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「あら、一人で飲んでるの?」
デニスが街の酒場で飲んでいると、女が声をかけてきた。知り合いではなかったが、
「ご一緒してもいいかしら?」
と隣の席に座り、自分の酒を頼んだ。
「どこかで会ったか?」
「以前、この店でお仲間と一緒に飲んでたでしょ?」
仲間と一緒に、ということは、この女はデニスが騎士団員だと知っているのだろう。それを狙って声をかけてきたとすれば、何か企んでいるのかもしれない。
しらけた目線を送ると、丸みを帯びた豊満な体をすり寄せてきた。少々香水の匂いがきついが、悪い気はしなかった。
「妻」とは初夜からずっとお預けを食らったままだ。体が弱いならそういうことができないことは想定はしていたが、結婚式以降あの女に触れることすらなく、女の近くには執事と称する男が仕事を名目に四六時中つきまとっている。そんな女と契りを交わすのは自分を底なしの沼に沈めるようなものだ。
シェリルと名乗った女は聞き上手だった。つまらない世間話から、何がきっかけだったのかふと愚痴が漏れた。パートナーの悪口は本当のことを交えながらも半分は濁した。シェリルはそれをなだめるように相づちを打ちながら、酒を勧めてきた。
「今日はそんな女のことなんて忘れちゃいましょ? そのために飲みに来たんでしょ?」
何杯か酒をあおっているうちに意気投合し、そのまま酒場の二階の部屋で熱い夜を過ごした。罪悪感など少しも湧かなかったが、そこにも愛はなかった。シェリルの方も慣れたもので、夜が明ける前にあっさりと部屋を出て行った。
その後もシェリルとは何度か酒場で会い、ただ話だけして終わることもあれば、体を重ねることもあったが、それ以上の関係を迫られることはなかった。
宿舎にアメリアから手紙が届いたのは、家に戻らなくなって一ヶ月ほど経った後だった。
親愛なる旦那様
お仕事はお忙しいですか?
あなたのいないこの家は広すぎて、寂しく感じます。
お帰りをお待ちしています。
貞淑な妻を装う文面に思わず笑いが出た。一ヶ月も宿舎で過ごさなければいけないような事件があれば新聞を騒がせているだろうに。
家に戻った時、アメリアがデニスを待っていたことなどなかった。
デニスの名前すらない。そういえばアメリアは一度もデニスを名前で呼んだことはなく、名前さえも知らないかもしれない。まさかとは思うが…。
ふと「夫」の存在を思い出し書いてみたのだろうが、待っている自分に酔っているようで薄気味悪かった。
アメリアはデニスが家に戻っていないことを団長にも相談したようだ。自分の状況は報告済みだったが、
「結婚を続けるにしろ、離婚するにしろ、ちゃんと話をつけてこい」
と言われた。上から圧力をかけようとするやり方が気に入らないが、このまま逃げていても仕方がない。




