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血塗られた運命に抗うべく、俺はひたすら繰り返す  作者: 小麦粉
序章

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二人だけの教室 Ⅴ



 ーーーー5月7日木曜日 ()()()


 俺は命を落とした。

 間違いなくあの夜に死んだはずだ。


 心臓を抉られるようなとてつもない痛み。

 脳内に残り続ける殺人鬼の断末魔。

 全てが夢とはかけ離れた現実そのものだった。


 ――――俺は無意識の内に叫び声をあげていた。

 迫りくる死の恐怖によって錯乱状態に陥ってしまっていた。


「彰人!! しっかりしろって!!」

「離せっ!!!」


 笹野が必死になって俺の肩を揺さぶっている。

 と同時に、教師やクラスメートの唖然とした表情が教室一面に並んでいた。


(一体、何が起こったんだ……)


 俺はフラッと保健室に一人で向かう。


 階段の手すりに掴まりながらヨロヨロと進む。

 精神的にはかなり消耗しているが、肉体的な疲労はほとんど見受けられない。

 あれだけの深手を負ったにも拘わらず痛む箇所は一つもなく、まるで何事もなかったかのように傷痕すらも見当たらないのだ。


 ……身体が完全に治癒している。


 いや――――そうではない。

 まだ()()()()()()()()だけだ。


 もはや日付を改めて確認する必要すらない。

 五月七日の避難訓練直前の時間帯に戻ってきてしまった事態に驚くこともなくなった。


 俺は冷静になっていく頭をフル回転させる。

 今一度、()()()()した瞬間の出来事を思い返してみよう。




 ーーーー1回目


 ミカという少女によって時間遡行が行われた。

 時間遡行が始まる直前、手渡された水を飲み干して意識がなくなった。


 ーーーー2回目


 公園で睡眠を取った時、気が付いたら時間遡行が行われていた。


 ーーーー3回目


 正体不明の仮面の人物に斬り刻まれて意識を失い時間が勝手に巻き戻っていた。


 以上の事実関係を踏まえて一つだけ気付いた事がある。

 この三度の時間遡行において、全てに共通している点が存在する。

 それは、時間遡行が行われる際、必ず意識を失っているということ。


 三回目の時間遡行に関して言うならば、明らかに助かる見込みの薄い斬られ方をしている。

 あれだけの出血量で生きながらえるなど到底不可能だ。

 如何に早く現場に救急車が辿り着いたとしても手遅れなのは、攻撃を受けた俺が一番よく分かっている。


 これらの事実から、俺はただ一つの結論へと至った。




『ーーーー俺は全てのシーンで()()している……』




 時間を過去へと巻き戻し、改めて人生をやり直す。

 このような神でさえ躊躇するような権能を何の代償もなく行使できるはずがない。


 俺が今まで繰り返した時間遡行と呼べるモノは、自分自身の()()()()()()()する。

 ーーーーそう結論付けるしかないのだ。


 ミカは嘘を付いていた。

 決して許されない大きな嘘を。

 

 時間遡行の知られざる真実を確信した今、やはりあの女に話を聞く必要があるだろう。

 俺を毒殺してまで過去へと送り飛ばした理由をな。


 この力が何故俺に宿っているかは不明だが、少なくともミカの能力によって時間遡行を果たした訳じゃないのは明白。


「だって、2回目も3回目も……ミカは近くに居なかっただろ」


 心の内に怒りが込み上げてくる。

 見ず知らずの女の言葉を信じてしまったことを後悔するしかなかった。


 だけど、再び避難訓練まで戻ってこれたのはラッキーだったかもな。

 これで優月を助けることが出来るのだから。


 そろそろ三限目の授業が終わる時間だ。

 俺が保健室に来ようが来なかろうが、避難訓練は滞りなく行われる。

 この事象だけはどんな行動を取ろうと変わらない。


 であるならば……俺は二年Ⅽ組の教室で優月を待つだけだ。


『ジリリリリリリッ……』


 そのけたたましい音が鳴った瞬間、俺は猛ダッシュで自分の教室へと走った。

 客観的に見れば明らかにおかしな行動を取っている。

 なんせ、火事が起こっているのに思いっきり逆走しているのだからな。


「優月っ……!!」


 教室のドアを開くと、優月は教室で何かを探していた。


 全てを理解した今なら分かる。

 自ら命を絶つ覚悟を決め、胸に蟠った溢れんばかりの慟哭を無理やりに抑え込んだような表情だ。


 俺はふと優月の手に握られている()()に視線を落とす。

 今まではその探し物に意識が向かうことはなく、何を探しているのかよく分からなかった。


 最近の女子生徒はスクールバッグを可愛くデコる為にキーホルダーを付けていることが多い。

 優月はスクバから一つの()()()を取り外そうとしている。


 ーーーー唐突に過去の記憶が呼び起こされる。


 そのお守りには見覚えがあった。

 小学生の頃、親から譲り受けたお守りの片方だ。

 俺と優月のかけがえのない思い出の品。


 彼女に取ってそのお守りはーーーー何よりも()()()()()だった。


「そのお守り、ずっと持っててくれたんだな」

「覚えてて……くれたんだね……」


 彼女が自殺の前に教室へと戻ってきた理由。


 それはーーーースクバに付けていたお守りを取りに戻ってきたから。

 最後を迎える瞬間まで、俺たち二人を繋ぎ留める大切な宝物を握りしめていたかった。


 俺は自分が最低だと思った。

 幼い頃誓い合ったあの日の約束を忘れていたのだから。

 優月を助けると豪語しておきながら、俺は何一つとして彼女の真意を理解していなかった。


 情けない自分を無理やり奮い立たせる。

 俺は優月の手を半ば一方的に掴み校庭へと走った。


 お互い言葉を交わすことはない。

 今はただひたすらに皆がいる校庭へと向かうだけだ。


 この間、優月が抵抗する態度を見せることはなかった。


 まだ年端もいかない幼い頃、こうやって手を引っぱって遊んでたっけ。


 校庭では校長の話が既に始まろうとしていた。


 それぞれが背の順で並ぶ定位置へと進む。


「私を連れてってくれて……ありがとう……」

「また今度ゆっくり話そうね」


 五月七日木曜日に起こる惨劇は回避できた。

 残る課題は、俺自身が今日という日を乗り越える方法だ。


 ーーーー俺は仮面の殺人鬼の攻略方法を考える。



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