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フォスター子爵家の三男デニスのもとに、ディクソン伯爵家の二女アメリアとの縁談が舞い込んできた。
街でひったくりにあった時にデニスに助けられたアメリアがデニスに恋をし、まだ決まった相手がいないなら是非前向きに検討してほしいとのことだった。
親が爵位持ちのおかげで騎士団に入りはしたが、王や貴族の警備担当は高位貴族の担当で、デニスはずっと外回りの警備をしていた。迷子の相手をし、ひったくりやすりを捕まえることなど珍しくなかったデニスは「お嬢様」が恋に落ちるようなエピソードなど覚えてはいなかった。
「ディクソン伯爵はこの結婚でお持ちの子爵位を譲ってくださるそうだ。持参金だけでなく、おまえの支度金も弾んでくださった。無骨な下っ端騎士のおまえにこんな良縁など二度とあり得んからな。絶対逃がすんじゃないぞ」
相手の素性もよくわからずあまり乗り気ではなかったが、父に言われるままその縁談を受けることにした。
婚約の手続きと顔合わせのため、デニスは父親と共に伯爵家に出向いた。
婚約者になるアメリアは小柄で幼く見えたが、もう十七歳は超えているとのことだった。この国では結婚できる年だ。幼い頃から体が弱いらしく、痩せて細い体は頼りなくはかなげだ。顔色をごまかすためかおしろいを塗りたくり、白すぎる顔は石膏でできた仮面のようにも見えた。
アメリアの体調を気遣い、顔合わせは十五分ほどで切り上げられ、あとはデニスと父親、ディクソン伯爵とで話を進めることになった。
譲られるのは子爵位だけで領地はなく、騎士は続けることにした。領地経営などできそうにもないのでかえって気楽だ。結婚後に住む家も家財道具も全て伯爵家でそろえてくれるという。アメリアのあの様子では家政を取り仕切るのも心許なく感じたが、執事も侍女も使用人も用意してくれる好条件だ。
「体の弱い娘を受け入れてもらうのだから、これくらいはさせてほしい」
娘の望む相手に嫁がせるため、金に糸目はつけない。伯爵の娘への溺愛ぶりを感じた。
この縁談を通して実家に金が入り、父は上機嫌だった。支度金といいながら、デニスには服を数枚新調するだけで残りは家の金になるのだろう。既に収入を当てにして買いつけたものもあるようだ。こうなると断ることなど許されない。
デニスは不安だった。
しがない子爵家の三男坊ならではの放任、それゆえの自由。自分の将来は自分で切り開き、それなりに恋愛の一つもして、心を通わせた人と結婚するものだと思っていた。今回の話は政略と言うほどではないが、恋愛結婚でもない。可愛い子ではあるが、顔見せさえ十数分しか参加できないほど体が弱くては、妻としてはお飾りになるしかないだろう。
帰りの馬車の中で思わず溜め息を漏らしたデニスに対し、父はにやけながらこう言った。
「あれだけ弱っていたら、そう長くはないだろう。それまでの間、ご令嬢に夢を見させてやれば、あとは爵位も家もおまえのものになるんだからな。くれぐれもお嬢様の機嫌を損ねないよう、うまくやるんだぞ」
父親の言葉は下品だったが、現実的ではあった。
家付き、爵位付き、使用人付きの妻。執事が有能なら家のことは任せて自分の仕事に専念できるし、妻の看病は使用人がする。それがいつまで続くのかはわからないが、長い人生を考えると、悪くない選択なのかもしれない。
これも運命だと諦めるしかないか。




