第十六話 「それで? これからどうするんだい? 後悔なんて誰でもできる」
村に帰還すると、村人たちが一行を迎えてくれたが、ひどい怪我を負った女性に気がつくと大慌てで救護を開始した。
気を失っていたノアを寝かせていたあの家に、深手の女性を運ぶ。部屋には既に老婆が待機していた。
「キメラの牙でやられたようだ。どうにかできるか?」
ノアが老婆に聞く。老婆はベッドに寝かされた女性を見つめたまま何も答えない。
そのまま、ゆっくりと女性に近づいていった。
「助かる方法はある。たったひとつだけな。耐え難い痛みに加え、失うものがある。が、命は助かるだろう」
女性は玉のような汗を額に浮かべながら、応えるように老婆に強い眼差しを返した。
「ハァハァハァ……命が助かるのなら……何でも耐えてみせるっ!」
「いい覚悟だ。グレタ! 腕を押さえな! お前らも舌を噛ませないようにしろ!」
老婆がその場の者にてきぱきと指示を出し、治療の準備をする。グレタは持ってきていた清潔な布を、リュカに渡した。リュカは一度頷き、布を女性に咥えさせる。
「あんたたちも暴れないよう押さえてな!」
突っ立ったままのリリー、ローマン、ノアにも、グレタからの指示が飛ぶ。三人はベッドの両脇に移動し、女性の腕と足を押さえつけた。
「オリヴィア! あんたたちは外に!」
ノアたちと一緒に女性の傍にいたかったオリヴィアだが、横に立って怯えているネッドの手を取ると、家の外へ向かった。
「いくぞ」
老婆はその一言とともに、纏っていたマントを脱ぎ捨てた。
初めて見る老婆の全身に、ノアたちは唖然とする。
マントの下に当然あるものと思っていたものが無かったのだ――老婆の左腕が。
老婆は右手で器用に短剣を取り出すと、女性の腕の付け根あたりで構えた。周囲にいる者たちに、視線で合図を送る。
ノアたちは老婆の左腕が気になっていたが、今は目の前で苦しむ女性に集中した。
最後に老婆は、女性と目を合わせた。
「ンンンンンンン!!」
短剣が、女性の腕に深く突き刺さる。
噛まされた布越しに漏れる悲鳴は、外で待機するオリヴィアたちにまで聞こえるほどだった。
ネッドが不安そうに、オリヴィアを見上げる。オリヴィアは無言で、ネッドを抱きしめるのだった。
女性の悲鳴が聞こえなくなって、少し経つとグレタが扉から現れた。オリヴィアを見つけると、中に入るようにと扉を開けたまま促す。
オリヴィアが部屋に入ると、疲れ切った表情のドラゴンたちと、上半身を包帯で巻かれた女性が目に入った。
「腕が……」
女性の傍に駆け寄ったオリヴィアから、小さな声が漏れる。怪我を負い、石化の始まっていた腕が丸ごと失くなっているのだ。
「よく耐えたもんだ」
オリヴィアの隣に立った老婆が言った。
「どうしてこんなことに……」
オリヴィアの問いに、誰からも返事は無い。
「俺のせいだ」
沈黙を破ったのはノアだった。
「あの枯れた土地も、飢えた子どもも。傷つけられた同胞たちも」
ノアの言葉を否定できる者はいなかった。リリーでさえ、内心では違うと叫びたかったが、この村での出来事を思い返すとどうしても口を開くことができなかった。
「この千年間、城の外のことなんて知らなかった。見向きもしなかった。ようやく目を向けたらこのざまだ……王が聞いてあきれるな」
自嘲気味に笑いながら言ったノア。
「ノア……」
俯くノアにオリヴィアはそっと寄り添った。
「それで? これからどうするんだい? 後悔なんて誰でもできる」
「どう……する……」
ノアは考え込むが、答えが出せない。部屋が静寂に包まれる。
「さっ!」
グレタがパンっと手を叩きながら、突然声をあげた。
「やっと落ち着いたってとこなのに、村長もそりゃないよ! まずは休んで食べる!! それからみんなで考えりゃ良いじゃないか!」
グレタの一言で、部屋の空気がパッと変わる。
ぐぅ〜〜
誰かの腹の虫まで鳴り出す始末だった。
「そいつの言う通りだ! 俺、腹減ったし、飯にしようぜ!」
「ちょっと! あんたには緊張感ってものがないのよ……」
まだ影を残しつつではあったが、みんな少しずつ笑顔を見せはじめた。
「ん……」
夕食へ向かうため、一同が部屋を出ようとしたときだった。その騒がしさのせいか、寝ていた女性が目を覚ました。
「大丈夫ですか!」
オリヴィアが一目散に女性に駆け寄った。他の者も、オリヴィアの後を追う。
「私……生きてる……」
「よく頑張ったね。腕一本失くなって、すぐ起きちまうなんて。たいしたもんだよ」




