転生者と観測者 Ⅳ
俺は今まで起きた全ての出来事をミカに伝えた。
ミカ自身が凶悪な殺人鬼に殺されたであろう事実も全てだ。
「そう……もう一人の私は死んだのね。彰人をこの手で殺めたことへの代償、これも仕方のないことよ」
「なぁミカ、もう隠し事は無しにしてほしい。何も知らずに振り回されるのだけはゴメンだ」
ミカは深く頷き、時間遡行に関しての詳細とミカ自身について説明を始める。
「先ずは彰人の能力について、私が知り得る知識を教えるわ」
〜
俺の能力は輪廻転生。
自身が命を落とすと同時に一定の時間が巻き戻り転生を果たす。
この類まれな能力を持つ人間を『転生者』と呼び、この現象そのものを『輪廻転生』と呼ぶらしい。
一方のミカは、未来を観測する力を有する。
これから起こる世界の危機となり得る事象を見通し、キーとなる人物の死を感知出来る。
遥か遠い昔、天からの使者として地上に送り込まれ、長きに渡り代々受け継がれてきた特殊な能力者……それ即ち、観測者。
転生者と対をなす存在だとミカは言う。
〜
ここまで説明を受けたが、正直言ってまだ腑に落ちない点が俺にはあった。
「なんで優月を助ける?」
俺にとってはかけがえのない存在であっても、ミカにとっては赤の他人で助ける道理など無いはずだ。
俺を殺してまで彼女を助けなければならない理由を知りたい。
「彼女が世界のキーとなる存在だからよ」
「優月が? 俺も優月もごく普通の一般家庭に生まれた人間だと思うけど……」
「あくまでも私は観測者であって、優月さんがどのような出生なのかは分からないわ」
「まぁ幼馴染の俺ですら知らないから当然か」
「ただ、彰人も身をもって実感したと思うけど、この世界には長年秘匿され続けてきた異能の力を持つ人間が数多く存在しているわ」
「俺みたいな奴が他にうじゃうじゃいるのか?」
「転生者はこの世に一人しか存在しないけどね」
「マ、マジすか……俺って超特別な人間だったのね……」
「近いうちに異能力者に会えると思う……いいえ、必ず相見えるでしょうね」
とりあえず最低限の情報は得られた……のかな?
あとは明日の放課後に備えるしかない。
話し合いも終わった。
俺はミカが作った夕食を食べた後、すぐさまベッドに横たわる。
どうやら今回は床で寝る必要はないらしい。
何事もなく明日を迎えられるのか定かではないが、この五月七日というターニングポイントは、俺にとって一生忘れられない一日となるだろう。
「お休みなさい」
相変わらず表情が薄いな。
眠りへと入る前に、ミカが少しだけ微笑んだ……そんな気がした。
ーーーー二〇二六年五月八日金曜日 二回目
久方ぶりの朝がやってきた。
実際に経過した時間は一日にも満たないのに、実感としては一週間以上の刻の流れを味わった気分だ。
「ふぁぁ……こんなぐっすり眠ったのいつ以来かな」
「起きたのね」
「あ、朝ご飯作ってくれたんだ」
「こう見えて料理は得意なのよ」
昨日の夕食に引き続き朝食まで用意してくれるなんて……実は子持ちの主婦だったりするのかな?
まぁ見た目からしてお母さんって歳でもないと思うけど。
「てか、ミカって年齢いくつくらい……」
俺はミカの鋭い視線に威圧された。
面識の薄い女性に年齢を聞くのは御法度だったか。
「女の子には秘密の一つや二つくらい有るものよ」
「も、申し訳ございません!」
とりあえず、他愛無い雑談が成立する程度には精神が回復したんだと思う。
俺はスマホを開いて日付を確認する。
「五月八日金曜日……死んでない……ってことでいいんだよな」
ようやく元の世界線に戻ってこれた。
だが、ただ戻っただけじゃない。
当時との違いは明白だ。
今の俺と最初の俺とじゃ雲泥の差。
何一つ知らなかったあの時とは状況が大きく異なっている。
死を乗り越えたことで自信も付いた。
しかし、安心している余裕はない。
本来ミカが観測した優月の死は、五月八日であることを忘れてはならないからだ。
「それじゃ、行ってくる!」
「気を付けて……行ってらっしゃい!」
こうして俺は、避難訓練から始まった死のループを何とか潜り抜けられた。
――――だが、この一連の騒乱は物語のほんの序章に過ぎない。
俺は新たな第一歩を踏み出すべく、優月の待つ高天ヶ原高等学校へと歩みを進めるのだった。
一章 完




