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血塗られた運命に抗うべく、俺はひたすら繰り返す  作者: 小麦粉
序章

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二人だけの教室 Ⅲ


 ーーーー2026年5月7日木曜日 三回目


 何度目を擦って確認してみても、日付は5月7日とチョークで書かれている。

 "7"の数字の書き方だって癖字で先っぽが跳ねているのも同じだ。


 同じ同じ同じ同じ……見慣れ過ぎた光景。

 唯一変わった事と言えば、俺の挙動不審な反応くらいだ。


「す、済みません。以後気を付けます」

「今日はヤケに素直じゃんか」


 俺の異変に気付いた笹野が声をかけてくれた。


「そ、そうかな……」

「お前最近ちょっと変だぞ。悩み事があるんだったら何でも俺に言ってくれて構わないからな」

「大丈夫……少し疲れてるだけだから」


 笹野が心配してくれるのは嬉しいが、とにかく状況を整理するのが最優先だ。


 俺の記憶が正しければ、まず間違いなく外の公園で眠りに着いたはず。

 時間を巻き戻す能力を持つミカという少女は、あの場に居なかった。

 と言うより、あの場に居る居ない以前の問題で、まだミカと会ってすらいない。


 一体何故……。

 何度試行錯誤を繰り返しても答えは見付からない。


 悩み過ぎて禿げそうになっても、時間だけは虚しく時を刻んでいく。


『皆さん、落ち着いて避難して下さい』


 もう聞き飽きた。

 三回目ともなると正直うんざりしてくるな。


 今回はスマホを忘れずに持っていく。

 もう前回みたいに教室に戻ってくる必要はない。

 明日の屋上で起きる悲惨な結末を阻止するだけで、優月を救うことが出来るからだ。

 重要なのは今日じゃない……明日の行動に全ての命運が掛かっている。


 俺は皆に釣られるように校庭へと足を運ぶ。


 避難訓練が始まってから一度も教室に戻らずに参加するのはこれが初めての経験だ。


 クラス毎に背の順で一列に並んでいる。

 俺はだいたい真ん中辺りに立っていて、笹野が二つ前に立っているので、やる気の無い小言が前方から聞こえてくる。


「あぁ〜眠い眠い……校長の長ったらしい話聞いてたら眠くなってきちまったよ」


 まぁ確かに話し方もゆっくりで眠くなるのは分かるけど、もう少し緊張感を持った方が……。


 ――――俺はこの時、ある違和感に襲われた。


 何かが抜け落ちている。

 その胸を抉るような強烈な違和感。


 いつも背の順で並ぶ時、無意識下で眺めていた後ろ姿がどこにも無い。

 真っ黒で綺麗な天使の輪っかを描く髪の毛の女子生徒…………そう、優月の姿がどこにも見当たらない。


 もう訓練が始まってから二十分は経った。

 何かしら忘れ物を取りに戻ったのは分かっているが、それにしても遅すぎやしないだろうか。


 避難訓練の為だけに呼ばれた消防士の説明が終わり、皆が教室へと戻っていく。

 ……が、やはり優月の姿はない。


 とてつもなく嫌な予感がした。


「まさかな……そんな事あるはずない……考えすぎだ」


 だけど、俺の足は自動的に屋上へと向かっていた。


 一階から二階へ……二階から三階へ。

 階を重ねる毎に心臓の鼓動が高まっていく。

 屋上の扉はもう目前だ。


『バタん――――』


 扉を勢いよく開け放って辺りを見渡すが、人の姿は見当たらない。


「はぁはぁはぁ……トイレにでも行ったのかな……」


 今頃教室で勉強でもしてるのだろう。

 どうやら俺の早とちりだったみたいだ――――。
















 そうやって自分自身に言い聞かせていた。


 だけど……俺の目に映り込む明らかな痕跡からは決して逃れることはできない。

 屋上の周りを囲んでいる安全柵が開かれ、小さ目の靴がきっちりと揃えて置かれている事実に――――。


 俺は恐る恐る屋上から下を覗き見る。


「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁああああ…………」


 地面に横たわる人間。

 大量の血を流し、見るに堪えない姿へと変わり果てた…………高山優月がそこには居た。


 俺は思わず吐き気を催し悶絶した。

 足元がおぼつかないままに学校の階段を下りる。


 一階の職員室前には既にたくさんの人が集まりごった返していた。

 ()()()の悪夢の再来。


 結果として――――優月の()()()()()()()()


 俺はどこか油断していたのかもしれない。

 他者の運命を自分なら変えられると勝手に思い上がっていた。


 自分の行動次第で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………この行為は決して良い結末だけとは限らない。


 今回俺が取った行動は間違っていた……ということになる。


 では一体何が間違っていたのだろう。

 一回目、二回目と何が違っていたのか。


 三回目の避難訓練において、俺は教室に戻らずにそのまま校庭へと向かっている。

 その僅かな行動の違いによって生まれた歪み。

 ある種の歴史の強制力によって、優月は命を失ってしまった。


 ――――そして、俺は一つの着想に至る。


 ()()()()()()()

 俺たちがタイムリミットまでの間、唯一訪れる邂逅の瞬間。


 避難訓練でしか起こり得ない無人と化すあの二人きりの空間こそが、優月の死を遅らせていたのだ。


 俺は改めて決意を固める。


「ごめん、また辛い思いをさせちゃったな。でも大丈夫……すぐにまた優月の生きてる世界に戻るから」


 夜になればミカと再び会うことができる。


 警察や救急車が駆け付け大騒ぎになっている校内を横目に、俺は優月が送られる予定の病院へと向かうのだった。



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