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第七話 「こいつは俺がもらう」

 +++



 暗闇の中に女性がひとり。


 オリヴィア……?


 後ろ姿のまま、その女性は歩いていってしまう。


 待ってくれ! オリヴィア!


 必死にもがくようにして足を動かす。

 泥の上を走っているのかと思うほど足が重い。


 やっと女性に追いつくことができた。


 呼吸が苦しい。


 手を伸ばし、女性の肩に手をかけ振り向かせる。


「また私を助けられなかったわね」


 血まみれのイザベルが恨めしそうにこちらを睨みつけていた。


「こいつは俺がもらう」


 どこからともなく現れた黒い影。いや、ローブに身を包んだ男。

 男がローブを大きく翻したかと思うと、イザベルの姿が消えていた。


 イザベルが奪われた。


「イザベル!」

「こいつは俺がもらう」


 もう一度そう言った男の腕の中には――



「オリヴィア……!!」


 ひどく息を荒げながら、ノアは目を覚ました。息がうまく吸い込めない。天井に向けて伸ばされた手は虚しく空を掴んでいた。


「なんだい。起きたのかね」


 声をした方を見ると、そこには老婆が立っていた。


「誰だ」


 ノアは即座に体を起こし、老婆を睨みつける。勢いよく起き上がったことで、目眩がしたが相手にそれを悟られないようにと耐えた。


「はあ。恩人に向かってなんだいその態度は」


 恩人……。


 ノアは、途切れ途切れの記憶から自分が助けられたことを思い出す。


「ドラゴンか」


 視線を老婆に戻し、その瞳が金色であることにノアは気がついた。


「オリヴィアはどこだ。一緒に居た他のやつらも」


 次にノアの頭に浮かんだのは、自分と一緒に居たオリヴィアたちのことだった。


「みんな無事だよ。その顔色ならもう歩けるだろ。様子を見に行くかい?」


 老婆の提案にノアは頷き、ベッドから降りる。まだ全身の倦怠感は残っているが、歩けないほどのものではなかった。

 ゆっくりとした歩調で部屋を横切り、ドアの前へと辿り着く。そして、ノアはドアノブを回した。


 ドアが開くと、様々なものが一気に部屋の中へと流れ込んできた。新鮮な空気。気持ちの良い爽やかな風。ふんわりと甘みを感じさせる花の香り。どこか遠くから聞こえる楽しげな笑い声。


 ノアは思わず目を瞑っていた。それは顔にあたる風のせいでもあり、久しぶりに浴びる太陽の光のせいでもあった。そしてゆっくりと瞼を開ける。


 そこには自然豊かな木々の向こうに消えゆく夕焼けと、遠くで何やら楽しげに走っている子どもたちがいた。


「ノア!!」

「オリヴィア!!」


 ノアの目にはもうオリヴィアしか映っていなかった。

 倦怠感も忘れ、オリヴィアに向かって走り出す。


 オリヴィアもノアのもとへと駆けてくる。

 お互いの存在を確かめ合うように、ふたりは強く抱きしめ合うのだった。

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