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血塗られた運命に抗うべく、俺はひたすら繰り返す  作者: 小麦粉
序章

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二人だけの教室 Ⅰ


 ミカの説明によると、これはタイムスリップではなく時間遡行(じかんそこう)と呼ぶらしい。

 アニメや漫画で出てくるようなタイムマシンとは違い、どの日時まで巻き戻るかを指定出来ないと言う。


 この説明を受けた時、とてつもない恐怖を感じた。

 何故なら、自分の産まれていない遥か昔の時代に巻き戻ってしまう可能性があるからだ。


 だが、この問題はすぐに解決する。

 俺自身と因果関係のあるターニングポイントにしか巻き戻ることはないらしい。

 少なくとも俺のまだ産まれていない時代に飛んだりはしないってだけでも安心感はある。

 飛ぶ時代によっては母親を救うことだって出来るかもしれない。


 不安を完全に拭うことはできないが、試してみないことには何も始まらないか。


 俺は意を決してミカに伝える。


「心の準備は出来た。時間を巻き戻してくれ」


 ミカはコクりと頷くと、水の入ったコップを用意してきた。

 一見何の変哲もないただの水だが、何か不思議な効力でもあるのだろうか。


「この水を一気に飲み干して」

「分かった」


 俺はコップの中の水を飲み干した。


 頭がクラクラして意識が遠のいていく。

 徐々に暗くなる視界の先で、祈りを捧げているミカの姿が目に映っていた。


 数秒後、頭の中が真っ白になると同時に周りの景色が一瞬で変わった。






 ――――見慣れた学校の教室。


 ついさっきまでミカと二人きりで過ごしていた自室から一変、騒がしくも明るい雰囲気に包まれていた。

 

 俺は黒板に書かれている日付を見た。


 ――――五月七日木曜日。

 間違いなくあの避難訓練が行われた日である。


「本当に戻ってきてしまった……」


 ミカの言っていたことが全て事実であったことを認識し、改めて彼女に感謝をしなければと思った。


 ふと、俺は廊下側の座席に意識を傾け、目線を徐々に優月の座る席に移動させる。


 正直見るのが怖い。

 もしも優月だけが消えていたらどうしよう。







「良かった、生きてる……!」


 普段と変わらず静かにノートにペンを走らせる優月の姿を確認し、心の底から安堵した。


 俺は改めて辺りを見渡す。

 今居る教室は、()()()に見た教室の情景と何一つ変化がない。

 友人との会話、授業内容、先生がチョークを落とす瞬間、全てがあの時と寸分違わず一致している。


 これから9日までに起きる事柄を認識している状態、言わば預言者にでもなった感覚だ。


 今は三限目の授業中。

 とにかく授業が終わり次第、優月に話を聞いてみるしかない。

 上手い具合に話が出来るといいが、いかんせん周りには他の生徒が大勢いる状況だ。


 どうにかして二人きりになれるタイミングがあればいいのだが……。


 そして、授業が終わりチャイムが鳴る。


 俺は即刻高山さんの席へと向かおうとしたが、いきなり火災報知機の警報が鳴り響いた。

 一瞬驚いたが、自分でも分かっていたはずだ。


 クラスの皆が次々に避難を開始する。

 そこへ笹野が声をかけてきた。


「早く逃げないと燃えちまうぞー!」


 一字一句変わらない冗談めいたセリフだ。


「おけ、さっさと避難しよう」


 正直言って避難訓練とかやってる時間すら惜しい。

 高山さんが命を散らせる最期の時まで一刻の猶予もないのだから。


 俺は仕方なく廊下へ出て避難を開始する。


「あ、スマホ置いてきちゃった」


 今更だが、火災が発生している最中に忘れ物を取りに戻るって自殺行為でしかないよな。


 俺は自分の席へと戻る。

 授業中にスマホを弄ってるところを注意されて、咄嗟に机の中に放り込んだまま忘れてた。


『――――ガラガラガラ』


 息を切らしながら何者かが教室に入ってくる。


「え、優月……!?」

「……?!」


 そうだった。

 全然驚くようなことでもない。

 歴史が一切変わらないのであれば、優月がこの教室に戻ってくるのは必然で、絶対に起こる事象の一つだから。


 避難訓練前の時間帯に時間遡行してきたのはただの偶然なんかじゃなく、俺たち二人を引き合わせる為だったのかもな。


 今この瞬間だけは、無人の教室に二人きりで面と向かって話すことが出来る。

 自殺を思い留まらせるには今を逃して他に無いだろう。

 

 俺は重苦しい沈黙を破って声をかけた。


「優月、話すのは久しぶりだね」

「うん……」

「小さい頃、よく二人で遊んだの覚えてる?」


 相変わらず表情が硬くて思ってることを表面に出さないけど、心なしか少しだけ微笑んだ気がする。


「もしかして、何か悩み事があったりする?」

「……」

「俺で良かったら話だけでも聞くからさ」

「悩み事なんて……ないよ……」

「そっか……なんか俺が協力出来ることがあれば手伝うから……」

「……」


 再び沈黙で満たされる教室。

 予想通りではあったが、やはり簡単に話してはくれないようだ。

 クラス替えをしてからの約一ヶ月間、ほとんど会話という会話をしてこなかったツケが今になって回ってきた。


 結局、優月は先に校庭へと向かってしまった。

 このままでは何も変わらない。


 俺は自分のスマホを手に取り、フォルダ内に保存していた遠い過去の写真を見ながら思い返す――――。


〜〜〜


 優月(ゆづき)とは同じ幼稚園に通う幼馴染だった。

 子供同士だけじゃなくて親同士も仲が良く、家族ぐるみで山にキャンプへ行ったこともある。


 住んでいる地域が近くだったから小学校も同じ学校に通っていた。


 当時はよく笑う女の子で親しみ易い優しい子って印象しかない。

 学校での評判も良く、とても人気のある生徒だった。


 中学に上がると同時に俺は母親の不幸によって祖母の家に引き取られることとなった。

 住み慣れた街を引っ越し、仲の良かった友達とも離れ離れに……優月とはそれっきり。


 中学時代、優月がどんな学校生活を送っていたのかは全く分からない。


 でも何でだろ……ここまで人は変わってしまうものなのだろうか。


 高校に入学した一年生の時点では、まさか優月が同じ高校に在籍しているとは思いもしなかった。


 そして二年に上がったばかりの初登校の日。

 ホームルームで皆が自己紹介をしていく中、聞き覚えのある名前を耳にする。


「高山優月です」


 自己紹介が始まるまで全く気付けなかった。

 俺の知っている数年前の優月とはまるで別人で、いつもニコニコ笑顔を振り撒いていた彼女の面影はもうそこにはなかった。


〜〜〜


 あれから一ヶ月経った今に至るまで、まともに会話をしていない。

 今更声をかけても優月にとっては迷惑なのかもな。



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