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その時、マイクという名が頭の中でつながった。
「マイク…、こいつの名はマイケル・ターナーか」
執事はびくりと身を堅くしたが、アメリアは聞かれたまま、
「ええ、そうよ」
と答えた。隠すつもりもないようだ。
「この屋敷の所有者はマイケル・ターナーになっていた。…こいつが名義変更の手続きで何か手を加えたか、それとも元々この男にこの家をやるつもりだったのか?」
アメリアは笑顔を消し、ゆっくりと頭を横に振った。
「子爵位も同じく、マイケル・ターナーのものだ。伯爵家から王に届けられ、承認されている。…だよな?」
剣は鞘に収まっていたが、柄を握ったままのデニスに視線を向けられ、マイクは
「ひっ」
と小さく悲鳴を上げた。
「めめ、め、滅相もありません、それは、そ、そう、きっと何かの手違いで…」
「控えはこの家の金庫か? それとも伯爵家か? まずはここの金庫を見せてもらおうか」
マイクはゆるゆると立ち上がり、この家の書斎に向かった。
この家の主人が本当にデニスなら、ここは自分の執務室のはずだった。しかし一度も案内されたことはなく、入るのも初めてだ。
マイクは鍵を取り出そうとしたが、扉は薄く開いていた。
「ま、まさか」
慌てて扉を開けると、部屋の中には三つの人影があった。
マイクは部屋に駆け込んだが、簡単に突き飛ばされ、床に倒れた。人影は続いてデニスに襲いかかってきたが、デニスは慌てることなく振り上げられた拳をよけ、みぞおちに膝蹴りを喰らわせた。
残りの二人もあっけなく倒すと、床でうごめいている連中を後ろ手にして手首を結わえ、かぶり物をとった。三人の顔を正面からランプで照らすと、うちの一人はシェリル、他の二人は酒場で一緒にいた男達だった。
シェリルを見てもデニスは少しも慌てた様子はなかった。
「お目当てのものは見つかったか?」
「何なの、この家。何にもないじゃない! …あんた、ほんとにここに住んでるの?」
「俺も本当にここが俺の家なのか、確かめていたところだ」
シェリルは憎々し気にデニスを睨みつけた。
そろそろ動くとは思っていたが、デニスがいる日に忍び込んだのが運の尽きだ。
探りを入れるシェリルに家の中を案内したところで、取られて困るものなど何もない。この屋敷の中には、この家に関するものも、自分のものも、騎士団に関するものも何もない。デニスにとっても、アメリアにとっても、仮の住まいに過ぎないのだ。
この家は誰もいないことが多く、運悪く鉢合わせになれば命を取られることはあったかもしれないが、貴族の家でありながら日頃から護衛も雇っておかないこの家の体制にこそ問題がある。あんなひ弱な執事で対応できると思っているのだろうか。これが伯爵家の人選なら、よほど警戒心がないか、この家を守る気がないか、どちらかだ。
しばらくして、使用人が騎士団員を連れてきて、縛られていた四人を屋敷の外に連れ出した。顔見知りだからと手加減したつもりはなかったが、シェリルが一番激しく抵抗し、男二人はおとなしく指示に従っていた。そしてどさくさに紛れて縛り上げたマイクも騎士団員に連れて行かれ、なにやらわめいていたが、デニスは知らんぷりをした。
金庫を開けてみたが、中に書類はなかった。控えの書類がなかろうと既に役所で確認済みだ。この屋敷も爵位も、あの男のもの。それだけではなく…。
アメリアは騒ぎの間も部屋から出てくることはなかった。デニスはアメリアに会うことなく、屋敷を出て行った。




