり、その周りを女子たちが取り囲んでいた。
こうなった経緯を思い出してみる。
俺は宇宙儀の組み立てセットにきりをつけて昼食を食べにリビングにやってきたが誰もいず、キッチンの方かと思い向かう途中で黄色の皮、つまりバナナで転んだわけだ。
以上。
短い回想も瞬く間に終わる。
「ごめん」
突然、天が謝ってきた。
「私、あんたの面白い姿を見ようとして悪乗りしすぎた。本当に、ごめん」
そう言って頭を下げる。
俺はしばし唖然としながらも話しかけた。
「いや、いいよ。バナナの皮で転ぶなんていう貴重な体験ができて、よかった」
…………
俺ってマゾか?
呆然とする皆を見て、そう思った。
俺がキッチンに着いた時にはすでに昼食の準備ができていた。それを食べながら城ヶ崎浜に話しかける。
「なあ城ヶ崎浜、これからどうするんだ」
ちぎったパンを頬張りそして飲み込んで、たっぷり時間を使ってから返事がきた。
「私たちは、中庭を掃除したいと思っております。いかがでしょう」
いかがでしょう、って言われても、答えようがない。ていうか今までもさんざん俺の周りで色々やってきた彼女たちのことだ。俺が何と言おうとやるのだろう。
「いいぞ」
それだけを言った。
俺は客間に戻り宇宙儀の組み立てセットの組み立てを再開した。今ごろ女子たちは食器洗いをキャピキャビ楽しんでいることだろう。
いつの間にか妙な方向に話が進んでいる気もするが、しばらくはこんな感じでいいと思った。
生徒会についてもまた後で考えよう。この調子で知り合いの輪が広がっていけば大丈夫だろう。
金星の機構ができた頃、夢星が客間に顔を出した。
「助力要請」
どうやら城ヶ崎浜が手伝ってほしくて夢星をよこしたようだ。俺は勿論行く気はないのでこう言った。
「病人にそんなことさせるかな、普通」
「仮定東条病人、結論暇。今暇?」
「いや、暇じゃない。なんせ」
続けようとするのを夢星が遮る。
「東条否暇、一般論否病人。結論助力可能」
つまり、俺が病人なら暇だから手伝え、俺が暇でないなら病人ではないのだから手伝えるだろ、というどちらにしても手伝わされるという暴論だ。
そんなことに内心抗議していると、夢星が言った。
「此異配順」
夢星の指差す方を見ると、後は球形のカバーを付けるだけとなった金星の機構がある。
「異順序」
もう一度夢星が言ってやっと意味が分かった。組み立て方が違うのだろう。
「教えてくれるか」
「可能」
そんなこんなで夢星と共に宇宙儀の組み立てセットを組み立てることになった。
昨日みたいに夕食までいるのかと思ったがどうやらそうではないようで。
リムジンに乗り込む13人の女子。
「また明日」
と言いながら中に入っていき、最後に溝辺が一礼をして運転席に乗り込み出発した。
中庭の掃除を手伝わなかったことに対する文句がなかったことに安心しながら俺はそれを見送り、そして様変わりした庭を見る。
「枯山水」
それはもう見事な日本庭園と化していた。昨日までの無法地帯と同じ庭とは到底思えない。
錆びていた門柱と門扉は白い石柱と木製のスライド式の扉になり、その上には瓦の屋根が鎮座している。今そこをリムジンが通過した。そこから俺の今立っている玄関まで細かい白石で敷き詰められており、その両脇には黒い石が並んでいる。その外側には石で描かれた川や所々に大きめの石がある。外壁の近くには大きな紅色の石が一つあり、その周りに松が植えられている。
俺の思った通りの枯山水だった。
一日でここまでする職人はすごいと思った。




