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血塗られた運命に抗うべく、俺はひたすら繰り返す  作者: 小麦粉
序章

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二人だけの教室 Ⅱ


 気まずい空気が教室を埋め尽くしている。


 やはり優月に理由を直接問いただして、無理矢理にでも思い留まってもらうのが一番手っ取り早いのかもしれない。


 だが、優月の気持ちはどうなる。

 ずっと思い悩んで足掻いて足掻いて、やっとの思いで心の底から出した結論だったら……。

 俺が他人の決めた人生にズカズカと土足で踏み入ってもいいのだろうか。


 優月を助けたい気持ちは本物だ。

 だけど、今の俺にはこれ以上彼女にかける言葉が何一つとして見つからない。


 せめて連絡先くらい交換しておいて……。


「あ、優月っ、待てって……!!」

「……」


 また軽く微笑んだ。

 だけど優月は俺の呼びかけに応じることはなく、そのまま教室を飛び出して廊下へと出て行ってしまった。


 完全に一人取り残された。

 俺はボーッと窓の外を眺める。

 校庭では生徒の皆が整列して消防士の話に耳を傾けている。


「消防士の話はもう聞いたからいいか……」


 俺はそのまま避難訓練には参加せず、自分の席で突っ伏して座っていた。


 二回目となる避難訓練も終わりを迎え、皆が続々と教室に帰ってくる。

 笹野が心配そうに俺を気づかって声をかけてくれていたが、今は返事をする元気がない。


 その後も時間だけが淡々と過ぎ去り、結局何も行動に移せぬまま下校の時刻となってしまった。


 タイムリミットは残り約二十四時間。

 何としてでも優月を説得する必要があるのだが、どう話せば自殺という最悪の選択肢を止められるのだろうか。


 今から体育倉庫とか学校の裏庭にでも呼び出して、もう一度二人きりで話をするか。

 ……いや、声をかけても絶対に来ないだろう。


 こうなったら明日の放課後に先回りでもしといて、屋上で待機するのがベストな気がする。

 優月の説得が難しいなら物理的に飛び降りを食い止めてしまえばいい。


 そう決断して、笹野と共に帰路に着くことにした。


「なぁ健斗、明日自分の大切な人が死ぬって分かってたらどうする?」

「は?! な、何だよいきなり」

「いや、もしもの話だよ」

「急にそんなこと言われてもなぁ……」

「そんなん分かりっこないよな」

「ま、俺だったら何が何でも止めると思うけど」

「……」

「今日の彰人なんか変だぞ。悩みがあるんだったら俺が相談に乗るぜ?」

「おぅ……いつもありがとな。ちょっと悪い夢を見て気がおかしくなってたのかも」

「まぁ人間そういう時もあるっしょ。んじゃ、また明日学校でなっ!!」

「はいよっ!」


 やはり持つべきものは友だな。

 笹野はチャランポランなところもあるけど、ここぞって時には頼りになる男だ。

 本気で理由を説明して解決策を考えてもらうのも有りかもしれない。


 俺は笹野と別れて自分の部屋へと帰ってきた。


 何やら風が吹き込んでカーテンが揺れている。

 デジャヴ?

 そりゃそうか……だって同じ歴史を繰り返してんだからな。

 サッと窓を閉める。


 ――――いや待て。


 今思い返してみると、そもそも朝に窓を開けたりする習慣はない。

 つまり、俺が登校した後に何者かがこの部屋に出入りしているということ。


 額から大量の冷や汗が噴き出してきた。


 急いで部屋中を隈なく調べたが、金品が盗まれた訳でもなく、荒らされた形跡もない。

 とりあえずほっと胸を撫でおろすも、何だか嫌な気配を感じる。

 何者かに見張られているような……そんな感覚。

 自分の生活しているこの空間が、いつもよりも不気味に感じてならない。

 周りから聞こえるちょっとしたラップ音にも敏感に反応してしまう。


 直感的にこの家に留まるのは危険すぎる……そう判断した俺は、急いで身支度を整え自転車で駆け出した。


「あのアパートからできるだけ離れよう」


 俺は少し離れた子供が遊ぶ小さな公園へと身を寄せることにした。

 ここなら仮に不審な人物が現れたとしても逃げることが可能だ。


 公園の端っこにシートを敷き、ひたすら待機する。

 たまに人が通りかかるたびに妙な緊張感に襲われて心臓の鼓動が早くなった。


 辺りが暗くなるに連れて、その人通りすらもなくなっていく。

 近くの河川敷から聞こえるカエルの鳴き声が、より一層恐怖心を掻き立てていた。


「全部、俺の考えすぎなのか……」


 ミカという謎の少女だって現実離れした存在だし……優月の件に関しても全て夢だったのかもしれない。


 色々考えすぎて今日は精神的に疲れた。


 俺は睡魔に抗うことが出来ず、公園内に設置してあるドカンの中で静かに眠りについた。
















 ……ふと目が覚めた。

 眠りから覚めた感覚とは違い、ハッキリとした意識を保っている。


 どうやら俺は明るい部屋の中にいるようだ。


 ん、大勢の前で何者かが話をしている?

 しかも俺に向かって注意を促しているような。


 俺の体は反射的にスマホを机の中に放り込んで、隠す素振りを開始していた。


『八神君、授業中なんだからスマホをいじるのはやめなさい』

『ハハハハハハっ………………』


 皆が先生から注意を受けている俺を見てケラケラと笑っている。

 俺にはその笑い声が悪魔の笑い声に聞こえていた。


「なんで……なんでまた……戻ってきた……」


 俺は意図せず再び過去に戻された現実に頭を抱えるしかなかった。




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