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初夜は一人で過ごしたが、翌朝になるとちゃんと使用人がいて朝食が用意されていた。忘れられてはいなかったようだ。味は悪くないが、広いダイニングで一人で食べる食事は何かが足りない。
使用人は通いで、家に常駐する者はいなかった。日によって夕食が不要な時もあったが、そんな日は誰もいない暗い家に自分で鍵を開けて入った。玄関には手持ちのランプが用意されていた。
騎士のデニスに護衛は不要だろうが、あまり裕福ではない実家でも貴族の屋敷に主人一人きりということはなかった。
夕食が必要な時は、朝言付けておけば用意される。部屋は広く、掃除は行き届き、備え付けの家具もいい物だったが、いつまで経ってもなじめない。清潔なのは快適と言えるのだろうが、多少部屋は汚れていても仲間がいて馬鹿騒ぎできたあの頃の方がずっとよかった。
二週間後、家に戻ると明かりが灯っていた。アメリアが昼間のうちに戻ってきたのだろうが、事前に何の連絡もなかった。
デニスが戻ったことにも気がつかず、いつものように自分でドアを開け、部屋に入った。
この家に来てから、こんなに人がいるのは初めてだった。ここはアメリアの家であり、使用人は皆アメリアのために働いているのだ。
遅れて執事が部屋に来たが、最初の言葉は
「申し訳ありません、お帰りでしたか…」
だった。
執事を見たのも結婚式以来だ。ずっとアメリアについていたのだろう。
「忙しいなら、向こうを優先してもらってかまわない」
デニスがそう言うと、頭を下げてさっさといなくなった。彼の主人はアメリアで、デニスのことは付録くらいに思っているのかもしれないが、気は回らず仕草も雑で、執事としては三流、見習い以下だ。
食事はいつもより遅く待たされたが、アメリアはダイニングに現れなかった。帰ってから挨拶もない。疲れが残っているのかと心配していたが、執事から
「デニス様のお戻りが遅かったので、お嬢様は先に食事を済まされ、就寝されました」
と聞かされた。
勝手に戻ってきて、挨拶もなく、自分のペースで飯を食い、寝てしまった妻。その理由は夫が遅いから。
それには
「ふーん」
としか言いようがなく、出された食事を詰め込むと、とっととダイニングを離れた。
食べ終わった食器は置いておけば片付けてくれる。風呂の湯は用意されている。シーツは交換されている。服の洗濯も手入れもしかり。
「ホテルとでも思って暮らせばいいか」
初めから期待はしていなかった新婚生活だが、この日一日でデニスはアメリアとは家族になることはないように思えた。
翌朝、朝食の時間にもアメリアは現れなかった。本当にこの家にいるのかさえ怪しい。また具合が悪くなって実家に帰ったんじゃないのかとも思ったが、使用人達の数からすればここにいるのだろう。食事さえ同席する気がないなら、いようといまいと変わりはしない。
デニスは食事を終えると、はねた髪のまま慌ただしく玄関にやってきた執事に
「見送りはいらない」
と声をかけ、一人で家を出た。
これなら一人の方が虚しさを知らない分ましだった。大きな家をもらおうと自分のものとは思えない。いい暮らしをさせてもらってはいるが、別に暮らしに困っていたわけでもなく、望んでいたわけでもない。人に養ってもらわなくても自分で働いて充分食っていけたのだ。
騎士団の同僚には玉の輿と冷やかす者もいたが、デニスの愚痴を聞けば嫉妬を哀れみに変える者も少なくなかった。




