5
朝は遅くまで寝ているのか、一度も見かけたことがなかった。昼間は休日か夜勤明けでもなければデニスの方が不在にしている。夜も顔を見せるのは食事の時くらいだ。夕食はデニスの分は要不要を使用人に伝えていたが、アメリアの都合は事前に伝えられることはなく、気ままに現れることもあれば、姿を見せないこともある。待てとも言われないので、デニスは自分のペースで生活を続けていたが、予想したとおり、二週間後にはアメリアは再び実家に戻っていた。
その日も何の前置きもなく、静かになった家に唯一残っていた使用人が、食事を用意しながら教えてくれた。理由は予想通り「体調不良」だった。
「じゃあ、私もこれで失礼します」
使用人は食事の片付けを終えると、戸締まりを確かめ、自分の家へと帰って行った。
嘘のように誰もいない。
彼女にとってこの家は、元気な時に「家庭ごっこ」を楽しむための大きなドールハウス。デニスは夫役の人形なのだろうか。いや、もはや夫役でさえない、ただのエキストラなのかもしれない。金持ちの道楽に人生をかけて付き合わされているとしたらずいぶんなものだ。
それ以後もアメリアは何の予告もなく家にいて、何の伝言もなく実家に戻った。使用人達も皆それについて移動する。そんなことを何度か繰り返され、デニスは仕事帰りに家に明かりがついているのを見ると足が重くなった。暗くだだっ広い家に一人でいるのも虚しさが募るが、誰かが家にいる方が苦痛な状況…。今の自分の立場を思い知らされ、苦笑いが浮かんだ。
デニスは家に帰るのも面倒になり、夜勤でない時も騎士団の宿舎で寝泊まりするようになった。シーツ交換も毎日あるわけではなく、食費はかかったがずっと気楽だ。独身の頃のように仲間と飲み歩き、最後までつきあって潰れた連中を介抱したのはどれくらいぶりだろう。夜勤でもないのに急に呼び出されることもあったが、それも大して苦ではない。あんな家で一人で暇を持て余すよりずっとましだ。
家に戻らないことを契約違反だと言われようが、それはお互い様だ。理由は何にせよ、お互い別に暮らせる場所がある。妻の実家帰りは咎められず、自分の宿舎生活を咎めるのはフェアじゃない。
家にいる・いない、たったそれだけの伝言さえ必要のない「同居人」に、これ以上何かを求めるのはやめてほしかった。




