第十七話 「……疲れちゃったんだよ」
結局、夕食は持って来てもらい、家で食べることになった。目を覚ましたドラゴン・カーラを囲んでの食事だ。
「美味しい!」
「そうだろー!」
出されたご飯をついさっき腕をなくしたとは思えない勢いで食べるカーラと、何故か自慢気なローマン。雑談を交えつつ、各々が食事を進める中、ノアが重たい口を開いた。
「何故追われていたのか、教えてくれるか」
「は、はい……」
カーラは一度手を止め、思い出すように話始めた。
ある日のことだった。群れで過ごすカーラたちは、慌てた様子のドラゴンと出くわした。そのドラゴン曰く、この近くでドラゴンが殺されたのだという。しかも人間によって。
興味本位で現場の近くまで出向いてみたカーラたちだったが、既に遺体は移動された後だった。代わりに調査をしているのであろう、ローマンやリリーを遠目に見かけた。
人間に同族が殺されたということに驚きはしたが、その事実も、調査をしている城のドラゴンたちも、カーラはどこか自分には関係のない、遠い世界の話のように感じていた。
それは、自分が人間程度に殺されるはずがないという自負と、群れでいることによる安心感から来るものだったのかもしれない。
そうして迎えた今日、それらの油断は仇となった。
集団で襲ってきた人間相手に、逃げるという選択肢は一切カーラたちの頭に浮かばなかった。今まで通り、赤子の手をひねるが如く、蹴散らそうと思った。
それはカーラだけでなく、群れ全員の総意だった。
だけども、そんな考えとは裏腹に周到に準備してきた人間相手に、カーラたちは手も足も出なかったのだ。
反撃する間もなくペイルダストを嗅がされ、動けなくなった仲間たちが順に殺されていく。
殺される順が最後だったカーラ。目の前に人間たちが迫ってきたとき、自分が体を動かせるようになっていたことに気がついた。仲間たちがやられている間に、ペイルダストの効果が少しずつ薄れていったようだった。
こうして命からがら逃げ出したところで、ノアたち一行に出くわしたのだ。
「お前はなにぶん回復力が人一倍高い。腕一本取れたら、いかにドラゴンと言えど、二三日は寝込むものさ。それが、こんな元気に飯を食ってるんだからね。きっとその回復力のおかげで、ペイルダストの効果もすぐに切れたんだろう」
よく頑張った、と老婆が優しい目つきでカーラを見ていた。その眼差しに、カーラの目にはうっすら涙が浮かんでいたが、それをぐっと堪え、カーラは話しだした。
「そういえば……人間たちが言っていました。どれだけ殺せば王が出てくるのかと」
「舐められたもんだな」
口いっぱいに食べ物を詰め込んだローマンが言った。目つきが鋭く、人間の台詞が気に障ったようだ。
「こうしている間にも同胞たちが……早く行かないと!」
リリーは焦燥感を滲ませながら、立ち上がった。
「落ち着け馬鹿もん」
「でも……!!」
老婆はリリーを止めた後、ノアの方へと向き直った。
「人間とドラゴンの戦争は何度目かな。この腕もそんときのもんさ」
老婆がマントの上から、左腕があった場所を押さえる。
「あんときは馬鹿な男に助けられて……それが今は立派な村に成長した」
老婆は過去を懐かしむように言った。
「どうして……手を取り合えるのに……この村から広がらなかったの?」
黙って話を聞いていたオリヴィアが口を開き、老婆を真っ直ぐに見つめる。
「この村から訴えれば!」
「……疲れちゃったんだよ」
オリヴィアの問に答えたのは、グレタだった。その表情は苦痛に歪んでいる。
「昔はな、共存できることを世界に伝えるんだって、よく若い奴らが村を出てったものさ」
グレタは、唇を噛み締めながら続ける。
「でもね……みんな、裏切られて帰ってくるんだ。ドラゴンの子たちは、恐怖の対象として攻撃を受ける。人間の子たちは、裏切り者だと罵られる……帰ってこなかった子たちもいるんだ」
震えながら話すグレタを見て、オリヴィアはそれ以上何も言うことができなかった。
「事情も知らずにごめんなさい……ただ、この村のように……みなさんのような素敵な関係が広まればって……そう思わずにはいられないんです」
オリヴィアの想いを聞き、ノアは強く拳を握りしめた。
「そうだな……俺はまだ何をしたら良いのか分からない。だがこの村で過ごして、手を取り合うことの大切さは学んだ。だから……俺は城に戻って話す」
「話す?」
老婆が思わずノアの言葉を繰り返した。
「ああ、話す。暴力はなしだ」
「たとえお前さんたちが攻撃せずとも、相手さんは容赦してくれない。聞く耳さえ持ってもらえないだろうさ」
「……必要最低限、身は守る。だが、殺しはしない」
ノアから具体的な解決策は出てこない。ただひたすらに『話す』の一点張りだった。
「ははははははは! 出した答えはそれだけかい?」
重たい空気の中、老婆が突然大声を上げて笑い出した。一同が何事かと老婆を見つめる。
「いや、確かに。歴代のドラゴンの王の中で、人間と話そうとした奴なんていなかったからな! 当たって砕けりゃいいさ!」
「砕けたら帰ってこれないだろう」
大真面目に答えるノアに、老婆の笑いは一層高まった。
「歳のせいかね。小難しく考えすぎてたのかもしれん。ペイルダストとキメラの牙の対策はしっかりやっていくんだよ!」
未だに笑いが収まらない老婆は、愉快そうに部屋から出ていった。




