表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血塗られた運命に抗うべく、俺はひたすら繰り返す  作者: 小麦粉
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

転生者と観測者 Ⅲ


 仮面の人物の行動には不可解な点が存在する。


 コンビニまで向かう道中から帰路に至るまで、ストーカーのように俺から着かず離れずの距離を保って追いかけてきている。

 単に俺の命を狙うだけなら、人気(ひとけ)の少ない今が絶好の機会だと言うのに、何故だか全然襲ってこないのだ。


 とは言え、相変わらず鋭い視線に晒されている状況は変わらない。

 奴が俺に対して明確な殺意を抱いているのは疑う余地もないが、何か近付けない理由でもあるのだろうか。


 なんにせよ俺としては好都合。

 この間にミカは自宅へと入り込めたはず。


 たった一時間にも満たない僅かな時間、仮面の人物をアパートから遠ざけたことによって意図せず活路を見出していたとは自分でも驚きだ。


「何事も初心が大切……か」


 俺は悪魔のような恐ろしい視線を感じつつも、無事にアパートへと戻ってこれた。


 難解だったパズルのピースが解け、ようやく一つの正解へと辿り着く。


 もう随分と長い間、五月七日木曜日を彷徨っていたように感じるな。


「お帰りなさい」


 聞き覚えのある声だ。

 引き摺り込まれるようにして自宅のリビングに足を踏み入れると、いつの日か見た光景に直面した。


 ……ま、また出会えた!


 そこに座っていたのは――――銀髪の謎めいた少女、ミカだった。


 再び巡ってきた邂逅にホッと胸を撫で下ろした反面、心の奥底から沸々と怒りの感情が溢れ出てくる。


 俺は挨拶一つ返さずにミカを問いただす。


「ミカ……お前は大きな嘘を付いた。何であの時本当のことを話さなかった」


 ミカは驚いた様子を見せたが、すぐに冷静な表情となって口を開く。


「君に会ったのは今日が初めてよ」


 考えてみれば当然だ。

 時間が巻き戻った際の記憶の消失は、ミカ自身も決して例外ではない。


 現時点でミカと俺は初対面。

 何も知らない彼女に対して感情のままに怒りをぶちまけるのは、些かお門違いかもな。


「俺は未来から来た。この意味……分かるよな?」


 俺が放った言葉を聞いても尚、ミカは至って冷静な態度を崩さなかった。


「君の言動を見て察しが付いたわ。何か現状を打開する方法は見付かったの?」


 ミカの上から目線とも取れる態度に、自分の中で膨れ上がっていた負の感情が爆発した。


「お前は人殺しだ」

「……」

「明日優月を助けられなければ、俺のことを毒薬で殺して過去に飛ばすつもりなんだろ」

「既に時間遡行の真実を知っているのね」

「そりゃ気付いたさ。ふざけんな……ここまで何回やり直したと思ってる……」


 ただひたすらに怒りの矛先をミカにぶつける。

 抗いようのない運命による複数回の死は、想像以上に俺の精神を蝕んでいた。


「私にとっても時間を巻き戻す行為は一種の賭けだったの……本当にごめんなさい」

「謝って許される問題じゃない」

()()()がどんな方法で君を殺めたのかはわからない……だけど、真実を悟られないように実行するつもりだったはずよ」


 あの時、俺は水を飲まされて意識を失った。

 気付いたら学校の教室にいるという常識では考えられない状況だった。

 確かにこれだけでは自分が死んだ事実に気付けないだろう。


 そもそも時間を渡り歩くこと自体が異常だからな。

 自分の死に気付く余裕など有るはずもない。


「お前が俺を利用しようがしまいが関係ない。俺は自分の意思で優月を悲惨な運命から解放してみせる」


 俺は俺なりに優月を説得したつもりだ。

 明日の放課後、優月が自殺という最悪の選択肢を手放す保証はどこにもない。


 これから先、ミカの不思議な力が必要となる場面が必ず出てくると思う。


 だからこそ、今まで体験した全ての出来事を包み隠さずミカに話した――――。




 話を聞き終えたミカは真っすぐに俺の目を見る。


「君の心に深い傷を負わせてしまった。だけど、これだけは覚えておいてほしい……私は君の味方よ」

「味方……その言葉を信用しろと?」

「君の能力は他人には決して理解できない」

「……」

「他の誰もが本当の君を知らなくても……私だけは知っている。君は孤独じゃない」


 突如として自分の心の奥底に隠していた寄る辺ない感情が襲いくる。

 強がっていたけど、本当は不安に押しつぶされる寸前だった。


「分かった。もう一度だけミカを信じてみるよ」


 俺は本当に弱っちい生き物だ。

 優しい言葉をかけられて泣きそうになってるくらいにな。


 と同時に、暖かな温もりが全身に伝わってくる。


「もう大丈夫、私が近くにいるから」


 俺はミカに抱きしめられた。

 俺と比べても全然小柄な体格なのに、聖母のような慈愛に満ちた深い包容力だ。


「もう一度君の名前、教えてもらえる?」

「彰人……俺の名前は八神彰人だ」

「私はミカ……世界を観測し、最善の未来へと導く者」


 今の俺に必要だったのは勇気や根性ではなく、純粋な安らぎだったのかもしれない。


 俺の心に芽生えていたミカへの怒りの感情は、完全に消え去っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ