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婚約してから休みの日には何度か伯爵邸を訪れたが、まともに顔を合わせたのは半年で三度ほどだった。約束した日に行っても急な発熱はざらで、見舞いがてら持ってきた花だけでも直接渡そうとしたが、「恥ずかしい」とやらで部屋に入れてはもらえなかった。
体調がいい時には応接室で話をしたが、それも三十分程度。笑顔でデニスを見る目は愛と言うよりは憧れに近いねちっこい何かを感じた。話題が切れて静まりかえってもずっと笑顔で見つめられるのは少し気味が悪かった。
自分なんかに一目惚れすることなどあるんだろうか。もしや、騎士団の他の奴の手柄をデニスと間違え、「やっぱり間違えでした」などと言われて突然なかったことにされるのではないか。ふとそんな考えがよぎったが、そんなことは起こらないままついに結婚式の日を迎えた。
結婚式当日も当人は遅れてやってきた。その日も体調が悪かったようだが、さすがに結婚式をすっぽかすことはなかった。
伯爵家と子爵家の婚姻でありながら、互いの親戚のみが参加する、こじんまりとした式。右側には父親、左側には新たに執事になる男がつき、アメリアを支えていた。そこまでしなければヴァージンロードも歩けないなら車椅子を使えばいいのだが、ドレスには立ち姿が似合うと思ったのだろうか。確かに美しいドレスだ。しかし父親と執事にしがみついて無理矢理立っている姿は、エスコートというよりは杖代わりで、見ていられなかった。
ようやくデニスの元にたどり着いたものの、一人で立っていられない。それぞれが誓いを立てるため、宣誓が終わるまでは触れないものだが、不安げな表情を見せる司祭をチラリと見やり、アメリアの腕を取り、自分の腕にしがみつかせた。緊張なのか体力の限界なのか、小刻みに震えているのがわかった。司祭も何も言わなかった。
司祭の宣誓の言葉にうなずき、指輪の交換をした。最後は誓いのキスを求められたが、どうにも唇を重ねるのさえ気の毒になり、来賓にはわからないように頬に口づけた。アメリアは少し驚いた顔をした後、はかなげな笑みと共に目を潤ませた。
デニスはアメリアを抱え上げ、花びらが舞う中、退場したが、アメリアは熱を出していて、執事の采配で新居ではなく慣れている実家に戻ることになった。
元々披露宴は用意されていなかった。こうなることを予見していたのだろうか。
残されたデニスは一人で新居に向かったが、使用人達はアメリアと共に伯爵家に行っていて誰もいなかった。
家にあった酒を一本拝借して自分の部屋らしき場所に行ったが、自分の服がクローゼットに入っていても自分の部屋とは思えなかった。
寂しいに近いが、寂しさとは違う感情が胸をよぎった。
この結婚は「アメリアお嬢様」のために作られた舞台で、自分は脇役に過ぎないのだ。




