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血塗られた運命に抗うべく、俺はひたすら繰り返す  作者: 小麦粉
序章

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悲劇の始まり Ⅱ


「君は……?!」


 そこには神秘的なオーラを放つ女性が座っていた。

 いや、女性というよりは少女と表現した方が正しいだろうか。


「――お帰りなさい」


 無表情で感情がこもっていない挨拶だ。


「ただいま?」

「うん」

「君は誰?」

「私は……貴方を助けるためにここにきた」


 ???

 答えになっていない。


「助けるってどういうこと? それに君はまだ中学生くらいだよね? 早く家に帰らないと両親が心配するんじゃない?」

「……」


 何処か上の空で俺の質問に答えようとしない。


 うーん……謎すぎる。


 玄関に靴が置いていないことから、多分裸足で歩いてきたんだよな。

 だけど見た感じ、裸足の割には高そうな服とアクセサリーを身に付けているし、お金に困っているようにも見えない。


 もしかして迷子?

 ここら辺って自然が多いから、道に迷って偶然俺の部屋に上がり込んじゃったとか?


 いやいや、迷子だったらもっと動揺して俺に助けを求めてもいいはずだ。

 話し方だってヤケに落ち着いてるし、とても道に迷った少女とは思えない。


 そんな俺の心情を他所に――――突如として、少女は血の気が引くような悍ましい話を始めた。


















「二〇二六年五月八日金曜日……貴方のクラスメートである()()()()()()()()()()()()


 突然の話に困惑しつつも、すぐに反論を返した。


「何言ってんの……冗談でも言って良い事と悪い事があるだろ」


 一人の人間が死ぬなどと物騒なことを子供が口にするべきではない。


「……君は明日、その現実を目の当たりにする」

「揶揄うのはよしてくれ」

「君が諦めなければ必ず道は開かれる……どうか、未来を切り開いて……」


 そう言い残した少女はその場で横になり、ぐっすりと眠りに付いてしまった。


 諦めるも何も……そんな突拍子もない話を信じる道理がない。

 この少女の発言はただの妄想か何かだと思う。

 多分、アニメやドラマの見過ぎなんだろうな。


 既に時計の針は午後七時を回っている。

 こんな時間に一人で家に帰すのも危険か。

 それに警察に通報したとしても、この状況だと俺が疑われる可能性だって充分に考えられる。


「変な犯罪に巻き込まれなければいいが……」


 俺は、ぐっすりと寝息を立てて熟睡している謎めいた少女を運び、ベッドに寝かせてあげた。


「……仕方ない、今日は床で寝るしかないな」


 頭を悩ませているうちに、気付けばもう夜の十時を回っていた。

 普段はだいたいこのくらいの時間に就寝するのだが、今日は中々寝付くことができない。


 ふと、ベッドでぐっすりと眠っている謎の少女が気になった。

 あまり気乗りはしなかったが、どうにも気になって眠れないので上から観察してみた。


 透き通るような白い肌、銀色に輝く長い髪、見たこともないような珍しい服装。

 首と手首にはアクセサリーが付けられており、どこか高貴な風格を感じさせる装いだ。


「ほんとに何者なんだ……?」


 とまぁこれ以上続けるとあらぬ疑いがかけられる可能性もある為、観察はこの辺でやめておこう。


 俺は再び床に敷いてある布団の上で横になり、何とか眠りに着いた。






 ーーーー2024年5月9日金曜日。


 設定しておいたアラームが鳴り響く。

 体を起こすと昨日の少女がベットに座っていた。


 いつもと変わらない日常……ではないな。

 昨日は名前も知らない見ず知らずの少女を家に泊めたんだった。


 冷静になって考えてみると、この子の両親はかなりの心配をしているはずだ。

 さっさと家に帰してあげるためにも、先ずは彼女の家に連絡して事情を説明した方がいいだろう。


「自宅の電話番号分かる?」

「私に自宅と呼べる場所はないよ」


 今の比較的平和な日本において、完全に帰る場所がない子供など存在するのだろうか。

 まぁ親と喧嘩して帰りたくない……とか、そんな理由かもな。


 今日は平日で学校にも登校しなければならない。

 少女の事が心配ではあるが、留守番をしてもらうほかないだろう。

 幼い子供……と言う程でもないので、静かにアパートで待っていてもらおうか。


「俺、学校に行かなきゃだから、悪いけど大人しくしててね。もし自分で帰れる距離だったら早く帰った方がいいよ」


 少女は俺の言葉を無視しながら無言でベッドに座り、窓の外の景色を見続けている。


 そんな不思議な少女を横目に自宅を出ようとした時、少女が俺の制服を掴みながら声を掛けてきた。


「気を付けて……いってらっしゃい」


 何処か不安そうな顔をしているが……何のことはない。

 ただいつも通りに学校へ向かうだけである。


 外に出れば普段と何一つ変わらない。

 教室に到着してからの友人との談笑だって何も変わらない日常だ。


「ちょっとトイレ行ってくる」

「もうホームルーム始まるから早くした方がいいぞ」

「だな。急がないとまた遅刻扱いされるし」


 今日の朝は、目覚めてから何かと慌しかったので、トイレに行くのをすっかり忘れていた。


 俺は教室から廊下に出ようとした。

 いつもなら特に気に留めることもないのだが、廊下側の一番後ろの席に座っている生徒を見て、尿意が一気に吹き飛んでしまった。

 

 高山優月。

 元々静かで存在感の薄い女子だ。


 例の少女の話では、高山さんが今日命を落とすそうだが……まぁ普通に登校してるし生きている。


 念のため、授業中や休み時間に至るまで高山さんの行動を密かにチェックしていたけど、特段変わった様子もなく静かに過ごしている。


 はなから子供の戯言など信じていないが、やっぱり昨日の話はただの妄想だったらしい。


 そして授業も滞りなく終わる。

 帰りのホームルームの時間帯となり、皆が部活や帰宅の準備を始めていた。


 結局……何も起きなかったか。


 安心し切った俺は、笹野からの誘いに耳を傾けていた。


「今日暇だったら飯でも食いにいかね?」

「おけ、久しぶりに焼肉でも行こっか」

「誰か暇そうな奴他にも誘って、いっちょパァーッとやりますか!」

「んじゃ、同じ帰宅部仲間はっと……」


 俺は教室内を見渡した。


 一番前の席のアイツはいつも暇してるから誘っても大丈夫そうだな。

 あとは誰かいるかなぁ……。


 高山さんの座席に視線が移る。

 だけど――――そこに彼女の姿はなかった。


 一足先に帰ったのだろうか?

 にしても帰るのが早すぎる。

 ホームルームだって今終わったばかりだ。

 

 俺は近くの席の生徒に確認をしてみた。

 話を聞く限りでは、すごく急いでいるような感じでホームルームが終わるとすぐに教室を出たそうだ。


「悪い健斗、ちょっと用事思い出したから今日はパス」

「お、おぃっ! どうしたんだ?!」


 俺は笹野の制止も耳に入らず、すぐさま教室を抜け出して走った。


 ――――確信が欲しかった。

 高山さんが何事もなく家に帰ったという確信が。


 猛ダッシュで下駄箱へと向かうと、高山さんの靴がまだ入っている。

 つまりは、まだ校内に滞在しているということ。

 用事があって急いで帰ったんじゃなかったのか。


 俺は焦りを募らせる。

 周りが校内を疾走する俺を不思議そうに見ているが、そんなことはどうでもいい。

 今は高山さんの無事を確認することしか頭にない。


 その後も校内を転々と周り高山さんをひたすら探し回ったが、見付けることはできなかった。


「くそっ、何処に行っちまったんだ……!」


 呼吸を荒げながら途方に暮れていると、一名の教員が慌てて職員室へと走っていく。

 その教員は青ざめた顔色で、今にも泣きそうな表情を浮かべていたように見えた。


「これは、ただ事ではない……」


 俺は直感的にそう感じ、走り去っていった教員のあとを追いかけた。



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