第一話 「さすがリアム!」
いつからだっただろうか。俺がみんなの『理想のリアム』になったのは……。
物心ついたときには、隣にオリヴィアとマーヤがいた。歳の近い俺達は何をするにも一緒。いわゆる幼馴染だ。
俺達三人は十数年ぶりに生まれた子どもだったらしい。
城のみんなは血が繋がっていなくても、家族のように仲が良い。俺達は三人揃ってみんなに育てられた。仕事も一から教えてもらい、十五歳になる頃にはほとんど一人前になっていた。
何でも三人で一緒にやってきたが、この頃になると男女の差が出始める。俺は城の外へ行き、食料を調達する仕事を任されるようになっていった。
見たことのない城外の景色に内心胸を弾ませていたが、現実は俺の淡い期待を見事に打ち砕いた。
魔獣との戦いは常に危険と隣合わせ。俺より体が一回りも二回りも大きい大人たちが、命がけで食料の調達をしていた。
だが、大人たちは城へ帰ると、さっきまでの危険が何でもなかったかのように振る舞う。今日狩った魔物の自慢話しで、待っている女性陣を笑わせた。
俺は、親父たちが見えないところで、どれだけの苦労をしてきたのかを知ったのだった。
初めて魔獣と対面したときのことを思い出す。
魔獣がどのようなものか、何度も聞いていたし、どう戦えばよいのかも教えられていた。
それでも、いざ目の前に恐ろしい形相をした魔獣が現れると、恐怖から腰を抜かしてしまった。傍にいた大人たちは、そんな俺を守りながら戦ってくれた。
「はっはっは! まだリアムには早かったか!」
「そうだな! だけどな、俺達は城のもんを守らにゃならん。これから強くなるんだぞ!」
「今は俺たちが頑張るが、いずれがたが来る。そうなったとき、頼りになるのはお前なんだ、リアム。頼むぞ!」
親父たちの背中は頼もしく、憧れた。そんな人たちに『頼む』と言われたら、頑張るしかないと思った。
それから俺は体を鍛え始めた。少しでも早く、狩りで役に立てるようになりたかった。城内での仕事も率先してやるようになった。
「さすがリアム!」
「リアム、助かるわ!」
みんなの声は充実感をくれる。もっとみんなのために何かしたい。もっと期待に応えたい。俺がみんなを守るんだ。
ある日、食堂での配膳を終えた帰り道。
今日は火のドラゴン様と風のドラゴン様の機嫌が悪く、配膳するだけでも一苦労だった。食堂に入った瞬間から張り詰めた空気が体に刺さるようで、嫌な予感はしていた。
配膳を終えて下がろうとしたときだった。睨み合っていたふたりがついに喧嘩を始め、下がるに下がれなくなってしまったのだ。しかも、一緒に配膳をする予定だった人が体調を崩して、代われる人もいなかったから、俺はたったひとりでその場をやり過ごすしかなかった。
「はあ。とんだとばっちりだったな」
ふたりの怒りが収まった瞬間を逃さず、食堂をあとにした。ひとり歩いていると、無意識に弱音を吐いてしまう。そんな自分を戒めるように前を向き、背筋を伸ばした。
「早く中庭に向かわないと」
今日はマーヤのお母さんと、オリヴィアのお母さんに手伝って欲しいことがあると頼まれていた。ふたりが待っているであろう中庭へ足早に向かう。
「まったく! みんなリアムを頼りすぎ!」
中庭から俺の名前が聞こえ、思わず柱の影に隠れる。
今の声、オリヴィアか……?
「そのくらい私にだって、できるんだから!」
「え、ええ。そうだけど、力仕事だからリアムにって思って」
「お母さんもおばさんも、みんなリアムに頼りすぎだよ? リアムだってまだ子どもなの! 私とマーヤと同じ!」
「そ、そうよね……頼りになるからつい……」
「リアムに何か頼むなら、その前に私に言って! たまにはリアムだって息抜きが必要よ」
オリヴィアの言葉を聞いて、少しだけ体が軽くなったような気がした。ふわっとしたような、何かが込み上げてくるような……。
俺はいつの間にか下を向いていた。視界に入る地面に、小さな丸いシミがひとつ、ふたつと増えていく。
あれ……。
頬に触れ、その手を見ると濡れている。
俺、泣いているんだ……。




