死の真相 Ⅰ
世界に流れる生命の循環。
万物に等しく訪れる死。
――――これらは絶対的な法則で縛られており、抜け出すことは不可能だ。
だが、この世界には死という概念すらも超越する特殊な能力を持つ者が存在する。
それが――――『輪廻転生』の異能力を扱う『転生者』だ。
世界に危機が迫る時、この世に降臨して悲劇的な運命を塗り替える宿命を背負った特別な人間……。
と、こんな感じで、先日ミカから色々と教えてもらった訳だが……。
「俺って普通の高校生だったと思うけど」
まだいまいちピンとこない。
ただ、頭の悪い俺でも理解出来たこともある。
輪廻転生は人の運命を動かす力だ。
それ故、常に孤独が付き纏う。
俺が繰り返し経験した数多の思い出達は、俺の死と同時に掻き消されてしまうからだ。
「うん。普通ではないな」
今現在体験している校内の情景も、止まらない刻の中で当たり前に流れている歴史の一部に過ぎない。
だが、一個人として見たらどうだろう。
教室は相変わらず活気で溢れている。
皆があらゆる葛藤の中、日々の生活を過ごし、各々に課せられた試練を乗り越えながら生きている。
――――生きるとは、そう言うことだ。
神にも等しいこの力は、彼ら彼女らの苦労を水泡に帰す行為に他ならない。
自分だけが死ぬならまだ気が楽だ。
言ってしまえば、俺の死は他人の人生そのものを殺してしまう。
「だから俺は死なない。出来るだけ死なずに救う」
ま、難しいことは一旦置いといて……いずれにせよ優月を救うのは俺に課せられた使命だ。
キーとなる人物かどうかは然程重要じゃない。
俺は廊下側の座席にポツんと座る優月を確認した。
「とりあえず……また優月の顔が見れてホッとしたよ」
転生前に見た時よりも幾分か表情が和らいでいるように感じた。
誰と会話するでもなくひたすら読書に耽っている。
寡黙な優月の真意は非常に読み辛い。
放課後まで時間はたっぷりとある。
今は優月を信じて大人しく様子を見守ろうか。
授業中、教室移動、授業の合間の休み時間、昼休憩、帰りのホームルーム。
まるでストーカーのように監視を続ける。
ここまでの優月の行動は至って普通。
トイレだけは確認のしようがなかったが、特に何かが起きることもなくそのまま出てきたから問題ない。
瞬く間に時間は過ぎ去り下校の時刻となった。
優月は急ぎ気味に帰る支度をしている。
俺との約束を忘れてしまったのだろうか。
単に恥ずかしくなって逃げようとしてるだけ……?
それとも――――。
すぐに優月の元へと駆け寄ろうと試みたが、近くの席に座っている笹野に声をかけられた。
「今日暇だったら飯でも食いにいかね?」
確か、適当に誰か誘って焼肉でも食いに行こうって話だったと思うが。
俺は迷うことなく返答する。
「悪い、今日は用事があるからまた今度な!」
「お、おぅ……」
笹野は不思議そうな顔をするが、何かを察したような様子で先に帰っていった。
ここ最近笹野とまともに話をしていないような。
まぁ笹野からすれば、たった一日二日の出来事だから気にする必要もないか。
そう自分に言い聞かせて優月の席に視線を移した。
その瞬間、優月は足早に教室から出ていった。
「待てって!!」
俺はすぐにその後を追いかける。
今いる階は三階だ。
三階の廊下の端には屋上へと続く階段がある。
経路からして目的地は間違いなく屋上だ。
俺は階段の隅に隠れて様子を伺う。
優月が屋上の扉を開ける音が聞こえた。
「やっぱり俺のちっぽけな言葉じゃ響かなかったってことか……」
校内に緊張感が立ち込める。
こうなったら当初の作戦通り、物理的に無理やりにでも止めるしかない。
俺は覚悟を決めて屋上への突入を開始しようとしたのだが――――。
『…………』
『…………』
屋上内から声が聞こえてくる。
二人……。
これは人間同士の会話か?
俺は圧倒的な違和感を覚えた。
この場に優月以外の人間がいるはずない。
屋上から飛び降りようって覚悟を決めた人間が、誰かとお喋りするなんて考え辛い。
俺はバレないように屋上へ侵入した。
目の前には大きなタンクが置かれている。
このタンクの向こう側で誰かと誰かが会話をしているのは明らかだ。
声からして女性二名。
容姿は確認出来ない。
隠れて声さえ出さなければ俺の存在を気取られることもないのだが……。
(一体、何がどうなってる)
『…………』
『…………』
聞こえてくる声はただの雑談ではない。
一方は激しい剣幕で声を荒立たせ怒っている口調なのに対し、もう一方はひたすら下手に出て相手に謝罪をしているような構図だ。
何かしらトラブルが起きたと見るべきか。
――――いや、そうではない。
内容まで聞き取れないが、半ば一方的に優月が責め立てられている。
俺は一番最初の五月八日の記憶を思い返した。
あの時も優月は教室から急いで走り去った。
俺は最終的に職員室前で事の顛末を知ったに過ぎない。
(……過程が抜け落ちている)
そう。
俺は屋上に到着してから優月が転落するまでの間、何が起こっていたのかを知らない。
俺はあの時――――校内を探し回っていたからだ。
次第にヒートアップしていく女の罵声。
「優月が……危ない……」




