第二十一話 枯山水
「なあ城ヶ崎浜、外で何やらせてるんだ」
キッチンからキャイキャイと声が聞こえる中、俺は椅子に腰掛けた城ヶ崎浜に聞く。
「耕しているのですわ。あのような荒れた土壌では花も育ちませんわ。心配でしたら見ていらしてはいかがでしょう」
「ああ、そうさせてもらう」
そう言って俺は外に向かった。
ショベルカーが一台。掘り返される土。それに伴い見えなくなっていく雑草たち。
俺はそれに手を合わせながら、変わりゆく庭を眺めていた。
それにしてもこうやって庭をしっかりと眺めるのは初めてかもしれない。
さすがに城ヶ崎浜の大豪邸ほどではないが、それでも一般家庭の庭よりも大きい。ここに池やら松やら梅やらを配置すれば、立派な平安時代の貴族の庭になるくらいの大きさだろう。
「私考えましたの。昨日こちらに伺ったときに、これでは家が可哀想だと。ですからこうして庭から変えていこうと思いましたの」
「その結果が、シャベルカー」
「そうですわ。ですが都靄様、シャベルカーではなく、ショベルカーですわ。それと、こちらが完成予想図になりますの」
そう突っ込んだ城ヶ崎浜は俺に一枚の紙を渡してきた。そこに描かれていたのは適当にデフォルメされたここの鳥観図で、その上から様々な色が塗ってあった。
「たくさんの花を植えようと思いまして、鉢植えを持ってきましたわ」
指差す先を見ると隅に置かれた巨大なラックに鉢植えが所狭しと並んでいる。
何となく、このままではいけないような気がした。メルヘンになる悪い予感だ。そこで俺はこう提案した。
「枯山水は、どうかな」
すると城ヶ崎浜はすぐに賛成する。
「さすが都靄様ですわ。私たちは考えが及びませんでしたわ。早速そういたしましょう」
そう言うと、作業を指示している中年の男性の所に歩いていった。
男性は一瞬渋い顔をするもすぐにニコリと笑った。交渉成立か。
男性が指示を出し始めるのを確認した城ヶ崎浜はこっちに戻ってきた。
「ここは今日中に立派な日本庭園になっておりますわ。では、私はこのことを皆さんに伝えないといけませんので、失礼いたしますわ」
皆さんとはリビングやキッチンにいる女子たちだろう。
俺はここにいても仕方がないので、宇宙儀の組み立てセットを組み立てることにした。
ふと、一つの俳句が思い起こされた。
夏草や 兵どもが 夢の跡
宇宙儀の組み立てセットは惑星部の機構が面倒だった。中央部に繋がる細長いフレームの先に台座や自転させるための歯車を組み込んでいくのだが、付属のピンセットを使わないと部品をうまく組み込めないのだ。その上、無駄に複雑な構造をしていて間違えることもしばしばだった。
しかも近くでは常に重機の音が、そして時々遠くから女子たちのキャイキャイする声が聞こえてくるのだ。
作業は遅々として進まなかった。
やっとのことで水星を終えて時計を見ると12時を過ぎていた。
もうそろそろ昼食の時間だ、と作業を切り上げてリビングに向かう。
そういえば、家は静かになっていた。外の重機の音や人の声も聞こえない。
少し、そうほんの少し不安になり速足でリビングに向かう。一向に聞こえてこない話声が俺を焦らせる。
リビングに入ると、そこは無人だった。キッチンに行く。そこも無人だった。リビングに戻る。
落ち着け。
ただ帰っただけだ。客間に声をかけて、俺が気付かなかっただけだ。そう、それだけのことだ。
深呼吸を何度かし、落ち着いた所で昼食を作るためにキッチンに向かった。
足音が家全体に響いているような気がして落ち着かないが、さっきまでと比べると断然落ち着いている。
何歩か歩くと、足下が柔らかくなり足音が急に消えた。見ると黄色い皮がある。
そして視線は勝手に上に向かい、天井が見えて――




