第四話 「あまり深入りするな」
これをきっかけに、狩りの最中、今まで以上に周りを見るようになった。
ドラゴン様への食料を確保した上で、城のみんなも食事ができるように。そんな食料のことしか頭になかった俺が、城の外の人間たちにも目を向けるようになったのだ。
人の気配がする方へ行ってみれば、ネッドやメグのように骨が浮き出るほど痩せ細った子どもたちが沢山いる。
「あまり深入りするな」
ある時、親父がそう言った。
「なんでだよ!?」
納得ができなかった。城外の人たちを見るようになって気がついた。彼らに比べ、俺たちは城の中で恵まれた生活ができている。苦しんでいる彼らに手を差し伸べるべきだ。
「俺たちは今でもギリギリなんだ。食料を待っている城の者のためにも、俺たちは俺たちの仕事をせにゃならん。持ち帰る食料が減れば、ドラゴン様たちのあたりだって強くなる。何よりも城の者たちのことを考えるんだ」
「でも……」
「話は以上だ。分かったな?」
親父の言っていることは分かる。だから何も言い返すことができなかった。
だけど納得することも、できなかった。
城の中も外も関係なく、みんなが力を合わせれば、何かできることがあるかもしれないじゃなか。
そうは思っても、現実は変えられない。
俺にできるのは、親父たちの目を盗み、城外の人に水とほんの少しの食料を分けることくらいだった。メグとネッドに会えた日は、一緒に遊んでやることもあった。
彼らからの感謝の言葉は、俺の行動の正しさの証明だった。間違ったことはしていない。一方で、比例するように自分の中のもどかしさは増していった。もっと何かできることがあるのではないか。
「オリヴィアが怪我をしたそうよ!」
「大丈夫なのか!?」
急な知らせだった。
城での仕事が一段落し、大部屋でみんなの食事の準備を手伝っているときだった。入口の辺りが騒がしくなったと思ったら、そんな声が聞こえてきたのだ。
姿を見せたオリヴィアは、首に怪我をしており、苦痛に顔を歪めている。
今まで感じたこともない怒りが、込み上げてきた。
事のあらましを聞いてみると、何百年と人間の前に姿を見せなかったドラゴンの王様が現れたとのこと。
何故今なのか……。
ドラゴンの王様のことが気になっていたが、俺にできることもなく、ただ時間は過ぎていく。
今日もまた城外での狩りの時間だ。親父たちの目を盗み、近くに人はいないかと辺りを歩いて回る。
「お前がリアムか?」
「誰だ!?」
声のした方を振り向くと、そこには黒いローブを身にまとった集団が立っていた。ただならぬ雰囲気に、即座に剣を構える。
ドラゴン様であれば、わざわざ話しかけるようなことはしないだろう。ということは、こいつら人間か……?
「ドラゴンを殺すことができる。俺達と手を組もう。仲間は多いほうが良い。他の者も連れてくると良い」
「ドラゴン様を……殺す!?」
「ああ。気が向いたらいつでもここへ来い。あの木の枝の赤い布が目印だ」
それだけ言うと、黒いローブの集団は帰っていった。
何だったんだ……。ドラゴン様を……殺す……?
突然の出来事に、この日どうやって城に帰ったのか覚えていない。その晩はうまく寝付けず、日が昇ると早々にベッドを抜け出した。
心を落ち着けるために、一度外の空気を吸いたい。
そう思い、廊下を歩いているときだった。
廊下の前方にオリヴィアの姿が見えた。こんな早朝に何をしているのかと問えば、王様の部屋からの帰りだという。
一晩、共に過ごしたということか……?
鈍器で頭を殴られたような衝撃が走る。オリヴィアが何を言っているのか理解ができない。
オリヴィアが男とふたりで夜を明かした。
そのことで一瞬頭がいっぱいになり、気がつくとオリヴィアが怯えた眼差しでこちらを見ていた。
「……逃げるか?」
咄嗟に口をついて出た言葉だった。
頭の中でずっと警報音が鳴り響いている。これ以上、王様をオリヴィアに近づけさせてはいけない。そんな予感がしたのだ。




