第十一話 「あなたと一緒に考えたいの。私たちにできることを」
「ほら、朝食作るんでしょ! 行くわよ!」
リリーはふたりの姿を見ていられず、その場から逃げるように歩き出した。その後ろを、親子と黒髪のドラゴンがついていく。
てっきりリリーが何か言ってくると思っていたノアとオリヴィアは、ふたりで顔を見合わせるのだった。
「あんたらも手伝いな!」
グレタに言われ、ノアとオリヴィアも朝食作りの手伝いへと向かう。
調理場に着くと、すでに何人かの村人たちが支度を始めていた。
オリヴィアはすぐに人手の足りていなさそうな、食器洗いを手伝い始めた。昨晩使ったものが山積みになっているが、オリヴィアは慣れた手つきで、その山を減らしていく。
一方のドラゴンたちは各々任された仕事に悪戦苦闘していた。
果物を切るのを任されたリリーは、力加減を誤り、果物とともにまな板まで真っ二つに。火にかけている鍋を混ぜるよう言われたノアは、具材を焦がしてしまった。ローマンはというと、相変わらず気持ちよさそうに眠っている。
何だかんだとありながらも、無事に朝食の準備ができた。寝ていた村人たちも起こし、宴会した広場にみんなが集合する。
「「いただきます」」
全員揃って、朝食の時間だ。
「このパンふわっふわだわ!」
「ああ、美味しいな」
病み上がりのノアも、オリヴィアと一緒にしっかり朝食を食べていた。
村人たちと談笑しながら朝食は進み、あらかた食べ終えた頃。
「さて。本題に入ろうか、客人たちよ」
老婆が真剣な眼差しで言うと、全員の表情が引き締まった。
「これからどうする」
老婆の視線はノアへと向けられている。
「城へ行く。俺のせいで犠牲になった者がいるんだ。助けに行く」
ノアは力強い視線で、老婆を見つめ返していた。
「そんな状態で、助けに行けるのかい」
老婆の問にノアは言葉を詰まらせる。
「はあ、昨日言っただろう。まず周りを見るんだ。現状を知り、状況を把握しろ」
「それこそどうやって……」
視線を落としたノアが言った。ずっと王城内で過ごしてきたノアに、現状を知る術なんて分からないのだ。
「リュカ」
老婆に呼ばれて立ち上がったのは、あの黒髪のドラゴンだった。リュカを指しながら、老婆が続ける。
「こいつがお前さんを城付近まで連れて行ってくれる。自分の目で見て、判断しろ。お前さんが何をすべきなのか。何ができるのか」
ノアは老婆とリュカを交互に見てから言った。
「ああ。ありがとう」
オリヴィアは、ノアの目に決意の色を見ていた。
ノアがリュカの方を向く。
「案内頼む」
「お任せ下さい」
朝食をすでに終えていたノアは、早速行こうと立ち上がる。
もちろんこれに黙っていない者がいた。
「おいおい、そりゃねーぜ。俺も連れていけよ」
「ついさっきまで寝てたやつが何言ってるのよ! 王、私をお連れください!」
ローマンとリリーだ。
王に仕える者としての誇りから、黙っていられるはずもなかった。
私が、俺が、と取っ組み合いが始まる。
「誰も止めやしない。行きたきゃ一緒に行きな。騒がしい」
老婆の一声で、ぴたりと喧嘩が止まる。ふたりは掴み合っていた手を離し、乱れた身なりを整える。
ドラゴン四人が視線を交わし、出発の気配が漂ったとき。
「待って下さい!」
このやり取りの間、終始黙っていたオリヴィアが声をあげた。
「私も……私も連れて行って下さい!」
オリヴィアが勇気を振り絞って言った。
「ダメだ」
ノアが即答した。
「外では何が起こるか分からない。ここが一番安全だ」
ノアの言っていることは分かる。だけど……。
「私はリアムの異変に気づいていたけど、何もできなかった……あんなことが起きるまで。人間とドラゴンがすれ違っている……この村みたいに共存できるはずなのに。だから私も知らないといけない。理解したい。ノア……あなたと一緒に考えたいの。私たちにできることを」
オリヴィアの真っ直ぐな視線がノアに向けられる。
ノアは何も言わず、片手で顔を覆った。隙間から口角が上がっているのが分かる。
「……ったく。俺の傍を離れるなよ」
「ありがとう、ノア!!」
老婆は何も言わず、ただふたりを見守っていた。特に異論は無いようだ。
少し離れたところでは……。
「お嬢ちゃんがついてくるのに、何も言わないのか? 体調でも悪いんじゃねーの?」
「うっさいわね! 行くわよ」
リリーはローマンをおいて、歩き出した。
「それでは、参りましょうか」
リュカを先頭に、一行は村の出口へと向かうのだった。




